はじめは両親だった。

 私は小さい頃は体が弱くていっつもかまってくれたお母さんとお父さん。遊びとかにもよく連れて行ってもらって、ピクニックとか、遊園地とか色々なところに行って楽しかった。

 大好きだった。毎日楽しくて、満たされていた。

 でも、小学校の半ばくらいから仕事が忙しくなったとかでほとんどかまってもらえなくなって、家の家事を任されてほとんど友達とも遊べなくなった。いつからか、クラスの友達には付き合いの悪い子って思われるようになって、友達の数も少なくなっていった。

 恨んだ。親のことを、放課後も休みも拘束されるようになって、私は一人になった。親からは何にも見返りはなかった。私は一人なのに、報酬はなんにもなかった。

 そんなときに優しくしてくれたのがお姉ちゃんだった。朝の通学班で話すのがほとんどだったけど、たまに手伝いに来てくれたり、一緒に遊んでくれたり、優しくしてくれて、想ってくれて、一緒にいられることがすごく嬉しかった。

 でも、お姉ちゃんが中学生になって小学校でも、中学校でも……寂しくて悲しくてたまらなくて、だからお姉ちゃんと同じ学校を選んで、お姉ちゃんを追いかけて、そしてお姉ちゃんが……好きだって言ってくれた。

 嬉しかった。

 私を想ってくれる人と一緒にいられるのが、好きだって言ってくれる人と一緒にいられるのは何より嬉しくって楽しかった。

 満ち溢れていた。

 でも、それは私の目の前で音を立てて崩れた。

 そしてわかった。

 私を好きになってくれる人なんていないんだって。そんな言葉があったとしてもそれは虚妄なんだって。本当に私のことを想ってくれて、私を一番だなんて想ってくれる人はいないんだって。

 好きだなんていってくれても、どうせ、みんな離れていく。私のことなんてどうでもよくなっちゃう。

 だったら、もういらない。

 私を好きだなんていう人はいらない。

 そんなのはどうせ、一時的なもので本当に私のことを好きになったりなんてしないんだから。

 私を好きな人なんて私は、いらないっ!

 

 

 さわやかな朝、肌寒くなった外の空気の中眩しいほどの陽の光が暖かい。普通の人ならばこの満たされた空気の中を歩いているだけでやる気でも出てきそうだけど、今の私じゃどんなことだってくだらなく感じる。

「…おはよう」

 教室に入るとすぐに神坂さんが目の前まで来て、挨拶をしてきた。

「…………………」

 私は一瞥することもなく、机に向かってそのまま神坂さんがいない方向に頭を向けた。

 ざわざわ。

朝の喧騒が耳に響く。うるさい、やかましい、耳障り。他の人が笑顔で何かを話したりしているのがうとましてくしょうがない。

(朝っぱらから騒がないで)

「菜柚、おはよう」

「おはよ」

 近所の机にいる子が挨拶をしてきた。私もそれに普通に答えて、適当に談笑をする。周りのことをうるさいとは思うけど、別にクラスで孤立してるわけでもまったく友達がいないわけでもないから私だってこんな風に話したりはする。

 一応の人との関係があるから私のことを好きだなんて頭のおかしいことをいう神坂さんがいようとも学校に来てるのかな?

 もっともまったく話なんてしてもいないけど。話をしていないというよりは、ほとんどいないものとして扱ってる。

 神坂さんは、毎日挨拶もしてくるし、私がどこか行こうとするとついてきたりもする。でも、その度に無視をしてる。

 しばらくはそうするかもしれないけど、こうやって無視してればそのうち諦めるよね? どうせ私のこと好きだなんて一時の気の迷いみたいなものなんでしょ? 

 ……どうせ、ね。

「そういえば、神坂さんと喧嘩でもした? 最近は全然話してるのみないけど」

「べっつに、っていうか友達でもなかったし」

 いきなりピンポイントで考えごとをしてたことを言われて少し驚く。もしかしたら、教室に入ってきたときのを見られてたのかもしれない。

「ふぅん、結構仲良さそうにも見えたのにね。何をされたかは知んないけど、仲直りできるならしといたほうがいんじゃない?」

「……だから、別に」

 何を言われたのかも知らないんなら黙ってて!

 この子は軽い気持ちでクラスメイトのことを心配しているのかもしれないけど、こんなこと言われるの今の私には迷惑でたまらなかった。

 

 

 このまま無視し続ければそう遠くない内に諦める。神坂さんの気持ちなんてそんなに長持ちするはずがない。

 そう、思っていた。

「菜柚、どこにいくの?」

「……………」

「菜柚、今日委員会が……」

「……………」

「菜柚、一緒に……帰らない?」

「……………」

 菜柚、

 ナユ、

 なゆ!

 私は神坂さんの常軌を逸した想いを甘くみてたみたい。日がたっても、私に無視され続けても、神坂さんは懲りずに私に迫ってきた。

 あの告白の日に、もう近寄らないでって言ったのに、こんなにも無視し続けてるのに、なのに神坂さんは私に話しかけてくる。せまってくる。

 次第にそのことにも気づいてくるクラスメイトが出てきて、ただでさえ居心地のよくない学校がなおさらいやになってくる。

 もう一回神坂さんにはっきり言ったほうがいいのかな? あのときは神坂さんの頭が働いてなくてきちんと理解できてなかったのかもしれないし、何度もいわれれば今度こそ諦めてくれるかもしれない。

 ……っていうかそもそも、別にこなくてもいいんだよね。

 お姉ちゃんに捨てられたときはもう来たくないって思ったし、神坂さんに初めてしちゃったときはいいきっかけだと思ってやめちゃおうともした。

 そうだよね。別にやめちゃってもいいんだよね。

 けど、お姉ちゃんのときとは全然くらべものにならないけど、こなくなるきっかけにしてもいいのに、今回はそんなこと今まで露にも思わなかった。

 ……どうして? こんなにも神坂さんのことはうざったくて仕方ないのに。やめようって思って全然おかしくないはずなのに。

 なんで私はいる意味のないはずの学校にこんな風に毎日来てるんだろ……

 

 

 

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