一年の終わりの月、師走。

 一か月の終わりの日、晦日。

 一年の終わり、大晦日。

 外国じゃどうだか知らないけど、日本人なら家族でゆっくり過ごすのが一般的。

 そんであたしの家族っていえば、両親はそうだけどもう一人大切な相手がいるわけで今年は一年の終わりをその相手と過ごしてた。

「今年も終わりだねぇ」

 部屋のこたつに入りながら美咲によくあることを問いかける。

「そうね」

 特にテレビとかもつけてなくて静かな部屋には遠くからでも除夜の鐘が聞こえてくる。

「にしてもさ、こうして二人で過ごすのって久しぶり……っていうか初めてだっけ?」

 こういう日にはなぜか今のことよりも郷愁にひたっちゃうもの。

「そういえばそうね。正月には会ってたけど年越しは一緒じゃなかったものね」

「そっかぁ、そうだったんだ。なんか意外だね」

「まぁ、正月だとかお盆だとかに関係なくいつでも一緒にいたしね」

 そう、生まれてからあたしたちはずっとそうだった。幼稚園に行く前から遊んでて、幼稚園や小学校、中学校でもずーっと一緒。

 そりゃ喧嘩したりとかで少し会わない期間とかはあったかもしれないけど間違いなく美咲が人生で一番一緒にいる相手だって言える。

 これまでも、これからも。

「改めて思うけどさ、あたしたちって幸せだよね」

「なによいきなり」

「んー、なんとなくそう思った。だって今はこうしてるのが普通だけど、そうならない可能性だってあったわけじゃん?」

「……そうね」

 それは言うまでもなく美咲が転校をするっていう話。親の都合って言えばまだ子供なあたしたちにはどうしようもない話だし、普通そんなことになったらもうそれは受け入れるしかない。離れたくない人がいるとかそんなわがままが通る話じゃない。

「あんときさ、ほんとつらかったよ。だっているのが当たり前だったし、実際離れてたのは一週間だけだったけど、朝起きて美咲がいてくれなくて、そのたびに美咲に会えないんだって思い知らされて泣きたくなってた。よく言うけどさ、いなくなってから気づいたんだよね。美咲がどれだけ大切かって。大げさかもしれないけど、あのままだったら生きていけなかったかも」

 冗談って言えば冗談だけど。それが本当になった可能性もゼロじゃない。美咲がいない世界なんて考えられないから。

「だからさ」

 あたしは自然とテーブルに乗せてた手で同じく美咲の手に添えた。

 その幸せな感触を得ながら感謝の気持ちを伝える。

「今、ここにいてくれてありがとう。大好き」

「っ………」

 美咲は最初ちょっとぽかんとしてたけど

「な、ななによ、いきなり!! 急に変なこと言わないでよ」

 ワンテンポ遅れて真っ赤になった。

「別に変なことじゃないでしょ? 本当のことだしさ」

「う、うるさい」

 あらら、意外にダメージが大きかったみたい。美咲って策士なところがある割には不意打ちには弱いからね。

「…………」

 こういう時はもう一歩責めていくともっと可愛いところが見られるけど……リスクもあるし悩ましいところ。

 ただ……どちらにしても同じかな。

 そのまま手は重ねたまま数分が経って

 ポーン。

 壁時計がなって新しい年が始まる。

「美咲」

 それと同時にあたしは好きな人の名前を呼ぶ。

 普通なら明けましておめでとうって言うところだけど。あたしは重ねた手を絡めていって

「ん」

 美咲の唇にあたしの唇を重ねた。

「あけましておめでとう、今年もよろしく」

 それから笑顔で新年のご挨拶。

「ぁ………え?」

 美咲はまるで初めてキスをした女の子みたいに呆けてて

「な、何すんのよ!」

 今度は怒ってきた。もっともこんな直接的なことしかいえないっていうのは美咲に余裕がないって証だけど。

「したかったの。転校の時のこと思い出したら美咲のこと好きだって改めて思ったから、今年一番最初にすることは美咲とのキスって決めてた」

「っ……な、なにそれバカじゃないの」

「別にバカってことはないと思うけど……って」

 美咲はあたしのことをグイって引っ張ると

「んーー」

 今度はあたしがキスされてた。

「あけましておめでとう」

「ちょ、……な、じ、自分でバカなことって言ってたじゃん」

 キスは数えきれないほどしてるし、自分からならいいけど、急にされるっていうのはなんだか恥ずかしい。

「彩音のレベルに合わせてあげたのよ」

「っ」

 微妙に無礼な言い方だな。

 なんてムッとしてる暇はなかった。

「そんなことより……」

 美咲はいつの間にかこたつを出てあたしの前に来ると

「あ………」

 急に体が浮遊感に包まれるて

「っ……んっ!?」

 背中が床について衝撃を受けるのと同時に唇に今年三度目の感触。

「もっとバカになってもいい気分」

 扇情的に潤む瞳と、濡れた唇。

「今年の彩音をもっと感じさせて」

 重ねられた体に美咲の熱が伝わってくる。

(なんとなくこうなる気がしてたんだよね)

 ってそれを他人事のように感じながら

(ま、こういうはじめもありかな)

 四度目のキスを受け入れた。

 

 

ノベル/Trinity top