(……ん、あれ……?)

 なんか、頭、いたい……。

 つかあたし今どうなってんだっけ……?

 なんかふかふかなところにいて……それで……正面には柔らかくて熱い体温と、心を刺激するような甘い香り。

 そこであぁあたしも千尋さんと一緒に寝っちゃったんだって思い出すんだけど。

(?)

 なんか背中からも人肌のぬくもりが……? いや、ぬくもりどころじゃなくて密着するほどに抱きしめられているような。

 つか、抱きしめられてるなんてもんじゃなくてむちゃくちゃぎゅっとされてる。

「あ、やっと起きた?」

 何が起きてるのかと確認しようと身を捩ったあたしはまずは正面から声をかけられた。

「…? 千尋、さん……?」

 あたしの胸に顔をうずめてたはずの千尋さんは今は体勢が変わってて、真正面の位置に顔がある。

「えぇ、と。おはようございます」

 心なしか顔色はよくなってて、なんだか胸が締め付けられる想いというか、実際に胸は締め付けられてるんだよね。

「あ、あの、ところでなずなちゃん。どうしてあたしのこと抱きしめてるのかな」

 挨拶をしたところで振り向くと予想通り背中にはなずなちゃんがいてなぜかあたしを力いっぱいに抱きしめてる。

「……どうして、先生お母さんと一緒に寝てるの」

 しかもむちゃくちゃに不機嫌な声だ。

「先生、私と一緒に寝てたのに……」

「私もびっくりだわ。起きたらいきなり彩音があたしを抱きしめてるんだから。確かになずなに手を出すなとは言ったけど、私にしていいなんて一言もいってないんだけど?」

「いえ、ちょ、っと。あたしはっ……」

 このままじゃとんでもない汚名を着せられそうで反論しようとすると、千尋さんに引き寄せられ、口元を耳に当てられた。

「……何言ったか覚えてるから、とりあえず話あわせなさい」

 それって、「アリサさん」のこと、だよね。

 どういう事情かはわかんない、けど。

「っ………はい」

 ここは頷いてた方がいいんだろうな。

「…二人だけで話さないで」

 うっ、またぎゅ! が強くなった。家事をしてるせいもあってか意外と力強い。

「あ、えーと、ごめん。千尋さんの様子を見に来て、あたしも疲れたから横になったらついうとうとってしちゃって」

 これ言い訳になるかな。大体人のベッドで寝るかって話だし。

「まぁ、そういうことなら一応許してあげるわ」

「………だめ」

 そりゃ、だめだよねぇ。だって自分と一緒にいたはずの相手がいつの間にかお母さんと一緒に寝てたら娘としていい気持ちになんてなるわけない。

 とはいえ、ここでアリサさんの名前を出すのは千尋さんが望んでないし。

「なずな、許してやりなさいな。彩音だってあんたに比べれば大人かもしれないけど、まだちゃんと大人ではないのよ。甘えたくなる時だってあるの」

「……私が甘えさせてあげるもん」

「彩音だって、見栄を張りたい年ごろなんだからなずなみたいな子供相手には甘えられないわね。大人の魅力が必要なの」

「……先生はロリコン、だから小さい方が好きだもん」

「まぁ、確かに彩音はロリコンでしょうけどそういうのとは別なのよ」

「……お母さんすぐ難しいこという……」

 ……なんかこの母娘の間であたしはとんでもなくけなされているような。しかもあらぬ誤解で。

「え、えーと。とにかくごめんね。もうこんなことはしないから許して。なずなちゃん。ねっ?」

 そしてとりあえず痛いから離して。

「…………お願い聞いてくれたら許してあげる」

「お願い? うん、わかったよ」

 内容を確認しなくて頷くけど、なずなちゃんのためだしね。

 あたしが頷くとなずなちゃんは「……じゃあ」あっさりとあたしを離してくれて、

 そのまま、

「な、なずなちゃん」

 あたしと千尋さんの間に割り込んできた。

「……このまま一緒に寝て」

「あ、いや、でも……」

 これにはあまり承服できない。さっきのは千尋さんの勘違いがあったからある程度仕方ない部分もあったけど、本来どんな理由だってゆめと美咲以外の相手とベッドで寝るなんて二人に申し訳ない。浮気じゃないとかそういうことじゃなくて、二人がいい気分にならないことはしたくないから。

「あんた、挟まれて寝るの好きよね」

「……………」

 ただ、千尋さんの言い方が胸に引っ掛かってこの場では頷いてしまうのだった。

「……えへへ」

 幸せそうに顔を緩めるなずなちゃん。

 三人の体温が混ざった熱さと湿り。

 倫理的にもまずそうな光景だけど、さしものあたしも邪なことなんて考えるわけもなく、半身にしてなずなちゃんを軽く撫でてあげるだけ。

 こんな風になずなちゃんは寝ることが多かったのかなんて考えながら。

 正面を向いた先にはなつかしさと切なさを混ぜたような顔でなずなちゃんを見る千尋さん。

 あたしはこの母娘に何をどこまでするべきなんだろうかとそんなことすら思いながら再びなずなちゃんが寝入るまでそうしてるのだった。

 

 ◆

 

「さて、じゃあ。なずなを連れてってくれる?」

 なずなちゃんが寝入ったかと思うと千尋さんはすぐにそう言ってきた。

「体調は大分よくなってきたけど、もしうつしたら悪いからね」

「それはもっとも、ですけど」

 聞きたいことはあります。

 と言っていいのか。

「……アリサ、なら彩音が考えてる通りだけど、なずなが起きると面倒だし今は遠慮して欲しいかな」

「っ……はい」

 結局謎は深まるばかりな母娘。

 実はそう遠くない時期にその謎に触れる機会がくるのだけど……とりあえず今日のところは。

(二人にちゃんと話しないとなぁ)

 今日の顛末には隠さずに恋人たちに話をしないとなぁと目の前の心配をするのだった。

 

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