私は家、というか彩音の家に帰る時早足になることが多い。もちろん、彩音に早く会いたいという理由だ。

 それと、彩音が家にいるってわかっているときはそれが顕著になる。

 帰ってきた時に、おかえりと言ってもらえること。

 それは、至上の喜びだから。

(……そういえば、今日はゆめが来てるはずか)

 それを頭によぎらせながら私は早足に彩音の家にたどり着いた。

「ただ今戻りました」

 玄関を開けるときにこういっちゃうのは、さすがに仕方ない。

(もう、ゆめが来てるか)

 小さなゆめの靴を確認して私は、まずは手洗いとうがいをする。

 それから階段を上がってすぐの彩音の……私たちの部屋のドアを開けようとして

「ん、ふぁ……」

 部屋の中から漏れてきた声に思わずその手を止めた。

「……ん、彩音。どう?」

「はぁ……ぁ、ん、いいよ」

「……そう」

「ぅ、ん……あ、そこぉ」

(なっ………)

 聞こえてくるのは彩音の悩ましい声。

「……ここ?」

「あ、そうそう、そこ……んっ」

 それと、ゆめが彩音に何かしらをしていることをわからせる会話。

「あぁ……ん、いぃ……もっと、強く」

「……うん」

(な、なな……)

 私は思わず頬を赤くしてしまう。

 な、何してんのよ! こ、こんな昼間から! 私だってそんなっ……

(っ…………)

 って、待て冷静になりなさいよ。そんなわけ……

「……彩音、気持ちいい?」

 そんな、わけ……

「うん、いいよ。ゆめも上手になったね」

「……彩音に気持ち良くなってほしいから頑張った」

「んっ、はぁ……あは、ありが……」

「何してんのよ、あんたたちは!!」

 会話に我慢できなくなった私は思わず大きな声を出して部屋に入っていった。

『っ!!?』

 そこで私が見たのは、ベッドの上にいる二人。

 うつ伏せの彩音にゆめが馬乗りになっている。

「へ!? み、美咲、な、何が?」

「…………」

 彩音はいきなり怒鳴られたことに驚いて私を見るが、ゆめは冷静な顔で私を見てくるのみ。

「え、いや、あの、ゆめにマッサージしてもらってたんだけ、ど………?」

「ま、マッサージ?」

「……うん」

 予想とは違う二人の姿を見たことと、そのありきたりな展開に私はさっき以上に体を熱くした。

(わ、私が、こんな初歩的な……)

 あまりに浅ましく短絡的なトラップに引っかかるなんて。

(こういうのは、彩音の役目じゃない!)

 彩音が変な勘違いをして、それをからかいながら彩音を好きにするというのが私の好きなことだというのに。これでは……

「あ、もしかしてさぁ美咲……」

 彩音が、いつもの私のような優越感を含んだ笑みを向けて

「【何か】かんがえて……」

「そんなわけないでしょ!」

「……?」

 彩音がにやけた言い方をするのすら、言わせず私は大声をだし、状況を飲み込めない鈍いゆめは相変わらず彩音の上に乗ったままぽかんと私を見ている。

(……………っ〜〜)

 もちろん、私は羞恥に身を焦がしている。けれど、それに屈するんじゃ彩音と同じだ。

 それに、彩音がゆめにマッサージをされている。

(それはそれで面白くないのよ)

 そう思った私はベッドへと向かって行った。

 

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