「……………」

 空気が、重い。

 リビングであたしは正座をさせられ、ゆめと美咲はソファに座ったままあたしを見下ろしている。

 その目は厳しく、あたしを非難する空気がこの真新しい新居に漂っている。

 あたしとしては自分が悪いことをしているとは思っていないんだけど、この二人からしたら別らしくて帰宅そうそうこんなことになってしまった。

 二人は呆れと怒りを同居させた様子であたしを見てる。

 ただ怒っているというのならまだしも呆れてるっていうところがなんというか怖いというか情けないというか……

 まぁ、なんでこんなことになっているかと言えばそれは十分ほど前のこと。

 

 

 まだこの辺の地理のことをわかっていないってこともあって三人でその辺を散策してきた帰り。

 あたしたちの部屋は六階建てのマンションの角部屋で隣の人にはまだあったことがなかったんだけど、ちょうどお隣の人が部屋から出てくるところに遭遇した。

「こんにちは。もしかして隣に引っ越してきた子たち?」

 その人はセミロングの髪に温和そうな笑顔をする人で、服装や化粧の具合からたぶん社会人の人。

「はい、この春から大学生になるので」

「へぇ、お友達とルームシェア。楽しそうでいいわね」

 こういわれるのは当然かなという印象。三人で暮らしてるのを見ればそう思うよね。

 とはいえあたしとしては二人にプロポーズしてる自負もあることだし、

「いえ……」

 恋人です。

 って一瞬答えようとはしたけれど

「こ……いえ、えーと、友達っていうよりは親友です」

 とあたしが答えるとその人は優しそうに笑って

「いいわね。困ったことがあったら何でも聞いてね」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃあ」

 

 

 って会話をしただけ。

 そう、それだけでこの二人は機嫌悪くなっちゃったの。

 何が原因かは一応わかってるよ。

 最初に恋人って言いかけたのにその後親友って言いなおしたのがお気に召さないの。

「……なんで恋人って言わなかった」

「どうせ私たちが恋人なのは恥ずかしいとか思ったのよこいつは」

「……ひどい」

 美咲の方が本気なのか冗談なのかわかりにくいところだけど、ゆめはじとっとした瞳であたしを非難している。

 あたしとしても二人がそう言いたくなる気持ちはわからないでもないよ。

 あたしも二人のどちらにでも恋人じゃなくて友達だなんて言われたらそりゃあ悲しいし、怒るかもしれない。

「いや、ちょっと待ってよ。よく考えてあの場じゃ二人とも恋人ですなんて言えなくない?」

 そう、あたしとしてはこれが問題。

「二人の時だったら言うよ? けどさ、初対面の相手に二人とも恋人ですなんて言えなくない?」

「……事実なんだから関係ない」

「それはそうだけど、なんか誰でもいい人みたいに思われそうで、あたしの信頼性を著しく損ねそうじゃん」

「…………」

 多少納得してもらえたのかゆめは、一応黙りこむ。

 でも、

「つまり彩音はわたし達の信頼よりも、見ず知らずの人間からの信頼の方が大切ってことね」

 ひっかきまわそうとするやつがいるんだよね……

 今までならここで美咲のいいようにやられてたところだけど

「わかったよ。今度そういう時にはちゃんと恋人だって説明する。それでいんでしょ」

 あたしは強気にそう言い返す。

 もう大学生になるんだしいつまでも美咲の思う通りになんてならないんだから。

「っ…まぁ、期待はしてないけどそうなさいな」

 ほら、美咲はあたしが思わぬ反撃をしたものだから少し戸惑ってる。ここで終わりにできれば万々歳なところだけど。

「……これからはともかくさっきのことは許してない」

 こっちのお姫様は気難しい。

 しかしこっちの方も今までと同じだけにはさせないよ。

 あたしはそう思いながら立ち上がるとゆめの寄って行って

「ふぁ……」

 ぎゅっと抱きしめた。

「ごめんね。ゆめ、これで許して」

 小さくてもあたしの大好きなぬくもりと香りに心を充足させ、ゆめにも同じ物を与えて強く抱く。

「……仕方ない。今回だけ許してやる」

「ありがと」

 当然こうすれば美咲が不満に思うこともわかってるから、あたしはゆめから体を離すと今度は美咲のことを抱きしめた。

「…………私たちの気持ちはともかく、こういう行動が信頼を損ねてるような気もするけど?」

(うっ……それは、もっともなような……)

 相手の欲しい言葉や行為で自分の失態を埋めようとすることは確かによいことではないかもしれない。

(でもね)

「いいよ。他の人にどう思われるかなんて。あたしは二人に好きになってもらえればそれでいいんだから」

 なんて今度はあたしからこんなことを言ってかっこいいところを見せて自己満足に浸るのだった。

ノベル/Trinity top