「んっ……」
腕が動かせない。
「っくぅ……ん」
ついでに体もほとんど動かせない。
「んっ、はぁ……んん」
足は自由だけど、腕がベッドに縛り付けられてるからじたばたとしても腕が痛いだけ。
「で、どうしてこんなことされてるんでせうか」
あたしは抵抗をやめて縛られたままそれをした相手を見上げる。
「自分の胸にでも聞きなさいな」
あたしをこんな風にした張本人、美咲は不機嫌半分、優越感半分と言った様子でベッドに座りながらあたしを見下ろす。
わけのわからないことに学校から帰ってきたらいきなりこんなことをされた。
おっと、抵抗しなかったのかとか、こんな状態になるまで気づかなかったとかそういう突っ込みは駄目だよ。
そんなこと気にしてたら漫画とかアニメとかだって見られないでしょ。
と、まぁそれは置いといて。
「それにあんたはこういうのが好きなんでしょ」
美咲はあきれた顔をしてあたしの縛られている腕を撫でた。
「んっ……どこ情報だそれは」
って、聞くまでもないか。
ゆめに決まってるね。この前のことを美咲にあることないこと脚色交えて話したんだろうな。
「ゆめから何を聞いたんだか知らないけどさ、それは多分、多分にゆめちゃんの主観が入り込んだ真実とはかけ離れたことだと思うよ」
ゆめと美咲だけにあったことは、二人ともあんまり話してくれない割に二人はなぜか不思議なほどあたしのことをお互いに話すみたい。
特にゆめは当然二人きりの秘密になるべきことなんかまでぺらぺらと美咲に話すらしい。
美咲相手だからダメとは言わないけど、普通なら言わないことだと思うけどねぇ。もっとも今回のをそう感じるのはあたしにとって都合が悪いからって思ってるからかもしれないけど。
「でしょうね、さすがにゆめの言ったことが全部本当ならこの程度済ませないわよ」
……いったい何を言ったのかなあのお姫様は。
裸にひん剥いてリボンを結ばれたとかくらいは言ってそうな気がするな。とはいえ、ゆめに対して後ろめたいのは事実だからこっちからは強く言えないのが悩み。
あ、なら初めからするなっていう突っ込みはなしね。
「つか、ゆめの言ったことが本当じゃないってわかってるんならほどいて欲しいんだけど?」
「……ふぅ」
「なぜため息をつく」
「……あんたが何で私が怒ってるのか当てたら許してあげるわよ」
「? なんでってゆめのこといじめたのを怒ってるんじゃないの?」
「…………………」
あたしのもっともなはずの答えに美咲はなぜか妙な表情になった。
怒っているようで寂しがっているようで、呆れてるようで……んーつまりよくわからん。
「………ふぅ」
またため息をすると、そのままあたしに覆いかぶさってくる。
「え? ちょ、な、なに?」
二人の重みでベッドが沈むのを感じながらあたしはいきなりなことに少しあわてる。
「…………」
美咲はさっきとほとんど同じような顔であたしをみつめる。
(……美咲ってたまにこういう風になるよね)
何を理由に怒っているのかよくわからない時がある。
ゆめをいじめてたのが悪いのか、知らないところでゆめとイチャイチャしてたのが悪いのか。どっちかだとは思うんだけど、そう言っても余計怒るんだよね。
ムニ。
「ふぁ!?」
あたしが美咲の理由を探していると美咲はいきなりほっぺをつねってきた。
「っ……」
抗議しようかとも思ったけど、美咲の表情が微妙に変わっているのを見てやめる。
表面上は呆れ顔が変わってない。けど、瞳の奥はせつなさに濡れて何をしてくるかはわかる。
「んっ……」
いきなり、けど予想していたキス。
柔らかくてあったかくて……熱いキス。
怒ってる時は激しくされることも多いけど、今日は唇を合わせるだけ。
(………しかも長いな)
こういうキスは一瞬だったり、長くても数秒とかが多いけど今日は大分長い。
(……美咲の音が聞こえるな)
合わせた胸から美咲の鼓動が伝わってくる。ドクンドクンとちょっと早くて不規則で、理由もなしにあたしを落ち着かせも高揚もさせてくれる音。
美咲がここにいるっていう証。
(なんか、嬉しいかも)
「…………はぁ」
と、あたしが美咲のことを感じていたら美咲はキスを終えて……ため息?
「ちょっとなによそのため息は」
これもたまにあるけどキスが終わった途端にため息って失礼すぎるでしょうが。
「……別に。キスで気持ちが伝わればいいのにって思っただけよ」
「?」
「……やっぱなんでもない。そんな都合のいいことできるわけないし、っていうかなんでも伝わったら困るし」
あたしが美咲の言いたいことを理解できずにいると勝手に自己完結したようで言った。
(よくわからん……よくわからんけど)
「キスで伝えなくたって口で言えばいいんじゃないの?」
あたしはそれが当然と思ってそういった。今更美咲やゆめに対して言えないことなんてないんだし。
「…………………ふぅ」
美咲はそんなあたしにやっぱり呆れたようにけど、少しだけ嬉しそうな顔で
「好きよ」
と再び体を重ねてきた。