おまけ1  

 

「………うん」

 深夜、普通なら眠りにつく時間にゆめは部屋にある姿見で自分の姿を確認し満足げに頷く。

 身に纏うのはいつか彩音のために買ったベビードールだ。

 これを身に着けるのはたいてい決まっていて……

(……今日は少し悪いことをした、から。お詫びをして、やる)

 夕時のことは、ゆめも自分にも非があるとは理解している。もちろん、どんな理由があろうともほかの人間とあんなことをしている彩音を見たら許すつもりはないが、浮気するはずがないのはゆめもわかっていてなのに感情のままにご飯を用意しなかったことは悪いとは思っているのだ。

 だから今日は一緒に寝てやろうと、こうして身支度を整え愛用の枕をもって彩音の部屋に向かうのだが

「………………」

 途中、通った美咲の部屋がすでに暗いことに一抹の不安を覚えそのまま彩音の部屋へと向かっていくと、部屋のドアはわずかに開いていて

「……ぅ、んむ、ちゅ…あぁ。ぷ、ぁ」

「ちょ、みさ、き……ん、ちゅ……ん、くちゅ」

 ねっとりとした音と、荒い息が聞こえてきて足を止める。

「何よ、浮気したくせに文句でもあるの?」

「してないって言ったでしょ。つか、夕飯の時におとなしかったのはこういうことなわけ?」

「さぁ? ただ、あんたが知らない女に抱かれるのを許したってのは本当なんでしょ。それなら私があんたを好きにしてっていいことよね」

「……なぜそうなる」

「彩音が私のものだからかしら?」

「それは別に否定しないけど、ゆめみたいなこというねぇ」

「あら、別におかしくはないでしょう。それに本当のことなんだし」

「……はぁ。何言っても無駄か」

「そういうことよ、私のこと知ってるでしょ?」

 ベッドの上で体を絡み合わせながらそう仲睦まじく話す二人を部屋の外から眺めるゆめだったが、彩音が美咲を受け入れるか空気がゆめにも伝わり

 バン! と二人に枕を投げつけていた。

「っ!?」

「へ、ゆ、ゆめ?」

「ちょ、っとなにすんのよ」

「………………」

 枕をぶつけられ、ゆめの存在を気づいた二人は口々に文句をつけるがそれ以上にゆめは不機嫌に二人をにらみつける。

「……今日は私が彩音と寝るって決めてたのに何してる」

 そして真っ赤な顔であらぬことを言い出す。

「……そうなの?」

「えー、と……そんな記憶は……いや、そういえば約束してたよね。忘れてた」

「……ふーん。まぁ、いいわ。でも、わたしとも約束してたわよね?」

「………まぁ、そうだったね。で、そんなわけでゆめ、来なよ」

「………………」

 ゆめは自分が身勝手に口から出まかせを言ってしまったことの自覚はあり、一瞬躊躇はしたが

「……………」

 無言でベッドへと上がり、そのまま二人に抱かれる。

「ま、そんなわけで今日は三人で、だね」

 そして、いつもといえばいつもの展開になるのだった。

 ◆

 おまけ2

 

 この前の「浮気」から少しして。

 この日も家庭教師だったけど特に「デート」をすることもなく千尋さんとは帰ってきたときとここに送ってもらった時に話をしただけで何事もなく帰ってきたんだけど……?

(……あれ?)

 ごはんが用意されてないわけじゃないよ。普通に今日は美咲が作ったごはんがテーブルにはおかれて、いつものようにあたしを待ってくれてからのごはん。

 なんだけど……

「あのさ、間違ってたら悪いだけどもしかして二人とも喧嘩してる?」

 帰ってきたときからこれが気になってた。

 だって、二人とも全然話をしてないし視線すら交わさない。

 二人がこうなるのは珍しいけどそういう険悪なムードを感じちゃった。

「……してる」

 先に認めたのはゆめの方。

 遅れて美咲も「まぁ、そうね」と頷いた。

「えー、ちょっと何があったのか知らないけど早めに仲直りしてよね。どっちが悪いんだかどっちも悪くないんだかしんないけどさー」

 箸を止めずに、二人に仲直りを促す。

 あたしだって喧嘩しちゃうってのはわかるよ? どんだけ相手を好きだからってそりゃ喧嘩することくらいはあるのは自然だよ?

 けど、どうせいつまでも喧嘩してるわけじゃないんだしやっぱり三人で笑顔で過ごしたいわけですよあたしは。

「……悪いのは私」」

 熱意が通じてくれたのかゆめが(意外にも)あっさりとそれを認めてくれた。

「自覚あるんならやまんなよ。ゆめちゃんはちゃんと謝れる子でしょー?」

「………………」

 少し茶化しちゃったけど、でも言うことは間違ってないんだし少しは二人の仲直りの役に立てると高をくくったのだけど。

 ゆめはお箸を止めてあたしをにらみつけ

「……元凶のくせに」

 そういった。

「へ?」

 カラン、とあたしはお箸をテーブルへと落としてしまう。

(今、なんて言われた?)

 元凶? 元凶って一番悪いやつとかそんな意味だよ、ここだと。

 二人が喧嘩してて悪いのはゆめなのにあたしが元凶?

 意味が分からずに助けを求めて美咲に視線を振る。

「まぁ、確かに悪いのは彩音よね」

 はい、ちょっと待ってくれ。

 二人の喧嘩の仲裁をしようとしたのになんであたしが責められてるんだ?

「えーと、とりあえず説明を要求したいんですが」

「……今はごはん中。ご飯の時にはごはんを食べろ」

「そういうことね。食べてからにしましょ」

(……こいつら喧嘩してたんじゃないの?)

 そう思いながらもこれ以上はどうしよもなくてあたしは………

(なぜこんなことに?)

 ごはんを食べ終えたあたしたちは片づけをするとリビングのソファに向かって

「あのー、これはどういうことでしょうか」

 二人に挟まれていた。

 片腕ずつ取られて身動きも取れない。

「……喧嘩してたのは彩音のせいだから」

「まったく話が通じないんだが、とりあえずその喧嘩のことを教えてよ」

「そうね、教えてあげるわよ」

 相変わらずあたしを離すつもりのない二人はもう何時喧嘩してたんだっていいたくなるくらいの連携であたしを追い詰めようとする。

「今日あんたがバイトに行ってる間にゆめがまた浮気を疑いだして、そんなのいちいちきにするなっていったらゆめは、あんたが浮気するのは私の教育が足らないからだとか言い出したのよ」

「……………」

 いつの間にかあたしを責めてはいてもゆめにはバツの悪いことなのか黙るゆめを後目に美咲は続けていく。

「私としても理不尽に怒られてるのはわかったから、ついバイトくらいで小学生と人妻に浮気を疑うなんてあんたことが彩音のこと信じられてなくてほんとに好きなの? って言ってったのよ」

「そりゃ、また……」

 子供か?

「おしまい」

「子供か!」

 そこからまだ何か話が展開するのかなと思っていたのにあっさりと喧嘩の理由を終わらせられて思わず突っ込んだ。

「え? それであんたら喧嘩してたの?」

「……だって、私が彩音を好きだと疑うなんて最大の侮辱」

「いや、その気持ちはありがたいんだけど……」

「でも、よく考えるとそもそも彩音が私たちにそんなことを思わせるのが悪いのよね」

「……うん。彩音がもっと私達を大切にしていればそもそもそんなことを思わない」

「「だから」」

 二人が体を押し付けてきた。

「もっと私達を愛しなさい」

「…………………」

 そのままソファに押し倒されたあたしは結局こうなるのかぁ思いながら迫ってきた二人を強くだきしめるのだった  

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