時とところ変わってベッドの上。
お風呂上りに髪を乾かす彩音の髪と背中を壁に寄りかかりながら見つめる。
それだけで自然と笑顔になれる。
「…………」
彩音のお風呂上りは好き。
いつもはまとめられた長い髪がつやつやと光るところ。すらっとした背中、細い首筋。
それを見ているだけで私は幸せ。
だけど、
「あーやね」
こうするともっと幸せ。
「わっ!? ちょ、いきなり抱き着かないでよ」
「いいじゃない。このくらい」
まだ湿った髪が火照った体に心地いい。
それと、甘いシャンプーの匂い。
(……大好き)
「ね、昼間のことだけど」
「昼間?」
「そう。あの時も言ったけど、これからもいいわよ。相談受けても」
「えー? ほんとにー?」
「彩音なんかに頼ってきてくれる子をむげにはできないでしょ」
「そんなこと言って、どうせやきもち妬くんじゃないの?」
「そんなの当たり前じゃない」
「当たり前って……いや、かもしれないけど」
何度も言うようにそんなのは当たり前。好きな人が他の人といるのが嬉しい訳がない。
でも
「いいの。そういうところも含めて私は彩音が好きなんだから」
「っ」
あ、恥ずかしがってる。
「み、美咲がそういうならいいけどさ」
「そう」
頬に手を添える。
「いいの」
力を込めてこちらを向かせる。
「そのかわり……」
一瞬目が合って、何をしようとしてるかわかる彩音はゆっくり目を閉じる。
それに合わせるように私も目を閉じて、
ちゅ。
唇を重ねた。
「その分、埋め合わせしてもらうんだから」
触れ合った唇の歓喜を表情にしながらそのまま私たちはベッドへと倒れ込んでいった。
自分の言葉には責任を持たなければならない。
確かに私はいいと言った。相談に乗ってあげろと。
面白くはないけど、そういうところも含めて私は彩音が好きなんだからと。
一度そう言ったんだから、ある程度は許容するつもりはあった。
けど
(誰も無制限に許すなんて言ってないのよ)
お昼休み。私は教室の窓から中庭を見つめてこめかみを引くつかせている。
視線の先にあるのは彩音の姿。
但し一人ではなく、三人。一年生の二人に挟まれながらベンチで仲良くお弁当を食べている。
それだけでもいらいらするのに、さらに悪いことに食べているお弁当が私の手作りだというのが火に油を注いでいる。
たまにはと思って自分と彩音の分のお弁当を作って、一緒に食べようと思っていたのに、お昼になった途端約束があるからとどこかに行き、あんなところにいる。
ここからじゃ何を話しているかまでは聞こえないけど。
(確かに相談に乗ってあげるのは許すって言ったわよ?)
けど、二人に囲まれながらお弁当を食べるのが悩みを聞いてるって言える? もしかしたら理由があるのかもしれないわよ。あの二人は以前彩音が面倒を見てあげた二人で、その後のことを聞いたりとか、そういうこともあるのかもしれない。
けど、その許せる限界ラインの事情だとしてもそれが私の作ったお弁当を私以外の相手と食べる理由になるとでも思ってるの?
「っ………」
ただでさえこれ以上ないほどにイラついている私の目に、信じがたい光景がうつって、私は掴んでいた窓の縁を握りつぶしそうになった。
もちろん、そんなことは不可能だけどそれくらい怒りがこみ上げた。
(なによ、あーんって!)
左に座っている子にあーんされたかと思えば、もう片方の子にも同じことをされている。
(ふ、ふふ、ふふふふ)
これ以上とても見ていられなくて私は踵を返した。
「っ」
たまたま目のあったクラスメイトが思わずビクっと震えたのが見える。
そうだろう。
私は今笑顔だ。
だけど、これ以上ないほどに怒っている。笑顔の中にその怒りがにじみ出ている。
(言ったわよね。彩音)
そういうの続けてもいいって。
けど、
(責任はとってもらうから)
今日の夜のことを考える私はその時のことを思って、笑うのだった。