あたしはお風呂って実はそんなに好きじゃない。いや、んー、正確にいうとお風呂が嫌いっていうか、お風呂出た後が大変だから。
あたしは人に比べて髪は長いほうだし、水を吸った髪はまず重くてたまらない。それに、ふき取ったとしても湿った髪が肌に当たるとかなり冷える。まして、こんな冬にもなるとちゃんと乾かさないと地獄だ。
それが結構な時間かかっちゃうから、なんか時間を無駄に使ってるような気にもなっちゃうんだよね。
まぁ、そんなのはともかく今日もあたしはお風呂を出た後に時間をかけてそれから部屋に戻っていった。
「うぃーす。ただい、え……」
部屋をあけた瞬間あたしは絶句した。
だ、だって……え? え?
「ちょ、ちょ、っちょっと、美咲! なんて格好してんの!!」
だっていつもなら普通にパジャマであたしを迎えてくれるはずの美咲が
っていうか、さっきお風呂から出てきたときは普通にパジャマだった美咲が
「な、何よ!? なんか文句でもあるの!?」
とんでもない格好をして迎えてきたから。
「い、いや、文句なんか全然、ない、けど」
あたしは、パタンとドアを背中で閉めながら美咲の姿に目を奪われる。
美咲が着てるのはいわゆるベビードールってやつ。
白を基調に裾や胸元には花びらを模したレースの飾りが付けられていて、可愛い感じ。それに開けるようになっているタイプで、左右を繋ぎとめる大きなリボンが、ショーツのフロントにある小さなリボンとマッチングしているのが魅惑的。さらには白のニーソックスがふともも以外の肌を隠してて、いっそう太ももが際立った形で……
「な、何よ、何か言いなさいよ!」
「………」
ぽかーんとしたままのあたしはどう反応すればいいのかわからないけど、視線だけは釘付けになっていた。
美咲はなんでこんな格好してるかは知らないけど、当然恥ずかしいみたいで顔を真っ赤にして少し不機嫌そうだけどでもやっぱり恥ずかしさのほうが上まっているみたいだった。
「え、っと、なんで、そんな格好してんの?」
あたしはもちろん可愛いって思ったよ。すごい可愛いし、この前のゆめみたいに理性を抑えられないほど蟲惑的だった。
けど、それ以上に美咲がこんな格好する理由がわからなくてあたしはそう言うしかなかった。
「あ、彩音はこういうのが好きなんでしょ!?」
「へ!?」
「き、聞いたわよゆめから! この前キャミソール着せて喜んでたらしいじゃない。しかも、ベビードールもいいとか言ってたらしいから、私が着てあげたのよ。感謝しなさいよ!!」
「え、いや、あれは、ゆめにって話だった、んだけ……どぁ!?」
バン!!
いきなり枕を投げつけられた。
「ちょ、なにんのよ!!」
「うるさい!!」
今度はあたしの枕を投げつけられ直撃を受けた。
「な、なによ!! 知らない!!」
「あ、ちょ、美咲」
美咲はさっきとは違う理由で顔を真っ赤にしてそのままあたしのベッドにもぐりこんでしまった。
(って、なんであたしのほうに……)
それはまぁ、置いといて。
悪いのはあたしだってわかってる。正直言って最悪だったと思う。
あたしが美咲の立場でも絶対に怒る。だって、あたしは美咲に対しまだ可愛いの一言も言ってないもん。なんでそんな格好してるのかって先に聞くのまではまだよかったけど、ゆめにって話だってっていうところはまずすぎた。
美咲が簡単にしてきたことじゃないっていうのは美咲の様子とこの攻撃を思ってもわかる。なのにそのことに関しては理由を聞いただけでゆめの話をする。
(……またやっちゃったなぁ)
「ね、美咲」
あたしはベッドに近づいていって美咲のことをよんだ。
「…………」
当然かもしれないけど返事はない。
「美咲ってばぁ」
「うるさいわよ。バカ」
「あたしが悪かったって。もう一回ちゃんと見せて」
「……私のなんて見たくもないんでしょ。ゆめにでも着させればいいじゃない」
「んなことないって。さっきは驚いちゃっただけ」
「……うるさいわよ。バカ」
美咲は掛け布団をぎゅっと握りしめて絶対に見せないっていう姿勢を崩さない。
「……なら、こうだ!」
「あ、ちょ、な、なにするのよ!? あっ」
あたしは力いっぱいに掛け布団を剥ぎ取った。
「ふふふー、これでもう隠せないよ」
「……………」
ベッドで見る美咲の姿はまた格別だった。
さっきは遠目でそんなに意識しなかったけど、生地はシースルーになっていてこうして近くで見ると透けた肌が何ともいえない魅力があった。
しかも美咲は恥ずかしさとさっき怒ったのが影響してるのか顔を赤くしてるだけでなくちょっと涙目にもなってて。
「美咲、可愛い」
あたしは実に嬉しそうにそういった。
(これはまた「うっさいわよ。バカ」かな?)
こういう時の美咲の反応は大体決まってるしね。でも、そんな美咲はとびきりに可愛い。ゆめとはまた全然違うカワイさがある。
「……………あ、ありがと」
(へ?)
あたしの予想に反して美咲は照れ隠しの憎まれ口を叩くことなく、ただ恥ずかしくてたまらない、嬉しくてたまらないといった様子でそういうだけだった。
「ね、美咲」
あたしはそのまま美咲に覆いかぶさっていく。
「な、何よ」
「今度買い物いこっか。ゆめと二人であたしの選んでよ」
あたしだけ二人にこうしてもらっちゃ悪いもんね。あたしも二人に応えたい。
「……楽しみにしてるわ。ん」
美咲はそういいながら扇情的に潤む瞳に何かを含ませた。
「うん。あたしも」
それが何を意味してるのかわかったあたしは。
……ちゅ。
指を絡め合わせながら口付けを交わすのだった。