「……今日、泊まってあげる」

 ある日、ゆめが大荷物を持って遊びに来たかと思うとそんなことを言ってきた。

「は? いきなり何いってんの?」

 部屋にゆめを招きいれたあたしは急なゆめの要望というか提案に疑問を投げかける。

「……美咲がいないと、彩音が寂しいから私が泊まってあげる」

 あ、説明しておくと今日美咲はいない。美咲がこの家に住んでいるのをお互いに認めていても、さすがにまったく会わないのも親として寂しいだろうし、美咲も気が引けないこともないから連休なんかにはたまに会いに行ったりする。

 んで、ゆめにはそれを伝えることもあれば伝えないこともあるんだけど。

 今回はあたしが伝えなかったけど、美咲が伝えていたらしい。

「あたしがいつ寂しいなんていったのよ」

「……隠さなくてもいい」

「……いや、別にんなことないんだけど。つか、それなら美咲がいなくなるときはいつもゆめを呼ぶでしょうが」

「…………ダメ?」

 今日は一人で過ごすつもりだったんだし、正直に言えば予定通りに過ごしたいという気持ちがないわけじゃなかった。

(……だけどねぇ……)

 こんな風に、びくびくしながらもそれを隠そうとして隠せないゆめちゃんを見せられたら、ね。

「はいはい、どうぞ」

 断るつもりなんてなかったけど、あたしは軽々しくゆめを受け入れてしまったことを後悔……というか、ま、後悔することになる。

 

 

「ふはぁ……」

 あたしはお風呂で浴槽の縁に腕をのせて、そこに頭を乗せて。熱い息を吐く。

 まったくゆめはどうしたんだか。急に泊まりにくるなんて……美咲がけしかけたのかも。あたしが美咲がいないと本気で寂しいって思ったとか?

 まあ、まったく寂しくないかって言われれば寂しいとは答えるけどさ。

 つか、ゆめはゆめで今日はちょっと変。ご飯のときも妙に口数が少なかったし、いやいつも少ないけど、なんてゆーか黙ってたというより上の空だったって感じ。

「ま、お風呂から出たら聞いてみるかな」

 あとはゆめがお風呂入ったら部屋で二人きりだし。逃げ場のないところで問いただしてあげよう。

 なーんて、甘いことを考えていたあたしだったけど、ゆめがたまに突拍子もないことをするんだということを忘れていた。

 さらに言えば、今この場こそ逃げ場のない場所だっていうのも考えてなかった。

 コンコン。

 へた〜としていたあたしの耳に脱衣所をノックする音が聞こえてきた。

 ゆめ、かな? そろそろあたしが出るって思って様子を見に来るのと一緒に着替えでも置きに来たのかな?

「……彩音」

 やっぱ、ゆめか。

「ん〜、どしたのゆめ?」

 ん? 何かごそごそとなにやら音が聞こえるけど、まだお風呂のドアを隔てているのもあって何の音かはわかんない。

「心配しなくても、そろそろ出るよ〜?」

 わざわざ声かけてくるってのはこれ以外に用はないっしょ?

「……そのことじゃない」

 ガサゴソ

 ん、何の音だろ。何か布の音?

「…………って、あげる」

 何の音かな〜と気になってドアのほうに耳を傾けようとしたせいで水音がしてゆめが何言ったかよく聞こえなかった。

「今、何か言った〜?」

 ガラ

 いきなりドアが開いて

「……一緒に入って、あげる」

 一糸纏わぬ姿のゆめが現れた。

「は!? ゆめ!? な、何やってんの!?

 タオルで起伏の少ない体を隠しながら恥ずかしそうにゆめは浴室に足を踏み入れる。

「……お風呂、一緒に入ってあげる」

「な、なんで?」

「……いつも、美咲と入ってるんだから私とも、入る」

「……は?」

 気のせいか理解に来るしむ言葉が聞こえた気がするんだけど?

 そうこうしている間にもゆめはシャワーの前のイスに座ってあたしに体を向けてきた。

「あ、あの〜、ゆめ、ちゃん? どういうことかな〜? 意味わかんないんだけ、ど……」

「? ……いつも美咲とお風呂入ってるんじゃないの?」

(……美咲〜。何かゆめに吹き込んでったな)

「んなわけないでしょうが。美咲と一緒なんて……まぁ、子供の頃はともかく、最近は……」

 と、言いかけてやめた。

 そういや美咲の引越しを知った日には一緒に入ったっけ。

「……とにかく一緒に入ったげる」

 っていうか、なんで上から目線?

 やだっていっても聞くわけないし……っていうかもう入ってきちゃってるんだし。どうせあたしはそろそろ出るつもりだからここは適当に入らせてこっちはさっさとでちゃおう。

「はぁ、ま、いいや。でも、美咲には黙っておいてね」

 ゆめと一緒にお風呂は行ったなんてわかったらあとで美咲にどんなこと言われたり、されたりするかわかったもんじゃないし。

「……二人の、秘密」

「そうそう、二人だけの秘密」

「……わかった。じゃ、彩音」

「ん?」

「……体、洗ったげる」

「……結構です。っていうか、もう洗ったに決まってんでしょ」

「……じゃあ、体洗って」

「何が、【じゃあ】だ。やだよ、自分でしな」

「……お姉ちゃん、命令」

 で・た・よ。

 理不尽なことを要求するための【お姉ちゃん】の特権。これが言いたかったからさっきから上の態度だったのかな。

 あたしはため息をついて、めったに見ることのないゆめの裸をじぃっと見つめる。

 これを洗えって? こんなぺったんで触っても全然面白くなさそうな体を?

「……じゃないと、美咲に言う」

 脅しますか。

 さすがにゆめも恥ずかしくないわけはないのか、ぽっと、お風呂の熱だけじゃないであろう理由で頬を染めている。

 恥ずかしいんだったらそんなことさせようとするなよ。

「…………して」

 お風呂で、裸で、世界で一番大好きな相手にこんな扇情的な顔されて、こんなこと言われたら。

(…………理性が切れちゃうっての)

 あたしはザバっと音を立てて、浴槽からあがるとゆめの背中に回る。

「わかりましたよ、お姉ちゃん」

 ゆめの脇に置いてあるボディソープを手に出すとまずはゆめの背中をほぐすように手を這わせていく。

「ひゃ、ん……」

 ゆめが突然されたのに驚いて声を上げるけどそんなことされれば余計に止まらない。

「んふふふ」

 ゆめの体柔らかい。見た目はこんなだけどちゃんと触ればぷにってするんだ。

「ほら、おとなしくしな」

 くすぐったいのか知らないけどゆめは頻繁にその細い体をくねらせる。

「こっちも」

 背中に一通り泡をつけたあたしは今度は脇から二の腕にかけて手を伸ばす。すべすべの肌にぬるっとしたボディソープを塗りたくってくすぐるように揉んであげる。

 ムニムニ。

「……ん、ひゃ…ふぅん」

 そいや、二の腕って胸の柔らかさと同じっていうけどこのゆめおねえちゃんはどうかなかな? ゆめの二の腕はちゃんと柔らかいけど……胸は。

「……………」

 もにゅもにゅ。

 あたしは、洗うっていうよりも胸の感触を想像しながら二の腕を揉む。

 うーん。でも、さすがに胸は……いや、体を洗えって言われてるんだからしてもいいんだろうけどねぇ。別に触るのが初めてなわけじゃないんだし。

「……にゃ、はん」

 そんなこと考えてる間にもゆめはあたしの手の中で恥ずかしさともどかしさに体をよじる。

「っ……みゃ!

 あたしは考え事をしてたせいと、泡でぬるぬるになっているせいもあって二の腕からあたしの手が中へとすべっていくと(わざとじゃない、わざとじゃないよ)ゆめが驚いて声を上げる。

「あ、っと。ごめん。わざとじゃないよ?」

「……彩音、さっきから手つきがやらしい」

「いやいや、んなことないって」

 ばれてたか……でも、このノリなら。

「やらしい手つきってのはこういうのをいうんだから、っさ」

「っ!!?

 あたしはかるーい感じでゆめの胸にある小さなふくらみに手を伸ばした。

 むにゅむにゅ。

「…………っ」

 お、結構やわらかい。そういやブラの上からはともかく直接触るのはひさしぶりだしちょっとは成長したのかな。

 背中から手を回してゆめの胸をむにゅっとすると、ちょっとだけへこんだり形が変わったりするのがわかる。

「ふふふ、ほらほら、どんな感じ」

「っ……」

 それが面白くてあたしは中々胸から手を離そうとしない。

 くにゅっと力をこめたり、くすぐるように撫でたり……しかも調子づいたあたしは止まらない。

 左手でゆめの胸を責めたてながら、右手を徐々に下げていてお腹をなでた。

「……ひゃ、…ぅ…」

 ゆめはか細い声をあげてあたしの行為に翻弄される。

 正面の鏡には泡まみれであたしに胸を触られながら赤面するゆめの姿が映って、それがあまりにも可愛すぎてあたしはさらに過激になっていく。

お腹を指先でくすぐって、胸ではなだらかな丘陵をゆっくり登っていき、さらには自分の胸をゆめの背中に押し付けながら首筋には優しくキスを……

(って!!

「ちょっと、抵抗してよ! やめるタイミングがないじゃん」

 危なかった〜。さすがにこれ以上は色んな意味でやっちゃいけないって。っていうかこっちはゆめが抵抗してくると思ったらしたのに、ゆめが何もしなきゃやめ時がないっての。

「………………」

 ってなんで何も言わないの? 

「……怒った?」

 まぁ、怒る、か。怒るよね〜。冷静になるとこれはあれ? 強制わいせつってやつ?

「………………」

 ゆめは何にも言わない。しかも、こっちすら向いてくれないで黙っているのが余計にあたしの不安を増長させた。

「ゆ、ゆめ〜。あのー、ごめんね」

「…………自分で、する」

「あぁ、うん……」

 逆らえるはずもなくあたしは自分についた泡を軽く流すと浴槽に戻った。

 ゆめがぱぱっと体を洗うのをなるべく見ないようにしながら、あたしは自分の行いを後悔する。

 はぁ、まずかったよね。今の。まずいっていうか……まずいよ。嫌われるってことはないだろうけど、嫌われてもおかしくないことはしたし……ちゃんと謝んなきゃ。

 ちゃぷ。

 考え事をしているうちにゆめは体を洗い終わったのか湯船につかってきた。

「……………」

「……………」

 気まずい。

 ゆめは何も言ってくれない上に、近すぎず遠すぎずというなんとも微妙な距離を保つ。さっきのを警戒してたりするんなら離れていいと思うけど、そうでもないの?

「……………」

 っていうか、無理。沈黙に耐えられません。

 ここでこうしてても仕方ないしここは頭を冷やす意味でも一回でちゃうか。

「えっと、あたし、そろそろでるね」

 逃げるように立ち上がった。

 けど、

「……だめ」

 ゆめに手を取られて湯船に引きずり込まれる。

「……それじゃ一緒に入ったって言わない。ちゃんと一緒にお風呂入る」

「え、でも……」

 ゆめはあんなことされたあとにあたしとお風呂なんか入れるの? って言おうとしたけどやめた。

 ゆめがあんなこと……っていったら悪いけどあれであたしのことを嫌いになるはずがない。あたしたちの間にある絆はあのくらいで傷つくようなものじゃない。怒らせたはともかく、嫌われたはゆめに悪い。

 ぎゅ。

 あたしが湯船に戻るとゆめは今まで保っていた微妙な距離をつめるどころかぴったりとくっついてきた。

「ゆ、め?」

 こんなことくらいならゆめといくらでもしたけど、今はそのときとは大いに違うことがある。

 今は、ここはお風呂。

 今さらだけどお風呂というのは服を着てはいるものじゃない。つまり、今あたしたちは真っ裸ってこと。

 その姿でゆめとあたしの柔肌が触れ合って、っていうか腕を押し付けられている。

「………………」

 しかもゆめは何も言わない。

 お風呂の熱さと、ゆめの熱。

(……あっつ)

 いや、これは別にゆめと裸で抱きつかれてる? からじゃなくてさっきからお風呂入ってるからのぼせてるだけで。

「……彩音」

「な、何?」

「………………なんでもない」

(……なんなんだか)

 っていうか。うぅぅ、さすがにいくらゆめが相手でもっていうかゆめが相手だからこそむしょうにどきどきしてくる。

 ドクン、ドクン

 っていうか、ゆめが腕を胸に押し付けてるからゆめのどきどきも伝わってくる。

 ゆめも、どきどきしてるんだ……っていうかそんなならなんでこんなことすんのよ〜。

「……っ」

 そろ〜っとゆめの顔を横目で見てみると、おもしろいものが見れた。

 ここまで顔を赤くしたゆめは中々みたことない。いつもは白雪みたいなほっぺを今はまるでりんご、いや、さくらんぼかな? ちっちゃいから。さくらんぼみたいにしてどうすればいいのかわからないといった顔であたしと目を合わせようとしない。

 何をもってこんなことをしてるのかは知んないけど、お姉ちゃん風を吹かせてたくせにこれですか。

(もしかして……誘ってんのかな……?)

 そんな考えが一瞬よぎりもしたけど、すぐに否定する。

 子供のゆめがそんなこと考えるわけもないし、こんなので誘ってるなんていえないだろうし、そもそもめに誘ったりなんかする度胸なんかない。たぶん、美咲に何か妙なことを吹き込まれて、それに対抗してるのか、もしくは美咲に吹き込まれたのを実行してるだけでしょ。

(ったく、美咲のやつ)

 戻ってきたら、文句いってやんなきゃ。

 って、待てよ。それを言うってことは、ゆめとこうしていたってのを言うってことで……そんなこと言った日にはそれを口実に美咲に何をさせられるか……

(……そこまで考えてのわな、とか……?)

 まさか、ね。

 ぎゅ。

 そんなことを考えていたらゆめがあたしの腕を取ってる手にさらに力をこめてあたしを体ごとさらに引き寄せた。

 美咲のこと考えてたのがばれたのかなとも思ったけど、それ以上にあたしが思うのは。

「…………」

 なんか言え! あんたは美咲に誑かされてるんだって。もう自分が何をしているのかだってわかってないっしょ!? 

 とはいえ、あたしもさっきのセクハラがあるからゆめにやめろともいえずに悶々とした時間を過ごした。

「……………彩音」

 それから数分ほどたってから、ゆめは小さく口を開いた。

「……………………………………………………………………………………バカ」

「?」

 小さくて何を言ったか聞こえなかったけどゆめはそれを最後に

「おっと」

 カクと首をたれて浴槽の縁にぶつかりそうになった。もう顔だけじゃなくて体も桃色を帯びてて、どうやら先に入っていたあたしよりも先にのぼせてしまったらしい。

「……ったく世話のかかるおねえちゃんだこと」

 あたしはため息まじりにそう呟くとふらふらなお姉ちゃんを連れてお風呂から上がるのだった。

 

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 お話というのははっきりさせないからこそいいという場合があります。

 ゆめがどんな意図をもってお泊りにきて、お風呂に一緒に入ろうだなんていって、体を洗わせたのか、湯船の中で彩音を抱きとめて何を思っていたのかはわかりません。

 というか……やりすぎですよねw ゆめも彩音も何をやっているのか。ゆめはともかく彩音なんてなにやら含むところがあって体を洗ってあげたとしか思えませんw 

 そして、美咲は本当にゆめをけしかたのか。だとしたら二つ理由が考えられますよね。

 ゆめに嘘を交えて自慢をしてたのか、それとも一緒にお風呂に入るという嘘じゃない嘘をつかって、ゆめもうまくやれという策を授けたのかw それもはっきりはしませんね。

 あ、もしくは澪がゆめをそそのかしたっていうのも考えられますね。澪がそんなことをする人とは思えないですけど、彩音に見せていたのは本当の姿ではあってもすべてではなかったと思いますし。

 まぁ、一ついえるのは彩音はゆめの言うとおりバカということですね。ただ、今回わかったのは彩音はとにかくゆめのことを子供と思っているということです。そして、ゆめは彩音にお姉ちゃん風を吹かせたがっている。妙な関係ですねw

 いつもながら外伝ですからあんまり深く突っ込まないでくれると嬉しいですw

 これはじめはベッドシーン(変な意味じゃなくて、ただ彩音のベッドで寝るところです)を書くはずだったんですけど、お風呂シーンがこれだと色んな意味でそれ以上を求めなければいけないのでとりあえずやめました。気が向けばかくかもしれません。

 あ、載せてから気づいたけど、【お姉ちゃん命令】は本編でまだやってなかった……w それもそのうち載せます。その上、その本編やってないとゆめがお姉ちゃん風を吹かせる理由も、お風呂を一緒にはいる理由も不明瞭ですね。

 

 

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