「あれ?」

 ひんやりとしたクーラーが心地いい、夏の保健室。

 放課後になって先輩とだらだらと残っていた私は、お手洗いから戻ってきたところでそう声を上げた。

「ん、ひょうかしましたか、はるかさん」

 教室に戻るようになってからもここに来たときには私物のように使ってるベッドに座りながら先輩は口の中をもごもごとさせながらはっきりしない声を出した。

「ここ、飴、残ってましたよね?」

「ふぁい。ありましたね」

「……先輩が今口のなかに入れているのはなんでしょうか」

「飴ですね。はるかさんの」

「……まぁ、いいですけど」

 私は呆れたように言ってこれも、半ば私専用みたいになってるベッド脇のイスに腰を下ろした。

「ふぅ」

 やっぱり先輩だなぁってちょっとため息をつく。

「あれ? 怒っちゃいました?」

 それを先輩は結構本気って思ったのかそんなことを言ってきた。

「別に、そういうわけじゃありません。でも、一言くらい言ってください。最後にって思ってたのに」

 たかが飴だし、いくら先輩といっても丁度最後に残ったのが好きな味の飴だったから楽しみにしてたのに、勝手に取られてたらいい気分はしないよね。

 心ではそう思ってたけど、口にそういう気持ちは乗せてないつもりだった。

 でも、それを聞いた先輩は

「……すみませんでした。はるかさん」

 妙にしおらしくそういってきた。

「え? い、いえそんな本気で……」

「いえ、はるかさんがそんなに楽しみにしてたなんて知らなくて」

「だ、だから別にそんな深い意味は……」

「今からじゃ遅いかもしれませんが……」

 と、先輩はおもむろに口の中に指を入れたかと思うと

「はい、まだ半分くらいはあるのでどうぞ」

「へ!?

 最初は何を言われたのかわからなかった。でも、目の前に差し出された小さな塊を見て何を言われたのか察する。

「って!! えぇっ!!?

 水色の光沢を放つそれは、今まさに先輩の口から出てきたもので瑞々しく光っていて、なんかちょっとエッチっぽくて……

「い、いえ、ちょ、ちょっと先輩……」

「私の食べかけじゃ嫌ですか?」

「い、嫌っていうか」

 そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないですか。

 だ、だってそんな先輩の唾液まみれで、さっきまで先輩が舐めてたもので……先輩が……舐め、て……

「んく……」

「ふふふ、ほらそんなに物欲しそうな目をしなくても食べていいって言ってるじゃないですか」

「え、いえ、だから……」

「あ〜あ、はるかさんは私の食べかけなんて、欲しくないんですね。うぅぅ、悲しいです。はるかさんに気持ち悪いなんて思われちゃって」

「そ、そんなこと思うわけないじゃないですか!? ていうか、論点がずれて……」

「じゃ、はい。どうぞ。すきなだけ嘗め回していいんですよ?」

「な、嘗め……えと……」

 うぅ、なんかこのままじゃおんなじことの繰り返しになりそう。

 もうここまできたらもらっちゃったほうが話しが早いかも。

「じゃ、じゃあいただきますからね」

 私は口元に差し出されてる先輩の手を両手で取ると

「あ……」

「ん、ちゅ」

 飴玉をつまんでいる二本の指に吸い付いていった。

 すぐに甘い味を舌先に感じて、そのまま舌を伸ばして先輩の指から飴を取り去った。

(あ、甘い……)

 これさっきまで先輩が舐めてたんだよね。なんだか、キスするより恥ずかしいかも。

 大好きな味だったキャンディ、それが今はもっと大好きになっちゃう。

「だって、これは今まで先輩が舐めていたもので、その事実がキャンディを普段の何倍もの甘さにさせていた。私は、先輩に見られているのにもかまわず夢中でその飴を……ってあれ? はるかさん、どうしたんですか? じーっと見つめちゃって」

「……勝手に人の心を語ろうとしないでください」

 呆れながら私は、初めからこのときを狙ってたんじゃないのかなって思ってさらに呆れた。

 でも、

(ちょっとだけ、本当だったかも)

「先輩が言ってたことは事実だったことを自覚している私は、その恥ずかしさを感じながらも私を理解してくれる先輩への思いを改めて高めるのだった」

「……先輩」

「はいはい、すみませんでした」

 ほんともう先輩は……

(でも、さっきのも……)

「はぁ……」

 私は疲れたようにため息をつきながら

 かなわないなぁ。

 って思うのだった。

 

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