「……トリックオアトリート」

 十月も終わろうとする日。学校帰りにあたしの部屋を訪れたゆめがそんなことを言ってきた。

「ん? どしたのゆめ?」

 あたしはベッドに寝そべって、いきなりなゆめの台詞に疑問を投げかける。

「……トリックオアトリート」

「なんだっけそれ? ハロウィン? あぁ、そういや今日だっけ?」

 言われて見ればそうだったかも? 最近はちょっと有名だけど、なんにしても日本人には別になじみのあるお祭りじゃないよね。ハロウィンって。

「………………」

「何? そんな不思議そうな顔して」

 にしても、ゆめもいきなりこんなこと言ってきて何がしたいんだか。

 あたしがゆめの顔を見るためベッドで起き上がるけどゆめは近づきはしたものの、何も言ってこないで首をかしげている。

「はい、ゆめ」

 と、机のほうにいた美咲がゆめになにやら小袋を手渡した。

「……ありがとう。はい」

 ゆめは受け取ると自分も鞄の中から何か包みをだして美咲に渡す。

「……………」

 えーと、何が起こってるの? なんでこの二人はプレゼントし合ってるの? 確かに今日はハロウィンだけどそんなの今まで気にしたことないんだし、そもそもそういう日じゃないんだし……?

「……彩音、は?」

「へ?」

「……プレゼント」

「え、いや……ない、けど?」

「あら、それは酷いわね。それともいたずらのほうがいいからわざとかしら?」

 状況をうまく飲み込めてないあたしの耳に美咲の楽しそうな声が響いてくる。

「いやいや、ちょっと待ってよ。いきなり何の話?」

「……今年はハロウィンやるって美咲が言った」

「……いつよ」

「……この前、電話で」

「あたしは、聞いてないんだけ、ど?」

 なにやら頭に嫌な予感を感じさせてあたしはあきれるように美咲をにらんだ。

「あら? 忘れてたみたい、彩音に言うの」

 わざとか。

「まぁ、でもイベントがあったら好きな人にプレゼント用意するくらい普通よね。私はゆめがしなくたってお菓子作るつもりだったし、ゆめだって私からしようって言わなくても考えたわよね?」

「……わたしは……」

 クスクスと楽しそうな笑いを浮かべる美咲はゆめにまでも巻き込んであたしを悪者にしようとしているけど、ゆめはそんな器用な嘘がつける人間じゃないっしょ。

 どうも美咲はま〜たあたしに何かするつもりみたいだけどゆめがここでそんなことないって言ってくれれば……

「ゆめ、こっち」

 あたしが美咲の詰めの甘さに安堵をしていたら美咲がゆめを手招きした。

 そして、小声で何かを耳打ち。

「……私も、美咲に言われなくたって用意した」

(うそつけ!

 明らかに今美咲に何か吹き込まれてたでしょうが!

「まぁ、そんなわけだからプレゼントを用意してない彩音はいたずらされても文句言えないわよね」

「……最初からそれが目的だったくせに」

「さて、どうかしら」

 まったくいつもいつも回りくどい方法で変なことしてきて。まぁ、そもそもあたしが断ればいい話だけど、この二人相手じゃ……。

「あ、ゆめ。そのスカーフ貸して」

「……? はい」

 あたしがうなだれている間にも美咲はゆめと結託してあたしにいたずらする算段を立てている。

 はぁ、断ったっていいよね? 大体ハロウィンって大人が子供にお菓子あげるお祭りでしょ。別に好きな人にプレゼント渡す日じゃないんだし。しかも普通いたずらっていうのは子供がするから許せるようなやつで、お菓子くれなかった相手を好きにするわけじゃないし。いくらお菓子用意しなかったからってこの二人にいいようにされる必要はないっしょ?

 あぁ、うんそうだよ。断ったっていいか。いつもいつも美咲にいいようにされてるばかりじゃねぇ。

 ボフン。

「っ!?

 あたしがプレゼントを用意しなかった自分を棚に上げてどうしようかと悩んでいたら急に視界が変わった。

 見ると、ゆめにいつの間にか押し倒されてるみたい。

「ちょ、な、なに!?

「……おとなしくする」

「いや、ちょっと、大体何かしていいなんてっ!?

 あたしが抗議の声を上げようとしていたら、いきなり両手を頭側に伸ばさせられた。

「は!? ちょ、美咲、なにすんの!

 両手首になにか布が巻きつけられる感触にあたしは不安になってあせったように美咲に訴えながら、起き上がろうとした。

「……あばれちゃ、ダメ」

 だけどゆめがその軽い体を押し付けてきてそれを妨害する。

「大丈夫よ、彩音すぐ終わるから」

「だから、なにして……っ! もうっ!

「ふふ、はい。準備できたわよ」

「じゅ、準備って……」

 その【準備】とやらが今のあたしの状態をさすのであれば、すっごく恥ずかしい状況になってることになる。

 今あたしは両手をたぶんゆめのスカーフで縛られてしかもそれがベッドの柱にくくりつけてあって身動きをとることができないわけで、しかも、ベッドに押し倒されてるわけで。

「ちょ、ちょっと……やめてよ」

 さすがにこんな恥ずかしい格好をさせられているせいで声に力が乗らないし、顔を情けなくしてると思う。

「だめよ」

「ごめんってば、ちゃんとお菓子はあげるから……さ。ね、ゆめ、ほどいて」

 いっても気かなそうな美咲よりもゆめにどうにか助けを求めた。

「……ダメ」

 けど、美咲の口車に乗っているゆめににべもなく却下される。

「さぁて、どうして欲しい?」

 美咲もベッドに乗ってきて私を見下ろしながら、楽しそうに笑う。

「ほどけ」

「それはできない相談ね。悪いのは彩音なんだし」

 悪いのは罠をしかけたあんたでしょうが!

 って言っても聞いてくれるわけないし……

「それじゃ、まずは………」

 ペロ

「ちょ、み、美咲ぃ」

 いきなり美咲が覆いかぶさってきてあたしの左頬を舐めてきた。

「な、なにすんの」

「だから、いたずらよ。いたずら。んっ…」

「っ〜〜〜」

 いってまた舌先でくすぐられるようにされるとあたしは赤面しつつ背筋を振るわせる。

「ほら、ゆめも彩音にしてあげれば?」

「……でも……彩音嫌がってる」

 あたしはこれ以上恥ずかしい思いをさせられるのかと不安になるけど、ゆめはめずらしく常識的なことを言ってくれて安心する。

「大丈夫よ、本当に嫌なら足は自由に使えるんだから蹴るなりできるでしょ。結局私たちにこういうことされるの嫌じゃないのよ」

 けど、ここにいるのはゆめだけじゃない。

「な、何言ってんの!? 人を変態みたいに」

「別にそんなことは言ってないでしょ。好きな人を受け入れるのは自然なことじゃない。ふふふ……ペロ」

「っ、もうっ〜」

「ほら、ゆめ。彩音が待ってるわよ」

「………………」

「だ、誰もまってなんか……っ!?

 美咲がゆめを促すと、少しの間ゆめはあたしと美咲を交互に見て何かを考えていたようだったけど、ついには反対側からあたしのほっぺに舌で舐めあげてきた。

 ゆめはおずおずと舌を出して、右のほっぺをチロチロと触れさせてくる。

「ぁっん、くすぐったい、って……」

 あたしは思わず、そんな声を上げちゃった。

 見なくても美咲がにやって笑うのがわかった気がする。

「ふふ、彩音、顔まっかよ……ん」

 美咲は左頬をペロペロと長い舌で嘲るように舐めて、

「……彩音、可愛い」

 ゆめは自分も恥ずかしいのか、右のほっぺを舌先だけで時折離れたりもする。

 二人は対照的だけどその大好きな二人のあったかい舌がほっぺを舐めあげる感触はあたしを痺れさせていく。

「っぁ、〜〜、も、う……ふたりともぉ…あとで覚えてなよ」

 体の自由を奪われてるあたしはせいぜい口でしか抵抗できないけど、それもこんなことされてちゃ強くいえない。

「それは怖いわね。じゃあ好きに出来るうちにもっと色々させてもらおうかしら」

「っ?」

 美咲は舐めるのをやめると一端体を離す。

 そして、

「ひゃん!

 美咲の手があるところにもぐりこんできて思わず、声を上げらさせられた。

 普段美咲の手はそんなに冷たくもないけど、こうして服の下に隠れたところを触られればその温度差に声くらいはでる。

「ちょっと撫でてるだけでそんな声出しちゃって……ほんと彩音って可愛いわね」

「やめ、てよ。そんな、とこ」

「そんなとこ、っておなか触ってるだけじゃないの」

 ナデナデ。

 美咲は指先でくすぐるようにあたしのお腹を撫でていた。

「はっ、ん……」

 くすぐったいというかなんだかもどかしいような感じでして美咲の指から逃げるように体をくねらせる。

「……あむ」

 さらには美咲は手はそのままにあたしの耳たぶを甘噛すると、あたしの羞恥の炎で体中が燃え上がる。

「ちょっ、と、いいかげんに……?」

 このままじゃどこまでされるのかって不安になってきたあたしだったけど、いつのまにか縛られていた両手が自由になってるのに気づいた。

 思わず、そっちのほうに目を向けてみるとゆめがスカーフをほどいてくれたらしいことがわかった。

「……………」

 ゆめは無表情の中にもどこかおもしろくなさそうにあたしたちを見ていた。

「っと!

「ん、きゃ!?

 あたしはとりあえず全然警戒してなかった美咲をどかしてベッドにたたきつける。

「ん、もう何よ。あ、ゆめなんでほどいてるのよ」

「……もう許してあげる」

「なんでよ、悪いのは彩音よ? 私たちにプレゼントもしないで」

「……言ってなかったんじゃしょうがない」

「……ふぅ」

 美咲はゆめの正論に肩をすくめてあきらめたような素振りを見せた。

「さっすが、ゆめ。大好き」

「っ」

 あたしは思わずゆめを抱きしめてあげる。

「……っ〜」

 ゆめは最初は驚いたみたいで体をこわばらせたけどすぐにあたしからの抱擁を甘受した。

「…………私も、大好き」

「あは、ありがと」

 慣れてはいても、まともに返されるとやっぱ恥ずい。

「……ちょっと、なに二人でいい雰囲気になってんのよ」

 あたしたちがせっかく愛の抱擁を交わしているというのに、お邪魔虫がいた。

 それにあたしたちの間は引き裂かれる、

 ま、こんな感じであたしたちは平和で幸せなハロウィンを過ごしたのだった。

 ……これがハロウィンの出来事かって話だけど……

 

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 彩音は相変わらずいじめられるのが好きな変態ちゃんですねw 

 今回は三人の難しさを色々実感しました。っていうか、何ですかねこれ?w すべてが意味わかりません。いじめるのに縛るはまだともかく、拘束したあと二人でほっぺをぺろぺろって……そもそもいじわるじゃないしハロウィンまったく関係ないし。

 そういえば、なにげにゆめの前でここまでラブラブするのは初めてなんですよね。ゆめはゆめで今まで彩音とラブラブではありましたけど、バレンタインのとき以外キスすらしてない。なのに、こんなの見せ付けられてどうだったんでしょうねぇ。彩音にするのも戸惑ってるみたいでしたし、ゆめが彩音を開放するのも何か思惑があったんでしょうか。

 あ、一応彩音の名誉のために書いておきますけど、二人にされるのを望んでたわけじゃないです。でも、結局美咲の言うとおりで大好きな二人に攻められたら簡単に篭絡してしまうということなんですよ。仕方ないです。

 外伝として彩音の話はずっと書いてきましたけど、そういう細かな気持ちが募って色々できそうなきもしてきました。と、意味深なのようでもしかしたらなんの意味もないかもしれないことを言って今回はお別れしたいと思います。

 三人にはどういった形であれこれからまだあるのでよろしくお願いします。

 

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