学校でお昼を食べるといえば、普通学校にいる時間の中でもトップクラスに楽しみだし、数少ない安らげる時間。

 普通はそうだと思う。

 私だってそう。ちょっと前よくいってた保険室で、先輩と食べてるときだって先輩の相手は疲れても、それなりには楽しかったし、授業とかに比べればはるかに過ごしてて楽だった。

 だから、先輩とお昼を一緒にするのが嫌なわけじゃないの。先輩は友だちなんだからそれがおかしなことってわけじゃないし。

 ただ……

 

「遠野さん、お昼一緒に食べましょう」

 解放感に満たされる四時間目終了のチャイムがなって、先生が教室から出て行くとそれに入れ替わるように、この数日私に会いに来る人物がいた。

 華奢な体に、寝すぎているのかたまに付いている寝ぐせ、最近八重歯が目立つことに気付いた。

 教室がざわつく中でも、別のクラス、それどころか先輩が来ていては目を引いてしまう。それでも先輩はそんな好奇の視線にも一切気にした様子を見せることなく私の机の前までやってくる。

「はいはい」

 私はなれた感じで頷くけど心中に波が立ってないはずもなかった。

「イス、貸してくださいます?

「あ、はい」

 私の前の席の人にやっぱりなれた感じでイスを拝借して、後ろ向きにすると先輩は私と向かいあった。

 ヒソヒソ。

 二人ともお弁当を広げて食べ始めると、周りから噂のようなものが聞こえてくる。

 

 ね、なんであの人ここでお昼食べてるの?

 さぁ? でも、前は遠野のほうが会いに言ってたって話だけど。

 あれって保健室にいつもいるって先輩でしょ?

 あぁ、そういえば、私も話したことあるなんか変な人、だよね。

 で、なんではるかは一緒にご飯食べてるの?

 

(…………こっちが聞きたい)

 思い返してみるとなんで先輩と教室でお昼食べてるのかわからない。

 にしても、噂をするほうは勝手で、気楽だって思う。先輩に振り回されることも無いんだし。

「……はむ」

 ため息をする代わりにお箸をくわえて、周りの話なんてまったくどこ吹く風のようにお弁当を食べる先輩を見つめる。

(……普通、居心地の悪さを感じるのは私じゃないでしょう)

 私が先輩の教室に行けばアウェーだけど、ここは私の教室なんだからそこまで気にする必要もないはずなのに、先輩は変わらず私が居心地の悪さを感じるのは不公平というか……ここまで周りをきにしないでいられる先輩がうらやましくなる。

「ん? どうかしましたか? 遠野さん」

 箸が止まって先輩を見つめているのを不思議に思ったのか先輩も箸を止めた。

「いーえ」

 まぁ、今さら先輩のやることで動揺しても仕方ないけど。

 それに、先輩にとってはきっと保健室を出ることは勇気のいることだったはずなんだから、先輩が保健室に出てくれたというだけでも進歩なんだから。本当はこの教室じゃなくて、自分の教室に戻れるようにしてあげたいけど、ここもその練習だと思えばいいの。うん。

(でも、どうして急にここに来るようにしたんだろ?)

 別に、毎日じゃないけど保健室にはいってあげるのに。気にしてない様子だけど、聞こえてないはずはないんだし、この類のヒソヒソ話は聞いて愉快になることはまずない。

「遠野さん、何考え込んでるのかは知りませんけど、お弁当のときくらい食べるのに集中したらどうですか?」

「え? あ、はい」

「まぁ、遠野さんがおかしいのは今に始まったことじゃないですけどね」

「…………」

 先輩に言われたくない。

 そもそも私はおかしくなんてないのに。

 私は五日の内三日はいれてもらってるお気に入りのミートボールを食べながら変な人に変じゃないのに変と言われたのに少し不満顔をする。

「? 何かいいたそうですね」

「べ、別に。……………先輩はなんでここで食べてるんですか?」

 私は変じゃないってちゃんと主張したかったけど、先輩にそういうことをまともに反論しても無駄なことが多いので疑問に思いつつも今まで聞いてなかったことを口にしてみた。

「また、急ですねー。まぁ、遠野さんとお弁当一緒に食べたかったからですよ?」

「それなら、保健室でもいいじゃないですか。毎日は無理かもしれないですけど行きますよ?」

「私は毎日遠野さんに会いたいですから」

「……そうですか」

 

 ねぇねぇ、あの二人ってやけになかよさげじゃない?

 あ、そういえば前お姉さまって呼んでたのを聞いたことある。

 お姉さま? そりゃいくらなんでもないんじゃないの?

 んー、まぁ聞き間違えだったかもしれないけど。

 

(……………)

 なんだか、このまま話してると妙な噂が広がっちゃいそうな気がする。

 噂をそこまで気にするほうじゃないけど、噂をされるってこと自体いいことでも悪いことでも好きじゃない。

(このままにしておけないなぁ……)

 私はまた箸を口にくわえながらそう思うのだった。

 

 

 とは思っても、先輩にどういえばいいのかも思いつかないまま二日たった。今日は気まぐれか知らないけど、お昼に先輩はこなくて、久しぶりに一人のお昼。

(まったく、来ないなら来ないって言ってくれればいいのに)

 そうだったら久しぶりにクラスの友だちとお昼食べたのに。先輩がくるのはクラスの人みんなが知ってるから向こうからは誘いづらいだろうし。

 そうだ、今日は先輩にそのこと注意しにいこ。二日も会わないと先輩寂しがっちゃうかもしれないし。

 私は一日の最後の授業を受けながら、予定を考えてるとそんなことしてる間にチャイムがなった。

 ガヤガヤとクラスが騒がしくなる中、荷物をまとめるとさっさと教室を出て行こうとした

「あ、はるか。ちょっと」

 ところを先輩がくるまでよくお昼を一緒にしてた友だちにドアを出たところで呼び止められた。

「なに、惟?」

 足を止めて友だち、惟に向き合う。

「はるか、今日も行くの?」

「ん、先輩のところ? うん、そのつもりだけど。それがどうかした?」

「どうって、わけじゃないけど、なんではるかあの先輩に会いに行ってるの?」

「なんでって………」

 それほど、困る質問でもなかったはずなのに私は口ごもった。

 改めて言われるとよくわかんないかも。先輩のことは友だちって思ってるけど、それだけじゃないよね? えーっと、調子悪い時に世話してもらった恩があって、それで先輩が友だちいなくて寂しそうだから友だちになってあげて、なんだか放っておけないから先輩がちゃんとクラスになじめるようにって人との付き合い方を教えてあげようって思って。あれ? そういえば、最近そういうことちゃんとしてないかな? あの……女の子同士で……えーと……色々する本とか読んじゃ駄目って注意したけど、それだけ? 

「はーるーか」

 グニ。

 いきなり、目の前で話していた惟にほっぺをつねられた。

「あにするの!?

「話しながら考え事しない。で、話戻すけど、あの先輩ってあんまりいい話聞かないよ?」

「そうなの?」

 ほっぺをつねる手をとりさって今度は首をかしげた。他の人の口から先輩の話が出てくるなんて思わなかったから。

「そう。変な人っていうのは有名だし、それに……」

 惟はなんだか迷いのようなものを見せて、視線を散らした。

「それに?」

「……なんか、変なことされそうになったって噂も聞くし」

「へんな、こと……」

 私の頭に浮かぶ二つの光景。

 目をつぶってって言われていきなりキスされたこと。

 消毒とかいって怪我した私の膝を舐めてきたこと。

 で、でもあれは友だちのいない先輩が、ああいうことをすることで特別な人って思われたからしたのよね? うん! 変は変だけどあれはちゃんと理由があるんだし、小学生くらいの子が仲良くするのに手をつなぐようなもの、先輩は人付き合いがそのくらいのレベルだからしょうがないの。

「……はるか? どうしたの?」

「あ、な、なんでもない」

「まさか……はるかも何かされそうになったの?」

「う、ううん。えっと……」

 どうしよう。惟からみたら変なことされてるのかもしれないけど、先輩は変だって思ってないんだし。それに、私がここで何かされたなんていったらまた噂に尾ひれがついちゃうかもだし。変な噂が広まっちゃったら先輩がクラスに戻れるようになるのも難しくなっちゃうし。

 あ、そうだ。まだ先輩にキスとか、人の髪勝手に触ったりとか、傷舐めて消毒しちゃいけないってちゃんと注意したことない。こんな噂が広まっちゃう前に早い内に注意しなきゃ。

「……はるか。話してるときは話に集中して」

「? し、してるよ。先輩のことでしょ。えーと、惟が心配してくれるようなことはないから大丈夫だよ」

「そう? なら、いいけど、あと……」

「あ、ごめん、あんまり遅くなると先輩が帰っちゃうからいくね」

「え、ちょっと、はるか、まだ話は……」

 惟はまだ何かいいたそうだったけど、先輩は放課後あんまり長く保健室に残ってないこともあるから、私は早足で保健室に向かって行った。

惟とは明日も絶対に会うけど、先輩とはもしかしたら会わないこともあるかもしれないものね。うん。

「はるかー!

 惟のちょっと怒ったような声を背中に受けながら私は

(……噂ってことはやっぱり他の人にも似たようなことしてるんだ)

 なんて、何故かそのことを気にかけたまま保健室に向かっていった。

 

中編1

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