私は昔からあんまりゲームってしない。先輩は私といないとき、というかいる時だっていつもしてるけど私はほとんど一緒にやったりもしなくて先輩がしてるのを見てるだけ。

 正直に言えば、私といるときは私だけを見てほしいけど先輩がゲームしてるのを見るのは嫌いじゃないし、先輩が楽しそうなら私も嬉しい。

 だから先輩がゲームをしててもそんなに嫌な気持ちになったりはしないんだけど………

「さーて、今日は何を狩りますかねー」

 休日の昼下がり。お昼をごちそうになってから先輩の部屋に行くと早速先輩はゲームの置いてあるベッドに寝そべってそんなことを口にする。

「あ、それともそろそろ本格的に対戦用のパーティー作りますかね。今回はタイプが一つ増えてるし、色々考えなきゃいけませんし」

 二つのソフトを見比べて何やら悩む先輩。

 私は同じベッドの上でその姿を見つめるけどまったく共感が持てない。

 最近はいつもこんな感じ。

「んー、とりあえず一狩り行きますかね」

「……………」

 もう一回言うけど、私は先輩がゲームしてるのを見るのは嫌いじゃない。先輩は私に説明してくれたりするし、いちいち大げさに反応してくれたりするから見てて面白いって思ったりもする。

(けど………)

 それにだって限度がある。

 前から新しいゲームが発売されて一週間くらいはこんな感じになることが多かったけど、今回は一か月以上もこう。

 モンスターを狩ったり、捕まえたり育てたり。

 さすがに許せるレベルじゃなくて……

「あ」

 先輩の持ってるゲーム機を取り上げた。

「ちょっとー、何するんですかぁ。はるかさん」

「…………」

 私は頬を膨らませたままも取り上げたゲーム機をベッドから離れた場所に置いた。

「今日はもう禁止です」

 ベッドに戻ってきてそう宣言する。

「……もう、もなにもまだ今日は一分もしてないんですが」

「いいから禁止です」

 私は明らかに不満を声に乗せる。かまって欲しくて。

「あれ? はるかさん、なんか怒ってます?」

「……怒ってます」

 もう一か月近くずっと。それくらい気づいてください。

「えー、っと……なんで、ですか?」

「っ……」

 先輩のこの反応はわからないでもない。私は今までは先輩がかまってくれなくても我慢してたし、こんな風に不満を表にしてこなかった。だから、先輩からすればいきなり私が怒ってるようにも見えるんだと思う。

 けど、実際は私はもうずっとこうして怒ってて、それに気づかない先輩に素直になれるはずもない。

「胸に手を当ててよく考えてみてください」

 でも、気づいてほしいっていう気持ちはもちろんあってそんな言い方になる。自分から気づいて、その埋め合わせをして欲しい。

「……わかるまでゲーム返しませんから」

 だから私はヒントを与える意味でそんな言い方をしてプイと背中を向けた。

「……ふむ」

 その一言に付け込まれる隙があったって言うことにも気づかずに。

 ふにょ。

「ひゃ!?」

 い、いきなり後ろから胸に先輩の手が伸びて思わず変な声を上げちゃった。

「な、なにするんですか!?」

「えー、だってーはるかさんが胸に手を当ててみろって言ったんじゃないですかー」

「そ、それは、自分の胸っていう意味で…あん」

「そんなことは言わなかったですよー? ただ胸に手を当ててみろって言っただけで」

 た、確かにそうだけど……

「どうやらここにはるかさんの不機嫌な理由があるらしいですから、丹念に調べませんと」

 言いながら先輩は私の胸をワシワシといじる。

「んー、ここですかね」

「ん、はあ」

「それともこっちが怪しいですかぁ?」

「あ、……ん、や、やめて、ください」

 弱々しくいう私は言葉の割にあんまり本気で抵抗してない自分がいる。

 恥ずかしいけど、こうして先輩のいじわるされるのも久しぶりだから。重ねられた肌が嬉しいって言うほうが勝っちゃう。

「……ね、はるかさん、こっち向いてください」

 急に先輩の甘い声。

「え?」

 私は理由のわからないまま振り返ると

「んー、ちゅ」

 唇を重ねられた。

「あ………」

 唇が離れてからキスされたっていうことに気づいて改めて恥ずかしさがこみあげてくる。

「はるかさん。すみませんでした」

「へ?」

 そして、しおらしい表情になった先輩から謝罪の言葉。

「確かに最近ゲームばっかりでしたよね。本当にすみませんでした」

(……気づいてくれた)

 一言ヒントを出しただけなのに、ちゃんと先輩は私の気持ちをわかってくれた。それって些細なことかもしれないけど、やっぱり嬉しい。

「……ゲームは一日一時間です」

 ただ、あっさり先輩を許すのも癪でどこがで聞いたようなセリフを発する。

「…………………善処します」

「なんで、間が空いたんですか……」

 まぁ、先輩に一時間っていう制限ができるわけないのはわかってるけど今くらいは頷いて欲しいのに。

「ところで」

「?」

 私がまたムスっとすると先輩は、今度はお腹あたりぎゅっとしながら楽しそうな声をだした。

「はるかさんは一日何時間ですか?」

「へ?」

「だから、私は一日何時間はるかさんと一緒にいていいんですか」

 また答えるのが難しい質問を。

 ううん、やっぱり簡単。

「そんなの二十四時間、三百六十五日に決まってるじゃないですか」

 本音さえ言えれば難しく考える必要なんてないから。

 恥ずかしいし、先輩相手に迂闊なこと言っちゃったなって思っちゃったりもしてる。

 でもこれが私の気持ちだから。

「はるかさん……」

 先輩の嬉しそうな声。

 それだけで私も嬉しい。

「私も同じです。二十四時間、三百六十五日。ついでにいうなら、これから先の未来もぜーんぶはるかさんのものですよ」

「……私もです」

 何気ないきっかけで思いを確かめ合う私たち。こんなこと何度もしてきたし、これからも何度だってする。

 そのたびにこんなに嬉しくなって先輩のことをもっと好きになる。

 それがとっても幸せなことに感じられて、

「先輩」

「はるかさん」

 名前を呼びながら見つめあった私たちは

 ちゅ。

 飽きるほどした、それでも飽きるはずもないキスを交わした。

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