ゆめはよく寝る。

 自分の部屋だろうと、あたしの部屋に来てようと眠くなるとベッドに上がってきて横になる。

 なんでって前聞いたら寝る子は育つとか言ってたけど、あたしが思うにこれは子供が睡眠時間をいっぱい取らないとだめってやつなんだと思う。

 まったく育ってないしね。

「んみゅ……すぴー」

 そんなわけで今日もゆめはあたしのベッドでお昼寝中。

 あたしはベッド脇でその無防備な姿を眺めてる。

「…くぅ…くぅ」

 穏やかな寝息を立てるたび凹凸のない胸が規則正しく上下する。

 ゆめや美咲があたしの前で寝るのはもう普通のことになっちゃってるけど、人前で寝るっていうのはよっぽと相手のことを信頼してないとできないことだって思う。

 無防備な自分を見せてくれる。これはゆめがあたしたちを信頼してくれてる証。

 あたしとしては当たり前のようにその信頼に応えなきゃいけないわけなんだけど……

(……たまんないなぁ)

「さっきから何やってんのよ。あんたは」

 ゆめのことを眺めてると、床に寝転がりながら雑誌を眺めてた美咲があたしに声をかける。

「なんかさー。こういう姿見せられるといたずらしたくなるなーって思って」

 あたしはゆめを眺めるのに夢中で思わず何にも考えずに答えた。

「……あんた、何言ってんの?」

「いや、だってほらこんな可愛い子が体をさらけ出しててくれたらそんなことも考えるじゃん?」

 美咲がいないところでゆめに結構いろんなことをしてきたあたしは、今日は何をしようかなって考えてて美咲との会話に気が回らない。

「…………」

 当然美咲がそんなあたしに対してなにやら不穏当なことを思っていても気づかない。

「ふーん。たとえば何するっていうの?」

「んー、そうだなー。スカートのホック外してみるとか」

「…………他には?」

「シャツめくっておへそを出すとか」

「…………………」

「あ、あと靴下脱がせて生足とかもいいよね」

「……………あんたいつもそんなことしてんの?」

「え? いつもじゃないけど、たまに寝てるところ見るといたずらしちゃうよね。つい」

 ってあれ? あたしぺらぺらと何しゃべってんの?

「っは! あ、いや、今のは冗談っていうか、受け狙いっていうか……いや、あの」

 やっとあたしは美咲に言ってはならないことを言ってしまったことに気づいて、美咲の方に向き直った。

 美咲もいつの間にか体を起こしてて、あたしに心底あきれたような目を向けている。

「ふーん。彩音はゆめにいつもそんなことしてるの」

「ち、違うって。今日はちょっと魔が差しちゃっただけっていうか。むしろ今日初めて思ったって言うか」

「そういえば、いつだったか私がつけてる下着当ててたことあったわよね。私にも同じことしてるわけ?」

 って、あたしの言い訳無視かい。

「あ、いや、あれは、た、たまたま見えちゃっただけで、み、美咲にはしたことないって」

 って、これじゃゆめにはしてるって認めちゃってるじゃん。

 あー、やば。ゆめにばらされたくなかったらとかまた脅されるよ。

「………ふーん。ほんとに?」

 あれ? なんか美咲の様子が変わった?

「ほ、ほんとだって」

 さっきまで呆れてたのと、その裏にからかいがあったような気がするのに今はちょっと怒っていうか、不満気っていうか。

「ゆめにはして私にはしてないんだ。どうして?」

「ど、どうしてって言われても………」

 だって美咲の場合ばれると後が怖そうなんだもん。

 とか言うと、それがまた逆鱗に触れそう。

 ゆめの場合は怒ってもごまかすし、むしろ怒ったところとかも可愛いから全然怒られてもいいんだけど、美咲の場合は何されるかわからないって怖さがある。

 とはいえ、それはそれで嫌いではないんだけど。恥ずかしいことさせられたりとかもしそうだからあんまり怒らせたくはない。

 まぁ、今はすでに怒ってるみたいなんだけど。

「ゆめには節操なく欲情するくせに、私にはしないってこと?」

「よ、欲情って……」

 話がややこしくなるからあえて反論はしないけど、ゆめにいたずらしたいっていうのはそういうのとはまた別の気持ちなんだよ。

 うまくは説明できないけど、スカートのホックをはずしたりめくったり、おへそ出したりとかはいやらしいことをしようとしてるんじゃなくて、一つの芸術作品を作ってる気分というか。

 衣服を乱しながらも下着は隠してうまく肌をだしたり、時にはちら見せをしたりとかしてとかそそるじゃん?

(……とか、言ったら殴られそうだし……どうしよ)

「どうなのよ?」

 あたしが黙っていると床に手を突きながらあたしへと体を伸ばしてきた。

(おっ)

 それがなんというかグラビアのポーズみたいでちょっとドキっとする。重力に従って落ちた服と肌の隙間から胸が見えそうになるところとかとくに。

「彩音は私に欲情しないの?」

 しかも潤んだ目は本当にグラビアアイドルみたいで、一度見つめあったらもう目がはなせない。

「え、っと……」

(これは、なんか試されてる、かな?)

 美咲には言って欲しいこと、もしくはしてほしいことがあるんだと思う。その正解を選ばないと今夜とか色々怖そう。

「ねぇ、はっきり答えなさいよ」

 今度は挑発的な顔で上目づかい。

(はぅ)

 これも強烈だ。

 こんな姿見せられたら、正解だとかそういう打算もなにもなく

「するに、決まってる、けど」

 正直な気持ちを答えるしかなかった。

 そもそも前提としてあたしは美咲のことを愛してるわけ。さっきはばれたら怖そうだからしないって言ったけど、美咲が寝てるところを見て色々したくなったことは数えきれない。

 こういう質問をされれば肯定するしか初めから答えはなかったの。

「……そう」

 ポーズ? をやめてあたしの前に座る美咲はあたしの答えに思いのほか安心したようにしていてその姿を意外に思う。

 かと思えば

「なら、行動で示してみなさいよ」

 その安堵してたのが気のせいだったんじゃないかって思うほど今度は高圧的な感じになった。

「へ?」

「私に欲情するんでしょ?」

「いやいやいや、意味わかんないって。大体なにしろっての」

「そんなの自分で考えなさいよ。私に欲情してるのは彩音なんだから」

「や、っていうか……その、ゆめも寝てるんだし」

 逃げ道を探そうとはしてるけど、多分無駄。こういう時の美咲はきまって容赦ない。

「ふーん、ゆめが寝てるとまずいことでもするつもり?」

「え、あ、別に、そういうわけ、じゃ……」

「ゆめに見られてまずいって思うなら、起きる前にさっさとすることね」

 ほらね。

 あたしも観念するしかない。ここでちんたらしててゆめが起きちゃったらまた面倒なことになりかねないし。

「……あー、はいはいわかりました」

 あたしは諦めたように言うと美咲の背中に手を回した。

 美咲はそれを受けて満足げに笑みを作って目を閉じた。

 あたしもそれにつられるように目を閉じて距離を縮めていく。

 もう数えきれないほどしてるのにそれでも緊張っていうか、歓喜のあまり体が強張る。

 ううん、たくさんしてるからなのかも。

 美咲とするのがどれほど嬉しくて気持ちいいかって知ってるから。

 だから、何度でもドキドキしちゃう。

「………ん」

 唇の触れ合う柔らかな感触。

 腕に抱くしなやかな体。

 漂う美咲の香り。

 いつしても、なんどしても最高だって思う。

 それと、ゆめがそこで寝てるっていうのがなんだか妙にそわそわするというか、うまく言えないけどゆめにいたずらするのとは別の背徳感があった。

(さて、と)

 そんな中あたしはちょっと邪なことを考える。

 こういう時の美咲は大体キスさえすれば満足する。

 これでキスを終えれば、「まぁ、許してあげるわ」とかクールに言ってでも嬉しそうに笑う。それがこういう怒り方をした時の美咲だ。

 だから美咲はこれ以上あたしが何かをするなんて考えてない。まだ昼間な上、あたしの言った通りいつ起きるかわからないゆめがすぐそこにいるんだから。

 けど、それが隙になるんだよ。

 あたしは片手に力を込めて美咲をぐっと引き寄せる一方、もう片方の手を美咲の胸に伸ばす。

 フニョ。

「ひゃん!?」

 その至高の果実をわしづかみにすると、美咲は思った以上に敏感に反応した。

「な、なな、なにすんのよ!!」

 やっぱりこんなことされるなんて思っていなかったみたいで美咲はさっきまでの余裕も圧力もなくはじめて胸を触られたみたいに真っ赤になってる。

「え? だって、好きにしていいって言ったじゃん」

「それはっ……」

 あたしがとぼけたように言うと美咲は言葉に詰まった。

 この機を見逃すあたしじゃない。

「というわけで」

 あたしはまた美咲へと手を伸ばす。今度は服の上からじゃなくて、服の下に潜り込ませて。

「ちょ、ちょっと、やめな、さいよ」

 めったに見れない美咲の初心な姿。弱々しい瞳の色。

「やっぱすべすべだねぇ」

「んっ、あ……あ、やね」

 くすぐるように美咲のお腹を撫でると美咲が熱のこもった息を吐く。

「こ、これ以上、は」

「だから、美咲がいいって言ったんだよ? 自分の言葉には責任を持たないと」

「こんな、つもりじゃ」

「今更そんなこと言ったって、だーめ」

 最後のだーめは耳元で囁いてみた。

「あふ……んっ」

 熱がこもるどころか色っぽい美咲の声。

(……この辺が限界かな)

 こういう終わり方が多くて申し訳ないんだけど、これ以上はまずい。後で復讐されるかもしれないし、ゆめは隣で寝てるし。

 年齢制限かけてないし。

 これ以上はいろんな理由でやめとかないと。

 そんなわけであたしはあっさりと美咲から離れた。

「?」

 美咲は何が何だかわからないといった顔できょとんとしてる。

「はい。おしまい」

「え?」

「だから、もう終わりって言ったの」

「な、なな……」

 美咲は状況が呑み込めてなくてうまく言葉が出ないらしい。

「あれ? もっとしてほしかった」

 またからかってみた。

「なっ……」

 怒られるかなって思ったけど、まだ美咲は回復してないみたいでまたかぁっとほっぺを染めた。

 この一連の美咲を見てたまにはこういうのもいいかなとあたしはいけない快感を覚えてしまう。

 今度こういう感じで何か考えてみようかなと思うけどそれが今後どう生かされるかは未定なのです。  

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