それはゆめとのあの日からしばらくたってからだった。

 美咲が来ないなんていうから一人でゆめのところに遊びに来ていたあたしにゆめが妙なことを言い出した。

「……彩音」

「んー?」

「……彩音と私って、恋人同士?」

「はえ!? な、何いってんの?」

 あいっかわらず、この子は……なにいきなり言い出してんだか。

「い、いや、違う、でしょ?」

「……でも、私彩音のこと一番好き」

「そりゃあたしもゆめのこと好きだけど……」

 あくまで親友でしょ? 親友以上の。妙な言い方だけど少なくてもあたしはそう思っている。

「……好きあってる、なら恋人同士」

「え、いや、だから、さ……えーと」

「……キスもした」

「え、あ、あ、うん。ま、まぁね」

「……あれ?」

「な、なに?」

「……彩音とキス、何回、した?」

「えっ!? えっと……」

 バレンタインの時に数え切れないくらい……じゃなくて! どうもゆめはバレンタインのことははっきりとは覚えてないけど微妙に記憶には残っているらしい。

 ここで教えると色々めんどそうだし……

「一回、でしょ? 仲直りするときにあたしからしたやつ」

「……もっとした気がする」

 あくまで記憶のかけらを探すゆめはほうけた顔で自分の記憶をたどっている。

「き、気のせいだって」

「……いつ、だっけ?」

「だ、だから、してないってば」

「……彩音嘘ついてる」

「い、いやんなことないよ?」

 ゆめは鋭いわけじゃないけど、あたしに関しては敏感になる。それもあたしが突っ込まれて嫌なときに。

「……恋人は隠し事、しない」

「じゃあ、恋人じゃないってことで……あ……」

 こ、こんな誘導尋問に引っかかるとは……しかもゆめ相手にこんな失態をさらすなんて。

「……やっぱり、隠してる」

 しかも、ゆめはブスっと不機嫌な顔して、あたしを見てくるし。

 こりゃ、ごまかすと後がうるさいな。美咲にこの話されると色々ややこしくなるし。でも正直に話してもなぁ……

「……恋人に隠し事は、ダメ」

「はぁ、しょうがない」

 っていうか、何でこんなにしつこいんだ?

 あたしはバレンタインのことをなるべく軽い感じで話した。

「ま、結局はゆめ寝ちゃったけどね」

「…………嘘」

「いや、これはほんとうなんだけど」

「……私は、そんなことしない」

「あたしも驚いたけど、酔っ払ったら人は何するかわかんないものなんだって。ほら、ゆめのお母さんとかさ」

 ま、ゆめのお母さんは酔っ払ってなくてもゆめとは別方向で変わってるけどね。

「……………………」

 ゆめも多少思うところがあるのか黙ってくれたけど、まだなにやら腑に落ちないところがあるみたい。

「……でも、彩音ひどい」

 また何言ってくるんですかこの子は……

「何がよ……?」

「……私のこと、酔わせて勝手にキスなんて、ひどい」

「ゆめちゃーん? あたしの話聞いてたかなぁ?」

 ちゃんとゆめが勝手にあたしにしてきたんだと伝えたはずなのに。

「………………ひどい」

 不機嫌にいうだけだったゆめが急にあたしや美咲じゃなくてもわかるくらいに悲しそうな顔でそうつぶやいた。

「ゆめ……?」

 え、どうしたの? たまにするよくわからないゆめの冗談? でも、そんな感じは……えーとこういうとき有効な対応は

「えーと……じゃあ、おかえしでも、してみる……?」

 これはバッドコミュニケーションだね。どう考えても選択肢間違えてる。

 ゆめにこんな白紙の小切手を渡したらなに変なことされるか……

「……おかえしって?」

「え? えーと、ゆめがあたしを好きにして、いいとか? ほら、キス……しても、いい、よ?」

 ゆめはあたしだけキスのこと覚えてるのが不公平とか思ってんでしょ? どうせゆめは臆病でせいぜいほっぺにちゅが限界なんだろうから、それならここでゆめの機嫌を直してもらったほうがいいや。

「…………しない」

「え、そ、そう」

 ありゃま。目論見失敗。

「……そんなの、恥ずかしい」

「へ?」

 …………どの口が言うんだ。

 普通の人間なら恥ずかしいこともあっさりといったりするし、お風呂一緒に入ろうとか一緒に寝ようとかいうくせに、キスは恥ずかしいんかい。

 いや、そりゃキスはやっぱ特別なのかもしれないけど、それでもゆめならしてきてもよさそうなのに。

「……でも、埋め合わせいつかしてもうら、から」

「あ、うん……」

 やっぱ今日のゆめおかしいなと思いながら、それでもゆめがおかしいのはいつものこととあたしはその日のことを結論づけるのだった。

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 ゆめとの一見がすんだ後、彩音がゆめに会いに行っている日、私はゆめに会いに行く誘いを断り一人彩音のベッドで寝そべっていた。

「……………」

 心中は複雑というほどではないが穏やかでもない。

 思い出しているのは、この前にゆめとの一見。

「二人とも、一番好き、ね……」

 ゆめがどういうつもりであんなこといったのか……まぁ、つもりもなにもないのかしら。ゆめは今はそう思ってるのよね。

「……私だって、大好きよ」

 ゆめも彩音も。一番好きなのは嘘じゃないわ。彩音も言ってたけど、比べることじゃない。私だって、彩音もゆめも一番好き。

 だから、あの時ゆめの部屋で言ったことは本心。私の嘘偽ざる気持ちだ。

 それはそうなのだけれど……

「……ふぅ」

 一つため息をしてから、寝返りを打つ。

 大好きでも、色々あるのよね……

「ゆめも……」

 今の好きに続きはあるのかしら。あったとしたら、それはどっちに向かうのだろう。

「…………………」

 想像してみるけど、どうもゆめがそうなるとはうまく描けない。

「……まぁ、ゆめなら、ね」

 色んなケースを想像してみるがそれはあくまで想像、現実にはどうなるかはわからない。だけれど、ゆめなら……

 結局、私の心の中は整理されることはなかったが消極的な覚悟やら決意を彩音に知られることなくするのだった。

 

 

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