澪という人間は普通の感覚では測れない人間だ。

 自分には興味がないが他人に対しても執着しているわけではない。

 ただあくまでそれは個人、一人である場合の話。

 ある条件であれば澪は普段から考えられないような執着を見せる。それが自分の気に入った相手であればなおさらだ。

 その意味でゆめという今は親友と呼んでもいい相手は実にありがたい存在だった。

 ゆめもまた常識の感覚にはない人間で、澪からすれば操りやすい相手である。時折突拍子もないことをして澪の想像を超えることもあるが、それを含めて澪はゆめに感謝をしている。

 自分の想像通りである必要はない。要はきっかけになればよいのだから。

 そんなわけで今日も澪は自分の欲望に従い、教室でゆめとの会話を楽しんでいた。

「ねぇねぇ、ゆめちゃん知ってる?」

「……何が?」

 様々な喧騒が耳に届く中、普通に話していても気づかれないだろうし、そもそも聞かれてまずい話というわけでもないが澪はわざわざゆめの耳元に唇を寄せる。

(あ、鎖骨のところ……、キスの後かな?)

 などという近づいたところで普通は気にもしないところに目をやって、心の中でにやついてから耳元で囁く。

「……ってね、好きな人じゃないと…………」

「……ふむ」

「……なんだって。今度彩音ちゃんに試してみたら?」

「…………」

 澪の提案にゆめはすぐには反応を示さない。澪のことを疑っているということは決してないが、今聞いたことは半信半疑のようなところもある。

 だが、澪はお姫様を思い通りに動かすための魔法の言葉を知っている。

「きっとゆめちゃんがするなら彩音ちゃんすごく反応してくれるよ」

「…………わかった。してみる」

 恋人の名を出されゆめはそうとは知らずに澪の思うとおりの反応をしてしまう。

 そして

「どうなったか聞かせてね」

 人好きのする笑みでそうゆめに要求するのだった。

 

 

 ゆめはよくわからないことをすることも多い。

 大抵は本で得た知識を試したりや、美咲に変なことを吹き込まれたりということだけど今日もまたそのよくわからないことをしてきている。

「……むぅ……?」

「あのーゆめさん? どうしたのでせうか?」

 ゆめの部屋に遊びに来いを言われのこのこやってきたのはいいけど、いきなりベッドに座らせられて背後から体中をまさぐられている。

 といってもいやらしい意味ではないんだけど。

「………んっ……ぅ……む」

 細く力のない指が脇腹や横腹をほぐし、時には脇下に手を入れても来る。

 何度も体に触られてはいてもやっぱりゆめの手は子供みたいだなって考えていると。

「……おかしい」

 お姫様が不機嫌に一言。

「何が?」

「……なんでくすぐられてるのに笑わない」

「あぁくすぐってたのか」

 言われてみると定番な場所ばっかりだったかもね。脇とか、横腹とか、お腹の下とか首元とか。

 ただ

「あたし昔からあんまそういうの感じない方なんだよね。小学校の頃とかあんまり笑わないんでむしろおかしいんじゃないのとか思われてたよ」

「……むぅ」

 ゆめは納得していないのか難しい顔で小さく唸る。

「んで、なんでまたそんなことをしてんの?」

「……好きな人にくすぐられるとすごく感じやすいって聞いたから試してみた」

「へぇ、そうなんだ」

「……嫌いな人にされると不快なだけだけど、好きな人相手だと信頼してるからくすぐったいって聞いた」

「ふむ。それは安易に試すべきじゃなかったねぇ。その理屈だとあたしがゆめを好きじゃないってことになっちゃうし」

「……………」

 ゆめの思惑はわかった。あたしをくすぐって笑わせることであたしの気持ちを確認したかったってわけだ。

 この子は意外に乙女なところもあるしね。あたしが少し特殊なこともあってその目論見がはずれて意気消沈中なわけだ。

「まぁ、そんなことしなくたってあたしはゆめを好きに決まってんでしょ」

「………知ってる」

 言葉じゃこういうし、納得もしてるというか今更疑ってはいないだろうけど当初の目的が外れて残念がってるのは見て取れる。

 慰めてあげたいとも思うしさっきの面目も立ててあげたいかなとは思う。

 つまりすることは一つだ。

「ゆめ」

「……む?」

「今度はゆめの体で試してあげると」

 とゆめに魔手を伸ばしていった。

「っぁ……ひゃ…ふ、は……っんきゃぅ……く」

(おぅ……)

 少し横腹をくすぐっただけだというのに異様に反応がいい。

「わ、ひぁ……っく……ぁあ……ん、みぅ」

 子供っぽいゆめの体型だけどきちんと女の子の体で暖かさが心地よく、こうして密着するとゆめのよい香りが漂ってくる。

「や、め……ろ……んっぁひぁあひゃふぁ……」

「やめろって言われたらむしろやめられないよねぇ」

 正直背後から触ってることも含め背徳感を感じさせる光景で、それがまたあたしを燃え上がらせる。

(えーと、たしか他にくすぐったい場所っていうと)

「ちゅ……ん、ちゅ」

「ふぁ…!! ひぁぁぅぁ……んっ」

「んー、れろ……ぴちゅ」

「……み、み……舐めるなぁ」

「えーでも、ゆめくすぐったそうじゃん。ってことはやじゃないんでしょー?」

 それとこれとは本来話は別だろうけど、今のゆめには有効なセリフだろうね。

「……ぅ……ゆ……ぁ、ひぁっふ、はは」

 耳の裏を舐めながら、片手でゆめの体を支えてもう片方の手で脇腹をくすぐるとゆめは笑いつつも、それを抑えようとしてその姿が妙にいやらしい。

(そういえば……)

 そんなゆめを見ちゃうと少しだけ邪な心も芽生えてしまって

「ここも感じやすいらしいよね」

 と、手をゆめのふともも、それも内側に伸ばしていった。

「……っ、そこ、は……っひぁっ……」

 まるで熱でもあるかのようにゆめは頬を赤く染め上げながらもはや笑い声というか喘ぎに近い声をだした。

(……まぁ、若干狙ってはいたけど)

 ゆめは弱いからね、ここ。

「ふふふ…ほら、ゆめ。どう? くすぐったい?」

 指先を触れるかどうかのぎりぎりのところでゆっくりまるで愛撫するかのように撫でていく。

「っ……んっ……くぅ……ぁ…あぁ」

 紅潮するだけでなく瞳まで潤ませるゆめ。この光景を見てくすぐりをしているっていうのはまず無理だろう。

(まぁ……いいわけするつもりもないけど)

 正直抑えられないや。ここまでのことをされたら。

「ゆめ」

 だからあたしは心の声に従い恋人のことを呼ぶと、

「……ん?」

 振り返ったゆめに

「っ……」

 あたしの唇を押し当てて、そのままベッドへ倒していった。

 そしてゆめが澪に報告するという話など知るわけもなくそのまま肌を重ねていくのだった。

 

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