夢を見た。

 詳しくは覚えてないけど、楽しいけど面白くないようなそんな夢だった。

 先輩と話してたようなきもするし、いつもどおり先輩にからかわれたようなそんな夢のない夢。

 今日話さなければ四日になる。

 ……今日は会いに行ってあげてもいいような気がする。

 すこーーーしだけ、あくまで友達としてヤキモチ妬いてたのは認めた。それを認めれば、なんとかこの不快感も説明がつくし、四日先輩と一言も交わさないのは……嫌。

 別に、好きってわけじゃないんだから!

 ただ、友達だから、友達なんだから何日も話してなければいい気分はしないから。だから、会いにいってあげるだけ。

 そんな決意をしながら私は、登校してきたはずだった。

 なのに……

「あ…………」

 教室のある廊下への角を曲がろうとした私はまさにその廊下に今頭の中に浮かべていた人物を発見して咄嗟に身を隠した。

(先輩……)

 昼休みには会いに行こうと思っていたはずの先輩がなぜか一年生の廊下にいた。

(………)

 この数日忘れていたドキドキが胸に去来する。

 久しぶりでもないのに、ずいぶん久しぶりにも感じる先輩の姿。

 四日ぶりに見る先輩は当たり前だけど特に変わった様子はなく小さな体で、ひとところにとどまらずなにやらいくつかの教室の前をふらふらとしている。

(……なにしてるんだろう?)

 別学年の廊下に用もなく来るはずがない。まして、保健室からあまり出ることのないあの先輩が。

(……私に、会いに来たの、かな?)

 希望的観測も含めて私はまずそれを思った。なんだかんだで三日先輩と顔を合わせてない、一日や二日ならちょっと体調崩してたですむかもしれないけど、三日ともなると先輩も心配してくれたのかもしれない。

 もしそうなら、先輩は私のことちゃんと友達って思ってくれてるってことで、……私に会えないのをやっぱり寂しがってるってことで。

 先輩にとって私は……会いたい人ってことで。

「ふふ」

 心が軽くなって、自然と笑顔がこぼれた。

 会いにいってあげよう。

 どんな顔をするだろう先輩は。

 久しぶりですね、って笑う? それとも、どうして無断でこなくなったって怒る? 逆にどうしてこなくなったかって不安な顔しちゃう? それとも感極まっていきなり抱きついてきちゃうかしら?

 どれもありそうで、どれもなさそうだ。

 だって、先輩なんだし。

「さて、と」

 私は鏡もないのに軽く髪を整えて、一歩を踏み出そうとした。

(さて、いとしの遠野さんが会いにいってあげますよー)

 今までの不安やら、悩んでたことやらがどこかにいっちゃったように私は笑顔で一歩を踏み出した。

(…………ッ!!?

 廊下に出た瞬間、さっきまでの気持ちや表情が一転した。

 だって、先輩が………

 誰かと、話してた。

 ちょっと意気込むために目を離してただけなのに、いつの間にか楽しそうに一年生の誰かと話をしていた。

「…………」

 私は、廊下に出たところで立ち止まって先輩のことを、先輩のことだけを見つめていた。固まって見つめるしかなかった。

 しばらくすると、

「っ!!!??

 先輩が何かを感づいたかのように私のほうを振り返って、

(っ、)

 その瞬間私は先輩に背を向けて走り去っていた。

 

 

「っは、はっ! は、……はぁ」

 なに、何これ!? なんで私逃げてるの? っ!? 今、逃げてるの!? どうして!??

 どうして!!

 なんなのこの気持ち!!

 嫌な気分、すっごく! 胸がムカムカして、頭が真っ赤になって、目の前が真っ白になって、涙まで………

(っ!!!???

 頬に暖かいものが伝ってるのを感じて私は徐々に走るスピードを緩めていって、ふらふらと教室とは離れた廊下で壁にもたれかかった。

「……なみ、だ……」

 痛む胸を片手で押さえながら空いた手でほっぺに触ると暖かな雫が指をぬらした。

「……ない、てるの?」

 嘘……なんで? どうして私泣いてるのよ??

 わかんない、……わかんない、けど、涙が止まらない。

「っく、ひっぐ」

 なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで!!!

 どこに、泣く理由があったの!?

 ただ、先輩が、先輩が………先輩が……

(先輩が、誰かと話してた、だけ……)

 それだけ、なのに。

 すごいショックで、見てられなかった、私以外の人と話してる先輩を。

 私に、会いに来たんだって、思ったのに。

 久しぶりに話しができるって思ったのに。

 早とちり、勘違い。

恥ずかしかった。

 私に会いに来たんだって、四日間会わなかったから心配して私の様子見に来てくれたんだって。

 なのに違った。

先輩は私に会いに来たんじゃなかったんだ。誰だか知らないけど、あの人に会いに来たんだ。

私じゃなくて、あの人に。

「っ」

 無意識に唇をかみ締める。

 恥ずかしかった。

期待してた自分が。裏切られたわけじゃないのに裏切られたって思った自分が。

すごく惨めですごく恥ずかしくて、だから泣いたの? 

(……違う)

 とられたって思った。先輩のこと、とられたって。

 ……私の、先輩を。

(……先輩は……私の、なのに)

 私だけの、ものなのに。

「っ!!?

 な、なに考えてんの?? 私、今なにを考えて……

(………………………………………………………………………………好き)

 心のどこかに芽生えていた感情が急に噴き出してきた。

 そうか、私、

 やっぱり、私

 私

「私……………先輩が、好き、なんだ」

 

 

 

3/六話

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