シュゥゥ

 暗い夜に似つかわしくない強い光がその色を様々に変化させながら手元で光る。

 火薬を調整するだけでこんな風に色んな色ができるんだから花火ってすごい。

「にしても、どうしたの? 急に花火なんて」

「あ、うん、まぁ、いいじゃん。やりたくなったの」

「ふーん?」

 今あたしたちは庭先でデパートで普通に売っているような花火セットを美咲と二人きりでしている。

 あたしとしてはちょっとした計略があるけど、こうして冬の花火っているのもなかなかおつなもの。

「でも、冬の花火っていうのもなかなかいいわよね」

(あ……)

 お風呂上りのせいでパジャマにコートという妙な格好した美咲は綺麗な光を放つ花火を持ちながらそういった。

「何よ? 変な顔して」

「あ、っと。ちょうど同じようなこと思ってたから」

「そう」

 美咲がちょっと嬉しそうに頷く。

 もちろんあたしも嬉しい。こうしてふとしたことだけど、好きな人と同じことを考えたりするって通じ合ってるなって思えて嬉しいもん。

 あたしも手近にあった一本を持ってその先端に火をつけ、美咲の横に並んだ

しばらく肩を寄せ合ってそうしていたけど、これだけじゃわざわざ冬に花火を探してきた意味がない。計画を実行しないと。

(でも……)

 改めて言うと思うと恥ずかしいなぁ。でも、美咲って意外にこういう不意打ちみたいなのに弱いし、どんな反応してくれるかは楽しみだなっと。

「綺麗だね」

 あたしはとりあえず計画を実行するための布石を打つ。いきなりいったんじゃ狙いすぎてた感もあるしね。

「そうね」

「でも、美咲よりも花火のほうが綺麗だよ」

 そう、ここはあえてクールに言うのがポイント。自然に出たっていうのが大切だと思うし。

 さて、美咲はどんな顔してるかな〜と。

 あたしはそこでやっと花火から美咲に視線をうつ

(って、あれ?)

 なんか美咲が異様に不機嫌そうな顔してない?

 あれ? っていうかあたしってさっきなんて言ったっけ?

「……あんた喧嘩売ってんの?」

「え?」

 あれ? 美咲明らかに怒って……ってあれ? さっきあたしって……

「わぁあ、違う違う違う!! 逆! 逆なの! 花火のほうが美咲よりも綺麗だって言おうとしただけで……」

「……なんにも変わってないでしょうが」

「え……あ……」

 うぅぅ、今度は言った瞬間に間違いに気づいた。

「……もしかして、それをいうために花火やろうなんていいだしたのかしら?」

「いや、だから、さっきのじゃなくてその……み、美咲が花火より綺麗だって良いたかってだけで……」

 この状況で正しいことをいえても、なんの信憑性というか……意味ないよねぇ。

「ほ、ほら、この前【保健室】のでもやってたけど、す、好きな人に綺麗って言われたら嬉しい、でしょ? だ、だからね……えーとー」

 どういう言い訳なんだかこれは。

「ふふ、なるほどそれじゃこのあと私は彩音を抱きしめて耳を噛めばいいのかしら?」

「っ! い、いや、そういうことじゃなくて…」

「冗談よ……でも、そうね。好きな人に綺麗って言われたら確かに嬉しいわよ」

「で、でしょ? だから、まぁさっきはちょっと間違えちゃったけど、そ、そういうことなの」

 あれ? 美咲怒ってるかと思ったけど、なんかそこまででもない感じ? 

 だ、だよねー。確かにあたしはちょっとバカやっちゃったけど言いたいことは伝わったんだろうし。

「でも」

 甘く考えていたあたしは美咲のその【でも】を聞いて背筋をゾクゾクっとさせた。

 何させられるかはわからないけど、何かさせられるときの美咲だ。

「綺麗って言われるよりももっと嬉しいことがあるわよね」

「もっと?」

「それ言ってくれたら、今回のこと許してあげるわ」

「許すって……べ、別にそこまで怒られるようなことはしてないでしょ?」

「最愛の相手に花火のほうが綺麗って言われたわよ? それも二回も」

「だ、だからそれは間違いで」

「言われたことに変わりはないわね」

「…………な、何言えばいいって言うのよ」

「ふふ、素直でよろしい」

「あ……」

 とっくに光を放たなくなった花火から手を外され、代わりに美咲はそこに手を重ねてきた。

「愛してるって言って」

「へ!?

 いたずらっぽく笑っていた美咲が別人かと思うほどに真剣な目をしてそう要求してきた。

「ちょ、な、ななんでよ」

「そのくらい言ってくれなきゃ。怒ってるのよ、私」

 今度はクールに言い放つ。

「た、楽しんでるくせに」

「あら、傷ついているところにそんなこと言われたら泣いちゃうわね」

「あ〜もう、言えばいいんでしょ言えば!

「そう、目を見て、気持ちを込めて、ね」

 美咲は重ねていた手に力を込めてきた。

 あたしはそれを合図にするかのように美咲の顔を見つめる。

(……っ〜〜〜)

 自分以上に見慣れているかもしれない美咲の顔。でも、普段は意識して見つめることなんてないからやっぱり恥ずかしい。いや、それはこれから言おうとしていることのせいかもしれないけど。

「み、美咲……」

「えぇ」

「あ、愛し……」

(っ〜〜〜!!

 無理! こんななんでもない状況で面と向かって愛してるなんていえないっての!!

「…………」

 あ〜もう! なんで美咲は黙ったままなの!? 

 ここで催促されたりちゃかされたりすればそれを理由にこっちはこっちでうやむやにするつもりなのにこんな風に黙られたら……あー、うー……ったく!!

「あ、愛してるよ美咲」

 は、恥ずかしい。

 でもいえたことに安心したあたしは油断してて

「ん、ちゅ」

 美咲のキスに何もできなかった。

「ちょ、な、何して!?

 美咲の柔らかな感触に気づいたときにはすでに行動は終わっていて、美咲は幸せでたまらないという顔をしていた。

「愛してくれてるんでしょ? ならいいじゃないの?」

「……ぅ……」

 こ、こうやって不意打ちに弱いのはあたしのほう、かも……

 なんてこと考えながらあたしはあたしで幸せそうに笑うのだった。

 

 

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