それはなんでもない日のなんでもない終わりの時間。
平たくいうと眠りにつく寸前のこと。
「ね、彩音。今日一緒に寝ない?」
もう布団も敷いてあるっていうのに美咲はそんなことを提案してくる。
「…………明日学校あるけど?」
もうベッドで横になってたあたしは、ちょっと呆れたようにそう返す。
「ふふふ、何もしないわよ。そういうこと、考えたんだ」
「っ!! うっさい!!」
そりゃ、一緒に寝るときにいつもいつもしてるわけじゃないっていうか……しないことのほうが多いけど……あぁもぅ!!
「たまには一緒に寝たいだけ。いいでしょ?」
「……別に、いいけど」
美咲と寝るのは嫌じゃないし、むしろ好きっていっていいけどさっきのがあるせいであたしはムスっとしたまま美咲を迎えいれる。
美咲はすぐにベッドにに入ってきて、まだ乾ききってないしっとりとした髪がベッドに広がってあたしにも若干の冷たさをもたらす。
「って、ちょ! ち、近すぎでしょ」
「だって、枕一つしかないんだからしかたないじゃない」
「自分の枕使えばいいじゃん」
「彩音と一緒の枕がいいわ」
「……あんた、なんか今日おかしくない?」
「別に、今日はそういう気分なだけ」
「なによ、それ。……電気消すよ?」
どうにも反応に困ったあたしは逃げるように電気を消して仰向けになる。
「………………」
見てる。
か、どうかまではわからないけど枕のへこみ具合と気配から美咲がこっちを見てるのはわかる。
ったく、ほんとになんだっての。また何か妙なたくらみでもしてんのかね。
無視しようかなって思ってしばらくは目を閉じて天井を向いていたけど一向にその気配が治まらなかったので、あたしも美咲を見返す。
「何か言いたいことでもあんの?」
文字通り目と鼻の先にいる美咲。電気を消してもこの距離だとカーテンからもれる星明かりで美咲の顔ははっきりと浮かぶ。
「別に。彩音の横顔も可愛いなってみてただけ」
「っ〜〜!!」
な、なんなの今日の美咲は!!? そりゃ、たまには一緒のまくらで寝たりもするし、美咲が突拍子もなく妙なことをいって来ることだってある。だけど、今日のは度が過ぎてるというか、なんのたくらみかと疑っちゃうよ。
「……ね、彩音」
「な、なによ」
「キス、してもいい?」
「っ!?」
さらに美咲のおかしな要望は続く。
暗闇に浮かぶ、美咲の瞳はほんの少しだけ潤んでいて、ぷるぷるの唇からは情のこもった声。ほんのりとしめっけを感じる髪からはあたしとおそろいのシャンプーの匂い。
大好きだし、この世の誰よりも美咲のことは知っているあたしだけど、何を考えているか完全にわかれるものじゃない。
「ちょ、…な……っ」
あたしは返答に困って、視線をそらす。
「そ、そういうことはしないんじゃなかったの?」
「キスだけよ、キスだけ」
困る。美咲が妙だ。
「つ、つか、いつもは勝手にしてくるじゃん。何で今日は、そんななわけ?」
「たまには、彩音の口から言って欲しいのよ。好きって」
「…………ね、どうしたの?」
いつもとあまりに違う様子に私はこの質問を閉ざせない。
「何がよ」
「なんか、マジにらしくないじゃん。なんかあった?」
「別に」
「じゃあ、なんでそんななわけ」
「むしろ、彩音が何もしてくれないからじゃないかしら?」
「なにそれ、どういう……」
「……だって、最近ほんとにゆめばっかりじゃない。私のことなんて全然ほったらかしで……」
「美咲……」
いつもならそれはあたしのせいであってあたしのせいじゃないって反論するところだけど、今は何もいえなかった。
「……寂しいじゃない。私は彩音の恋人なのよ。もっと彩音との時間が欲しいし、彩音の気持ちもいっぱい欲しいのよ……っ」
目を閉じて、近づくまでもない距離にある唇をふさぐ。
これ以上可愛いこと言われないうちに
(んっ………)
お互いを感じあうためのキス。唇を合わせるだけで言葉にしなくても気持ちを伝える。
「ん、は……」
「は、ふ……ぁ」
キスの余韻の残る中私は美咲を引き寄せた。
「美咲ってさ、」
ちょっとからかうような口調。
「……何よ。何か言いたいことがあるわけ?」
「可愛いなって思って」
「……うっさいわよ。バカ」
たまにある美咲のジェラシーへの対処も慣れてきた私は、やっぱり美咲は可愛いなぁと改めて思うのだった。