美咲が中学生のころのお話です。
美咲は過去のお話をすればするほど……このままじゃいられないかなとおもったり。
「……………ふぅ」
勉強机に座りながら私はため息をつく。
手元には三枚の紙。
一枚はこの前学校で受けた模試の結果。
二枚目は、学校以外で受けた、彩音にもゆめにも内緒で受けた模試の結果。
「………………彩音」
ほとんど無意識にそう呼びながらもっとも私を悩ませる三枚目の紙を手に取る。
進路希望調査票。
簡単に言えば、どの高校を目指すかというものだ。
そこにはまだ何も書かれていない。
(……明日提出なのに……)
彩音やゆめはもう提出してる。彩音はもらったその日に書いていた。ゆめは……少しいざこざはあったけれどちゃんと自分の目標を決めていた。
でも、私は……
「……………」
そこで私は二枚の模試の結果を見比べてみる。
その二枚は明らかに結果が違った。
学校で受けた模試のほうは、彩音が目指している高校がA判定。ゆめの目指している高校がB判定。
内緒で受けた模試は、両方ともA判定なうえ、距離的に通うことはない県内一の進学校ですらB判定だ。
ちなみに、彩音は私が学校で受けた模試の結果をちょうど一段階落とした成績で、ゆめはすべての学校がA判定だった。
もっとも、ゆめの場合はほとんど満点だから当たり前だけど。
多分、ゆめと出会ってなければ悩むことはなかった。迷わずに彩音と同じ高校に進んでいる。
それは、中学に入ったときから決めていたこと。
小学生のころから彩音を好きでいた私は、彩音の【友だち】として一生、一緒にいたいと思っていて、決めていた。高校も、大学も……その先も彩音とずっと一緒にいたいと決めていたから、悩むことなんてないはずだった。
きっかけはゆめがこのことで相談をしてきた時。
ゆめは、私たちと同じ高校に行きたいと言ってきたが、彩音はそれを珍しく怒った。
そんなもので決めることじゃないと。一緒にいたいことと、進路を見据えるのは別のことだと。いくらお互いが一緒にいたいと思っていたとしても、それは本当の意味で自分のためにも相手のためにもならないと。
正論だった。
向かう先はどちらにしても進学校。大学を前提に考えるのであれば、自分のレベルの合わない場所に行くのはそれだけで将来の道をつぶすことになりかねない。
その後も何回かそんな話し合いをして結局ゆめは、自分に合った場所を選んだ。
私は、その場から逃げたいと思いながら表面上は彩音の味方をしてた。
私は内緒で受けた模試の結果を手に取る。
私の現実はこうだ。
本当はもっとできるくせに私はいつも彩音に合わせてきた。今回の模試だけじゃなく普段のテストでも彩音よりも少しだけいい成績を狙って取ってきて、それを演技に見せないようにしてきた。
私は彩音と一緒にいたかったから。それが全てだったから。
そうじゃなきゃ、我慢してきた意味がない。
小学生の時から彩音を好きになって、でも友だちでいようって決めて、ずっと我慢をしてきた。
好きっていう気持ちを我慢してきた。
彩音と離ればなれになったら、それが無駄になっちゃう。もう三年以上もずっと我慢してきたのが、全部意味がなくなっちゃう。
「…………」
手に持っていた紙を離し、それがパサリと床へと落ちる。
(でも……ゆめは………)
ゆめが選んだのは、正しいことだって思う。それがわかるからこそ胸が痛い。まして、ゆめにはそれを選ばせておいて、自分は実力を偽って彩音と一緒にいることを選ぶ。もっと先のことなんて何にも考えないで。ただ、彩音と一緒にいたいから。
「っ……」
私は震える手でボールペンを手に取った。
彩音とゆめの顔が頭に浮かぶ。
(…………)
同時に涙で視界がにじんだ。
私は、耐えられない。私はゆめほど強くはない。一緒じゃない時間なんて耐えられない。私のいない場所で彩音が私の知らない友だちを作って、私の知らない誰かと笑いあうなんて、絶対に嫌。
私は彩音の【親友】。それ以上が望めないとしても、せめてそれだけ何があったって譲ることはできない。
この決断が彩音とゆめへの裏切りだとしても。
私は……
(……彩音が………好き……大好きなの)
そうして、私はゆがんだ文字で彩音と同じ高校を書くのだった。