それは夏休みのある日、彩音と近くの小学校の近くを歩いていた最中のことだった。
「……………」
一緒に歩いていたはずの彩音は急に立ち止ると、なぜか後ろの方を振り返っていた。
「彩音? なにしてるのよ」
「んー? さっきの子たち可愛かったなぁって思って」
「は?」
彩音の視線の先を見ると、小学校低学年と思われる女の子二人がはしゃぎながら歩いているのが見える。確かに先ほどすれ違った二人だ。
「プール上がりっていいよねー。濡れた髪が肌に張り付いてたりとかして小さい子でも色っぽく見えるよね」
「………………」
彩音がほかの子のことを可愛いというのはいつものことで、それが誰であれむかつくけど慣れている。だけど、さすがにこれは色々問題な発言にしか思えない。
「あの二人がさっきまでスク水ではしゃいでたかと思うと……いいねぇ」
「あんた何小学生に欲情してんのよ。つかまるわよ」
「してないつーの。ただ、可愛いって言っただけじゃん。ま、水着想像したのはほんとだけど。水着かぁ……今度またゆめに着て貰おうかな」
明らかに危ない発言をしている彩音を見て私は一気に面白くなくなる。
(……私が目の前にいるでしょうが)
「……そんなに水着がいいなら今度着てあげるわよ」
少し口をとがらせながら私は相変わらず視線をこちらに向けない彩音に言った。
「へ!? マジで」
それに食いついてくる彩音にあきれるとともに、私にちゃんと反応してくれたことをどこか安心する。
「あれ? でも、美咲ってスク水持ってきてたっけ?」
「……なんでスク水限定なのよ」
「だって、ゆめにはスク水着てもらおうかなって思ってたんだし」
ほんと、こいつは。心からあきれる。彩音と、
「……なら別に彩音のでいいわよ」
こんなことを言う自分に。
「あたしの……まぁ、いいけど、なんか、あれだよね」
深く考えての発言でなかった私は彩音がちょっと恥ずかしげにそう口にするのに同調して
「な、何考えてんのよ変態!」
真っ赤になった。
「いや、別に具体的には考えてないって。つか、美咲こそ何考えてたの?」
「っ……し、知らないわよ!」
そう、知らない。別に私だって具体的に何かを考えたわけじゃない。でも、彩音の水着を着るっていうのが…………恥ずかしくて……ちょっとだけ
「あはは、まぁいっか。んじゃ、急いでかえろっか」
楽しそうに笑ってようやく元の方向を向く彩音。
「ふん!」
私はなんか最近彩音にいいように操られているような気になりながらも自然に彩音の手を取って帰路を急ぐのだった。