私はことさら見た目を気にするタイプというわけではない。

 ある程度気にはしている。体重が増えれば嫌だとは思うし、あまり周りに言うことはないが可愛いものが好きだし、似合いたいと思うものもある。化粧はまだ興味はないが例えば、好きな人に綺麗といってもらえるためならばするかもしれない。

 基本はその程度だし、それを誰かに言ったりすることはない。陽菜相手ですらそういう話題は少ない。

 しかし、私も女の子である以上そういうことで陽菜にも言えず悩んでいることもあったりするのだ。



 ここに来てから丸一年が経とうとしている。

 私にとってはいろんなことがありすぎた一年ではあるが、今回話題にしたいのはそういうことではない。

 一年といえば、心の成長はもちろんのこと体の成長もあってしかるべきだろう。

「あれ? なぎちゃんどうかした?」

 あって、しかるべき、だ。

 せつな先輩と付き合い始めてからも、まだまだ陽菜と一緒に過ごす時間が多い私は、今はそろってお風呂にやってきていた。

 適当に談笑をしながら湯船につかっていたが話しながらも陽菜のある部分に視線を送っていた私に、陽菜が湯船に波を立てて顔を覗き込んできていた。

「…………なんでも、ないわ」

 私は、もう一度陽菜のある場所を一瞥したあと憮然としてそう答えた。

「そうなの?」

 と、陽菜は別にそれ以上追及してくることはなく二人湯船に並んだまま、なんとなく無言になる。

(…………)

 そんな中私は、また陽菜の体を見つめる。

 浴槽の端に背中をつけ、並ぶ私たち。特に足を組むわけでもなくおしりを湯船の下につけて並べば大体の座高がわかる。

 わずかに私のほうが低いだろうか。背筋を伸ばしているわけではないから正確ではないだろうが、ここに来たころであれば差はともかく陽菜のほうが低いとは一目瞭然だった。それが今は陽菜のほうが高い。もっとも、座高だけでなく、並んで立てば明らかに陽菜のほうが高いのだが。

 陽菜は明らかにこの一年で成長している。

 背だけでなく……

「ん? やっぱりなぎちゃん顔赤いよ。そろそろ出る」

 先ほどと同じ箇所に目を向けたところで陽菜にそういわれた私は、

「そ、そうね。そうしましょうか」

 といって、先に立ち上がった。

 いくら陽菜相手とは言え、あんなところを見ていたなどとばれたら何を言われるかわかったものではない。と、いうよりも私が恥ずかしくてたまらない。

 後から付いてくる陽菜から少しだけ逃げるように早足になって私は脱衣所へと戻っていく。

「渚」

 着替えの場所へ向かおうとしていた私は、丁度その近くにいたせつな先輩に声をかけられた。

「せつな、先輩」

「今出たところ?」

「えぇ、先輩は、今来たところ、ですよね」

「入れ違いね」

「そうですね」

 と、会話をしながら後から来た陽菜が着替えだけを持って離れたところに行くのをおせっかいなことをすると思いつつ、バスタオルで隠しながら体を拭く。

 寮という場ではあるし、一緒にお風呂に入ったことも数え切れないほどある。裸を見たし、見られた。もちろん、単純に恥ずかしいというのもあるが、今はそれとは別の恥ずかしさに私の動きは緩慢になりことさら体を隠す要因にもなっている。

「そうだ。せっかく会ったんだし、明日の朝ごはんは一緒に食べない?」

 それでも、パンツをはき、ブラをしたところで先輩からそんな誘いが来る。

「えぇ、かまいせ……」

 そこまですれば裸ほどの恥ずかしさもなく顔を上げる私は先輩の下着姿を見て思わず言葉を失ってしまった。

 先輩の下着姿。

 これも、見慣れていないわけではない。

 しかし、最近気にしていることもあり今はそれに目を奪われる。

 細くしなやかな腰、すらっ伸びる脚に艶やかな肌、先輩のそんな姿は問答無用で綺麗で、美しくて、魅力的でそれに……

(……大人っぽい、下着)

 先輩の豊満で均整の取れた胸を包む、紫色のレースの下着。

 ……私には絶対に似合いそうにない。似合うわけもない

「…………」

 落ち込みながらも私は先輩から目が離せず、気づけば胸といわず全身に目が行ってしまう。

(……せつな先輩ってやっぱり綺麗よね)

 腰とか脚とか言わず、すべてのパーツが美しい。こうして下着姿だと、頭のてっぺんからつま先まですべてが包み隠さずさらされ、その姿は官能的といってもいいのに私には気品があるようにも見え、かっこよすら感じる。

 これまではあまりそういうことを意識してこなかったし、そんな余裕もなかったけれど今ははっきり先輩は美人だと思う。

(っ。のぼ、せてるわね……)

 くらっと来てしまった私は、呆れるようにそう思った。

 それから、ふと陽菜を見てしまう。

 陽菜も着替えの最中で、今はズボンをはいたところのようだ。上半身は私と同じように裸でブラをつけている。

 ピンクで花の模様の付いた陽菜に似合う可愛らしいブラ。

 これも、私には似合いそうにない。

 いや、せつな先輩のも、陽菜のも似合う以前の問題なのだ。私が同じものをつけたところでそれは正常な機能を果たすことはできないだろう。

 なんせ

(……………小さい)

 私はブラをつけた自分の胸を不満を持って見つめる。

 ベージュ色で飾り気のないシンプルな下着。

 先輩のように綺麗でもなければ、陽菜のように可愛くもない。しかも、そこにふくらみはほとんどなく、ブラは胸を包むというよりも覆っているという感じだ。

 陽菜なんてここに来たときには私と同じくらいかそれ以下だったというのに、今はあきらかに大きくなっている。

「また買いに行かなきゃ〜」

 とか生意気なことを言う陽菜に付き添って、下着を見に行くことが多かった私はそれを身をもって知っている。

 私なんてこの一年、新しいのを買わなかったというのに。

 いや、言い方が悪い。

 新しい下着を買うことはあっても、買い【換える】ことはなかった。

 いつかはせつな先輩が見につけているようなものが似合うようになりたいと密かに思っていたりもするが……それはさしもの私も口に出すべきではないと思っているし、なにより

 ペタン。

 悲しくなる感触に、これでは言えるわけがないと自嘲する。

 沈んだまま憧憬の求め、もう一度せつな先輩を……

(っ……)

 目が、合ってしまった。それも、先輩は明らかに何かを思っている瞳でこちらを見ている。

「渚? 人の体ばかりみてどうしたの?」

「っ!! い、いえ、別にっ!」

 胸をじろじろ見るということを看破されてしまった私は、しどろもどろになってしまい。

「た、ただ綺麗で似合っているなと思っただけで………す」

 とても私からは考えられないであろう言葉を発してしまう。

「っ……」

 先輩は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になって。

「ありがと。渚も【可愛い】わよ」

 嬉しくない可愛いを言われてしまう。

「っ!! ありがとう、ございます」

 その一言にムスっとさせられた私は、そう答えると手早く着替えをしてそそくさと脱衣所を出て行く。

(……いつか、綺麗だって言わせてみせるんだから)

 そして私を知っている人が聞いたら誰もが笑うであろうことを、心に密かに誓うのだった。

 

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