(……ん、あ)
絵梨子は机の上に座らせられながら、ときなの口づけを受けていた。
ときなの舌が唇をなぞり、歯をなぞり、舌をなぞる。
ときなが何か重大なことを言ったような気がするが、それはもうキスに塗りつぶされキスが終わっても絵梨子は呆けたままときなを見ていた。
「ふふ……」
一方ときなは、キスでぬれた唇を指でなぞってからそれをなめると楽しそうに微笑む。
「……せつなもいい趣味をしてる子と付き合ってるみたいね」
それから校舎に入ったときから感じていた渚の視線にそう答えて、今度は絵梨子へとあきれ顔を向ける。
「ほら、絵梨子。いつまでそうしてるの?」
「え……え……あ?」
もうここでの目的を果たしたときなはわずかに乱れてしまった絵梨子の衣服を整え、現実へと引き戻す。
「あ、あれ?」
絵梨子は何が何だかわからないまま床に足をつき、ふらふらとした足取りのままときなに呆けた顔を向ける。
「え、えと………」
「もうお楽しみの時間は終わりよ」
「え? だ、だってさっきは……え?」
「何? 絵梨子は続きしてほしいの? 学校でそんなこと思うなんて変態さんね」
「じゃ、じゃなくて……そ、その……だ、大体ときなが先にキスしてきたんじゃない」
絵梨子としては、学校でキスをするというのはさすがに抵抗のあることではあった。一応仕事中ではあるのだし、そもそも学び舎であるこの場所でそんなことをするのは背徳感を感じてしまう。
だが、ときなに迫られてしまいなし崩し的にしてしまったのだ。なのにいきなりときなの態度が一変してしまっては混乱するしかない。
「あぁ、さっきまでのはからかってただけよ」
「か、からか……」
そんなことでしてきたのかと一瞬怒りすら感じたが
「私たちのこと覗いていた子がいたからね」
「……………え」
その一言に目を丸くした。
(……つ、つまりそれって………)
見られてたってこと?
数俊遅れてそれを理解する。
(えええええぇぇぇぇ!!!?)
「と、ととと、きな、ど、どど、どうしよう!? ま、まずいわよね。っていうか、え? ほ、本当? え? ええ?」
職場であるこの場所で、元教え子であり、今はこの学校にとって部外者であるときなとキスをしているところを見られた。
そのことに絵梨子は情けないほどにうろたえるがときなはいたって涼しい顔をしていた。
「まぁ、大丈夫だと思うわよ」
「だ、大丈夫って……」
「あの子なら、多分誰かに言ったりはしないわ。まぁ、一応後で話しておくけど。あの子と話すっていうのも目的の一つだし」
「え……、それって……」
これからしばらく絵梨子の部屋に居候してくれるという話だったのに、他の子に会うのが目的などと言われてまたも絵梨子は混乱してしまうが
「後で教えてあげるわ」
耳元でそうささやかれゾクゾクとしている間に
ちゅ。
軽くキスをされて……
「続きも、ね」
また耳元で囁かれ、覗かれたということを吹き飛ばしてしまうのだった。