それは私がせつなさんの部屋に泊まりに行ったときの一幕。

 その時はせつなさんはご飯を作ってくれていて私は部屋の方でそれを待っていた。最初は手伝うと言ったけれど、自分の作った料理を食べてもらいたいなんて引き下がるしかなかった。

「……………」

 することもなく改めて部屋を眺める私。

 簡素な部屋と言えば簡素な部屋ね。

 天原の寮もあまりものは置いてなかったけど、ここも同じような感じ。

(一か月くらいしか経ってないんだしこんなものなのかしら?)

 この部屋にあるのはベッドとテレビとパソコンとテーブルと本棚、クローゼット。一通り必要なものはそろっているけど本棚なんてスカスカでほとんど段が埋まってない。

(せつなさん、結構本読んでいたけど)

 図書室で借りるのも多かったしあんまり自分じゃ買わないのかしら? なんて考えながら軽い気持ちで本棚を眺めていると。

(あれ?)

 ほとんど小説とか、参考書とかが並んでいる中異彩を放つ本があった。

「漫画?」

 意外そうにそう言って私はついその本を取ってしまう。

(せつなさん、漫画なんて読むんだ)

 天原にいたころはほとんど、というよりも読んでいたのを見たことがない。駄目っていうことはもちろんないけど。

 なんて思いながら私は軽い気持ちでその本を開いてみた。

(四コマ漫画……?)

 私は陽菜の影響でそれなりに漫画も読んできていて最近こういう形態の漫画が増えてきてるって陽菜に聞いたな程度に思っていると

「えっ!?」

 思わず声を上げた。

(な、なんでいきなりキスしてるの?)

 最初は普通の学園物の話かと思ったらいきなり主人公の女の子と友だちの女の子がキスをしだした。

「んく……」

 パラパラとその後をめくってみてもそういうシーンが多くある。

(えっ、そ、そんな風に……?)

 しかも、一話じゃただ唇を触れ合わせるだけのキスだったけど、その後の話じゃその……もっと大人な……キスをしたり、

(そ、そんなところにも……?)

 膝とかお腹とか、さっきのキスも含めて私がしたことないようなキスをいっぱいしてる。

「んく……」

 緊張してる。

 本棚を見てみるとまだ続きがあるみたいで四巻まで置いてある。

(一巻でこれじゃ続きなんて……)

 不必要な想像をして私はますます顔を火照らせていく。

 内容も衝撃的だったけれど、それ以上に【せつなさんが読んでいる】ということが私の心臓の鼓動をはやらせる。

(せつなさん、こういうの……好きなの?)

 そんなの全然想像もつかないけど、でも……本棚にあるっていうことは少なくても興味があるっていうことで……

(わ、私とこういうことしてみたい、とか?)

「っ」

 その考えに至って私は改めて漫画を開いて……

(む、無理……)

 キスのシーンを私とせつなさんに置き換えてみようとしたけど、まともに想像すらできなかった。

(だ、だって……)

 キスはもう何度かしてるけど、ほっぺか唇に触れるだけのだし。この漫画みたいに、し舌を絡め、る……なんて……

 全然想像できないというか……考えようとするだけで頭の中が真っ白になっちゃいそう。

 それに腕とか、ふとももとか、首筋とか……さ、鎖骨なんかにもしてたりするけど……それ単体でみたら大人なキスよりも軽いことなのかもしれないけど。

 こういうのってなんだか、エ……

「っ〜〜〜〜!!!」

 な、何考えてるのよ私は!! 

 ば、ばかばかしいわ。こんな漫画一つで飛躍しすぎよ。

 せつなさんだって漫画は漫画として読んでるだけよ。別に私のことなんて考えてるわけない。

 も、もちろんまるっきり考えてもらえないのは少し残念だけ……

(って、そ、そんなことはないわよ)

 あー、もう! やめよ、やめ! こんなこと考えてもしょうがないわ。さっさと本棚に戻してせつなさんの手伝いでもしたほうがいい。

 私はようやくそう思えて手にした漫画を本棚に戻そうとして、

「……………」

 つい、手が止まる。

(せっかくだし、続きをちょっと見るくらいは……)

 そんなことを思ってしまったら人間駄目なもので、つい続きをとってしまった私は

(うわわ……)

 と、せつなさんにその姿を発見されるまで身悶えることを止められないのだった。

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