「はぁ……まったく陽菜は……」
陽菜のいなくなった部屋で私は頬杖を付きながらつぶやく。
なんだか最近せつなさんのことで陽菜にからかわれることが多くなった気がする。
やれどんなキスをしたのかとか、会ったらどんな話をするのかとか、泊まりに行ったときには何していたとか。
しかもそれを正直に話すとにやにやと余裕のある笑みを浮かべながら「そうなんだ〜」と私を小ばかにするように言ってくる。
そういうことに対しては同年代と比較して子供だっていう自覚はあるから強く言い返せなくて結局さっきみたいなやりとりをさせられてしまう。
「はぁ……」
からかわれたのだってわかってはいるけどやっぱり面白くはない。
面白くないとわかってはいるけど
「………いつかは、するの、かしら?」
それを思ってしまう自分もいる。
陽菜に読まされた小説の中でしか見たことのないようなこと。恋人同士の、特別なこと。
(せつなさんと、いつか………)
キスをして、抱き合って……甘い言葉を囁かれながら体を、重ねて……………
(って、な、何考えてるのよ!!)
いつのまにか具体的な想像を思い浮かべてしまった私は羞恥に焼かれていると
「〜〜♪」
「っ」
急に携帯がなった。そのことに一瞬驚いてしまいながらも電話を手に取ると
「っ!?」
もっと驚く。
なぜならそこにはある意味今最も話したくない人の名前が表示されていたから。
「も、もしもし」
「あ、渚?」
「は、はい。せつなさん。何か用ですか?」
「用、っていうわけじゃないけど、月野さんが渚が何か話したいことがあるみたいだから電話してって言ってたから」
「ひ、陽菜が?」
「えぇ。何かあるの?」
「いえ、その……別に」
というか、今せつなさんの声なんて聴いたら、さっき陽菜に言われたことが……
(ん?)
また顔を赤くするところだった私はせつなさんが気になったことを言っているのに気づく。
(……陽菜に言われて電話した)
あんな話をした後に?
となれば、導き出される結論は
「……渚?」
「……すみません。せつなさん。それは陽菜の勘違いです。私が今話したいのは、せつなさんではなく陽菜なので」
「え……?」
「すみませんが、今日はこれで失礼します」
と言って、私は早々に通話を切った。
そして、陽菜のことを思い浮かべ
(いつもいつも私があんたの思うとおりに動くと思ったら大間違いよ)
と、親友を説教するために部屋を出ていった。
「なん、だったの、かしら?」
わけもわからず恋人に電話を切られてしまった私は呆然とつぶやく。
そもそも最初からよくわからなかった。
珍しく月野さんから電話が来たと思ったら、渚に電話してあげて欲しいと言われ、言葉の通り電話したのに。
ほとんど話しすらできずに切られてしまった。
(渚の様子は確かにちょっと変だったけど)
電話に出た時は動揺してたかと思ったら、いきなり不機嫌になったというか……怒ってた?
何がなんなのかはわからない、ただ一つはっきりしているのは
「私が今話したいのは、せつなさんではなく陽菜なので」
「うぅ……私より月野さんと話したいって言われた……」
その事実にへこんでいる自分がいるということだった。