「あっれ〜、緊張してんの?」

 淡い照明が照らすホテルの一室。

 祐天寺にゃむはピンクのベッドに腰掛ける祥子は声をかけて、

「……別に、そんなことはありませんわ」

 抑揚のない声と共に冷めた視線を向けられる。

「そーお? それならもっと笑顔になってくんないと」

 浴室から半ばはだけたバスローブ姿で出てきたにゃむは茶化すように言うと、祥子の隣へと座り肩を抱く。

「だって、今夜の祥子はあたしのなんだから」

「…………」

 祥子は顔をしかめ、にゃむとは逆方向に視線を飛ばす。

 その表情には不本意という感情が見て取れる。

 表情の通り祥子は不快だった。

 わざとはだけさせた肌が服越しに体温を伝えてくるのも、肩に回されたしなやかな手の感触も、近づけてくる整った顔も。

「…体を好きにさせるという話はしても、どんな顔をするかなんて指定はありませんでしたわ」

 こんな無意味な抵抗しかできない自分も。

 不愉快で、情けなかった。

「それって追加で払えば心の方も売ってくれるってこと?」

「っ!」

 心を知りながら茶化すにゃむを祥子は睨みつけるが、すぐに目をそらす。

 ここにきておいて抵抗など負け惜しみでしかないから。

 普段の祥子とにゃむにはありえない会話、反応。

 バンドであれば主導権は祥子にあるが、今の二人の関係はバンドメンバーではない。

 買った者と買われた者。

 それが今の二人の力関係。

「冗談。祥子はいつも通りにしてればいいよ」

 あくまでもおちょくるようにいうにゃむだが、次の瞬間には雰囲気を一変させ祥子へと密着すると

「その仮面を剥がすのが楽しいんだから……れろ」

 妖艶な空気をまとわせ祥子の頬を舌でなぞった。

「っ……」

 濡れた舌の生暖かな感覚に顔をしかめる祥子。

 いや、舐められたから、だけではなく。

「それじゃ、いただくとしますか」

 このことを感じ取ったから。

 にゃむは祥子の服の下に手を入れると横腹を撫でまわす。

「…ん……っ…ふ」

 すぐに脱がすようなことはせず、隠された肌に触れられることを楽しむかのように指を躍らせる。

「ぁ……ふ…っ」

 その手つきはいやらしさというよりは、くすぐったさがあり思わず身を捩る祥子。

「ねーえ、祥子知ってる?」

「何を、ですの……ふっ…んぅ」

「触られてくすぐったいって感じるのは触ってる相手が嫌じゃないからなんだって。この人は危害をくわえたりしないってそう思ってるから、敏感な所に触られても嫌悪感じゃなくてくすぐったさになるんだって。祥子ってばあたしのこと信頼してくれてるんだ」

「………っ」

 真偽は知らず、にゃむのからかいと頭では理解しても反応してしまった自分が恨めしく身を強張らせる。

「むきになっちゃって。そういうとこ、可愛い……ん、ちゅ…」

 首筋に口づけるとともに腕を奥へと入れて服をずり上げていく。

「っ…ん…」

 胸にまで手が到達すると服はもうくしゃくしゃとなり、これからすることを思えば先に脱いでおいた方がいいだろうがそうしていないのはにゃむの要望。

「あたし、祥子を脱がすの好きなんだよね」

 トップスを取りさる。

「…………」

 下着のみとなったことへの心もとない感じに祥子は体を隠そうとするが

「はい、どーん」

「っ……」

 その前に仰向けに倒され、スカートのベルトを外される。

「こうやって脱がしていくたびあたしのになってく気がするっていうか」

 しゃべりながら手際よくスカートを脱がし、ベッド下へと落とす。

「あたしの目の前にいるのはオブリビオニスでも、豊川祥子でもない。ただの祥子なんだって、あたしの祥子なんだって思えるから」

「……思うのは勝手ですわ」

 下着姿となりベッドで肢体を晒す祥子はここに至っても態度を変えることはなく、涼やかに言い放つ。

「っていうか、事実じゃん?」

 だが、それはにゃむからすれば子供の意地でしかない。

「祥子、わかってる? 祥子はあたしに買われたの」

 にゃむは祥子の脇に来ると人差し指を太ももに当てるとゆっくりと上へとなぞっていく。

「…ん、っ…」

 値踏みでもするかのようなにゃむの指先。身体というよりは心を撫でるような意味をもつ行為。

「今の祥子はあたしのもの」

「ん…はぁ…ぅ」

 悔しそうに息を吐く祥子を眺め、にゃむはつくづく思う。

 お金というのもは紙ではなく鎖で出来ていて人を縛るのだと。

 もともとのきっかけはにゃむから。

 今の祥子の経済状況を見抜き、半ば冗談半分に誘いをかけた。

 祥子は最初怒りを見せた。

 当然だ。にゃむの誘いは侮辱そのもので、行為以前にそれを提案されること自体に安い人間だと侮られた事に等しく、怒りを感じるのは当たり前のこと。

 それでも今こうしているのは。

「祥子って聡いっていうより賢しいって感じだよね。何が得かって計算できちゃうんだから」

 太ももから登ってきた指が胸に到達しブラの上から乳房に指を沈める。

「……賢いことがいけませんの?」

「べっつにー。子供らしくはないけど、祥子のそういう必要なら手段を選ばないってとこ、あたしは好きだよ?」

「貴女に好かれようだなんて思っていませんわ」

「手段は選ばないくせに、そうやってプライドは捨てらんないとこも好き」

「……っ」

 にゃむは的確に祥子が触れられたくない部分に触れ、その事実に祥子は自分が子供であることを認識させられる。

「あたしだけだもんねー、こういう風に祥子のこと助けてあげられるの。素直にむーこやういこに頼ればこんなことしなくたって助けてもらえるだろうに。プライドが許さない? それともなんでお金が欲しいかって事情に踏み込まれるのがやだ?」

 今度はブラに手を潜り込ませて直接胸に触れた。

「っ。貴女には関係ありませんわ」

 身体に触れさせながらも明らかに怒気を放つ祥子。

 にゃむがそう仕向けていることを察しても抑えられない程度には子供なのが祥子。

「そ。関係ない。それが重要じゃん? あたしは祥子の理由なんて聞かないし、事情にも踏み込まない。あたしはこうして祥子を好きにできて楽しいし嬉しい。祥子は手っ取り早くお金を稼げてその分バンドに時間を使える。お金で繋がってるだけだから後腐れもないしウィンウィンってやつ?」

「…………」

 その部分に関しては頷いてしまえる。

 春を鬻ぐこと。それに自尊心が傷つかないはずはない。しかし、目的のためにどこまで自身を切り売りするかはその人間の性格やプライドだけでなくおかれた状況にもよる。

 単に金銭が目的であれば祥子がこんなことをするはずはなかった。だが、今の祥子が最も優先すべきはアヴェムジカのこと。

 そして、金銭が必要なことは事実。

 睦相手であればにゃむの指摘通りプライドが許さず、初華であれば祥子に入れ込みすぎるだろう。どちらもアヴェムジカの世界を壊すことになりかねない。

 それに……ここまできておいてそんな資格はないかもしれないがこれ以上二人を利用することも……わずかに残った人間性が許してくれない。

 結果的ににゃむを受け入れることが目的のためには最短なことと判断したからこそこうしている。

 そうでなければ顔がいいだけの女に抱かれるなど許すはずはなかった。

「……おしゃべりばかりしていないで早くなさったら?」

 会話を続けても不快さが増すだけと思ったのか祥子はそう口にする。

「おねだりだなんて。祥子、やらしい」

「………」

 予想通りの挑発には反応をせず、そんな祥子につまらないといったように嘆息するにゃむだが。

「ま、いいや。お望み通り好きにさせてもらうから」

 楽し気に笑うとバスローブを脱ぎ去った。

 下着はつけておらずその美しい裸体を晒し祥子へと倒れこむ。

「ん……ふふ。綺麗なお腹。…あむ…ちゅ、うぅっ…ん、ぱっ…」

 這い寄るような姿勢で腹部に口づけると肌を吸引し、自らの痕を残す。

 それはにゃむの癖のようなものだった。

 祥子の体に自分の痕を残す。自分のものだと主張、あるいは祥子にわからせるために。

「んー…。れろ…ちゅ…ぅう…れろ」

 そのままねっとりと舌を這わせつつ、祥子の背中へと手を伸ばすとブラを取りさった。

「っ……」

 また一つ己を隠すものがなくなり、寄る辺なさにシーツを握りしめる。

「祥子って結構おっぱいおっきいよねー。触りごたえある」

「ん、ぅ…ふ…」

 鷲掴みするように少し乱雑にその双丘を揉みし抱き、次いで指先を先端へと持っていく。

「ぁ、ちゅ…る、…ちぅぅ。ぺろ…」

 変わらず口でお腹周りをしながら、視線は胸にもっていき優しく乳首を刺激していく。

「ふ、…ぅ…ふ…ぁ、っ」

 にゃむの手練は祥子に確かな快感をもたらしていく。

「あは、もう固くなってきた」

「きゅ、…ぅ…っ! はっ…ぁ」

 フェザータッチの柔らかな刺激から急に乳首を擦られ、強い性の衝撃に不本意に声を出す祥子だが。

「っ…!」

 頬に朱を差しながらも自分を戒めるような反応をする。

「我慢なんかしてなくていいのに。……ん…ちゅ…ぅ」

 祥子の反応が芳しくないことににゃむは構わない。いつまでもそれが出来ないと知っているし、その能面を崩すのが楽しいのだから。

「ほーら、祥子。気持ちいい?」

 両乳首を優しく摘まみ軽くこすりあげる。

「とーん、とん」

 指の腹で不規則に叩き、

「くりくり」

 指先でこね回す。

「ほらほら、祥子―? どーお?」

「ふ、ぅ……んっ…」

 吐息は湿り気を帯びるが、作られた鉄面皮にはまだひびが入った程度。

「気持ちいいなら、いいって言ってくんないと……チュ…ぺろ…」

 かまわず煽りながら、にゃむは体を祥子に押し付けながら首筋を上下に舐め上げる。

「ぅ…、く…ぅ……ん」

 胸にされるのとはまた異なる舌の濡れた感触にゾクゾクっと背筋を震わせる。

 当然それだけではなくにゃむの手の平が胸を掴んだかと思うと、手のひらで固くなった乳首を転がしてくる。

「ふっ…ぅ…ふ…ぅ」

「あ、は…」

 荒くなりそうな吐息を抑える姿がみゃむの琴線へと触れ、欲動を膨らませる。

「んーーれ、ろ……ちゅ…っ」

 首から顎にかけて唾液の轍を作ると頬にキスをし、

「さーきこ」

 甘く呼んだあとその舌を祥子の唇へと伸ばし

「っ…!?」

 祥子は顔を背けてにゃむの口づけを回避した。

「残念、今日も駄目?」

 拒絶の意思を示されてもにゃむは動じはしない。ただ、言葉通りの感情は抱いている。

 もうすでに片手では数えられない程度には経験はあるが、キスをしたことはない。

 この夜を買っている以上、本気で迫ればおそらく祥子が抵抗しないだろう。しかし、強引にするつもりはない。

 その一線は祥子に許されてしたいと思っているから。

 初めてのキスはどういう感情なのか。快楽故か、単純に心を許すか、屈服の証になるか。

 どうなるかはわからない。ただ、その瞬間が来るのもにゃむの楽しみの一つだ。

 そのために。

「じゃ、代わりにこっちしちゃお」

 今宵も祥子を裸にさせよう。

「ぁ……ん、ぅ」

 にゃむの手が、指が祥子の柔肌を伝っていく。胸から、お腹、さらに鼠径部へと。

「っ…は……ぁ…っ」

「祥子、さっきの気持ちよかったよね?」

「……………」

「あたしにおっぱい弄られて、お腹も首もあたしの痕つけられて感じてるよね?」

「……………」

 祥子は答えない。肯定したくはないが否定もできないから。

「ま、祥子が気持ちよかったなんて知ってるけど」

 にゃむはショーツをなぞり指先で水気を感じる。

「ほら、濡れてる」

 わざわざ耳元で囁くにゃむ。

「でも、こんなもんじゃないから。祥子もこっち弄られる方が好きだもんね」

「…く…ぅ…ん」

 布地に指を押し付け擦っていくと少しずつ祥子の息が荒くなる。

 この事自体にそれほど強い快感を得ているわけではない。だが、この先の想像に体が反応している。

 祥子の体はもうにゃむの指を知ってしまっている。この指に狂わされた経験を記憶している。

「っ………っ!」

 思わず目を閉じると思いのほか瞳の奥が熱く潤んでいることに気付いて余計に心を乱される。

「大丈夫だってば、祥子。そんな顔しなくたって。ひどいことするわけじゃないんだから」

 ここでは焦らすことはせずショーツを脱がせ、祥子を一糸まとわぬ姿へと変える。

「…んふふ」

 好きな瞬間だとにゃむは笑う。

 眼下の少女はバンドのリーダー、オブリビオ二スではなく、同世代と比べて大人びてしまった子供でもない、ただの乙女に変わる瞬間だから。

 その愉悦に一度触れていた手を口元に持ってくると

「祥子……ん、…れろ」

 挑発するように祥子の蜜に濡れた指を舐め上げ、笑う。

「それじゃ、あたしの愛で気持ちよくしてあげる」

 祥子の眼前でそう宣言し、再び手を祥子の秘所に当てた。

 すでに濡れそぼつ陰唇を押すようになぞり指に愛液を絡めていく。

「祥子のここ熱い。それにやらしい音」

 濡らした指を巧みに動かしてクチュクチュと淫猥な音を響かせるにゃむ。

 その顔は赤く高揚にこの状況に高ぶっているのがわかるもの。

「っ、ん…ぅ…んく」

 一方祥子は当然というべきか芳しくない反応だった。

「んー、祥子のその我慢っていうか耐えてるとこ見るのも好きだけど……今日はもっと別なとこ見せて欲しいんだよねっ…」

「ぁ…っ!」

 不意ににゃむの指が膣へと突き入れ、思わず体をビクっと震わせる祥子。

「あは、祥子の中あっつ…ん、きつくて…いい」

 人差し指と薬指が熱い肉の壁に包まれ締め付けられる感覚にうっとりと吐息を零し、指を動かしていく。

 最初は単純に抽送を繰り返し。

「あ…。はぁ…ぅ……ひっ、ぃ…っん」

 爪先で膣壁を引っかき、

「ふ、っあ…ふぅー、ん、ぁ…っく」

 時には掻きまわすように指を蠢かしていく。

「ぅ、ん…あぁ……はぁ…っ」

 胸にしていた時よりも祥子の反応は良く、それを祥子も自覚して羞恥に体を熱くしていく。

「祥子、気持ちいいくせになんで我慢してるの? 我慢したって得することなんてなくない?」

「…っはぁ、貴女の、知ったことではありません……ぅ、ん…わ」

 一応、合意の上での行為だ。にゃむのいう通りことさら我慢をする必要性はないが、それでも耐えようとするのは、プライドゆえかにゃむに弱みを見せたくないからか。

「……あは」

 そのどちらだとしてもいいとにゃむは考える。

 どうせその仮面を外させるつもりなのだから。どんな理由だとしても拒めば拒むほどその楽しみが増えるというもの。

 にゃむは体を起こすと指を動かしやすい体勢へと変える。

「んふふー」

 しばらくは動きを激しくすることもなく、先ほどのように様々に祥子へと悦楽を送り込んでいくが

「……っ、く…、ぅ……ふ、ぁ、ん」

 祥子の反応は微妙に変化していく。

 ただ快楽に流されぬよう耐えているのではなく、

「はぁ…ぅ…ふ。ぁ…ぁあ」

 声には艶が混じるだけでなく、切なげなものが宿っている。

「ふふ…あぁ。祥子のそういうとこ見てるだけであたしまで感じてきちゃう…んっ…」

 祥子の理由を作り出しているにゃむはこれ見よがしにいって祥子に悦びを与え続ける。

 ただし

「…ぁ…ぅ、ん…ん…ぅ」

 祥子が一番感じる部分を意図的に避けながら。

 幾多の経験からにゃむは祥子の体を知っている。祥子が口を開かずともどこをして欲しいのかそれをわかるからこそ、避けて焦らしているのだ。

「ぅ…あ…んっ…ふ、ぅ……」

 人間も所詮は獣で、目の前にぶら下がる人参を追わずにはいられないもの。

 しかももう祥子はにゃむの手技によって快楽の淵へと連れられており、抑えが利く状態にはない。

「祥子気付いてるー? さっきから腰浮き上がらせちゃって、気持ちいいとこに指あてようとしてるの」

「っ!」

 それが真実なのか祥子にはわからなかった。そんなつもりはないが、もどかしさは事実で勝手に体が動いたかもしれないと自分でそう思ってしまう程度には限界が近いから。

「ぅ……くァ…ふぅ……」

 シーツを握りしめ、にゃむの思い通りになるまいと抵抗を見せる祥子ににゃむは

「祥子、今は頑張るとこじゃなくない?」

 一転、穏やかに語りかける。

「っ! あ、ふ…ぅん」

 祥子が欲しかった部分を優しく、優しく刺激しながら。

「そんな気を張らなくてもいいじゃん? 今の祥子はただの祥子なんだよ。むーこもういこもうみこも知らない、あたしだけの祥子。どんなに感じても、乱れても。見てるのはあたしだけ、あたししか知らない」

 「だから」と続けて、二本の指で祥子のGスポットを引っかいた。

「何もかも忘れてあたしに溺れなよ」

「っ…くぅっ…ん! っは…ぅふ…んっ!」

 突然の強く甘美な電流に祥子は体を震わせ荒く息を乱した。

「っ……ぅあ…」

 耐えるために掴んでいたシーツを手放し、代わりに腕で目元を隠す。

 それは祥子の中で理性と欲望の天秤が傾いた証。

「…す、ぅ…」

 鋭く余裕のない呼吸の後

「……し、て…」

 小さく、絞り出すようにそれを呟く。

「ん、何? きこえなーい」

 にゃむははっきりと耳に届いた声にとぼけてみせる。

 この瞬間がたまらないから。

「っ……私のこと……気持ち、よく……して…全部、忘れさせてっ…」

 飾りのなにもないただの祥子の言葉。にゃむに屈服し心を差し出す祥子からの宣言。

 にゃむは湧き上がる愉悦に喜色を浮かべ、

「もちろん。あたしの事以外なんにも考えられないようにしたげる」

 顔を隠すのがせめてもの抵抗というのがいじらしいと、弾んだ声で答えていた。

「あーむ…、ん、…ちゅ…ふ…れろ…ん」

 火照った体を同士を重ね、再び祥子の体に自らの証を刻む。

「ぁ…ふ、ぁ…ん、…ふぁあ…っそこっ…んんっ…っいぃ…も、っと…っして」

 もちろん、祥子を良くすることも忘れない。

「あは、もちろん。…あむ……ちゅ、ぱ…んっ」

 肌に口づける水音と、秘部を激しくまさぐる音が混ざり合い二人の間に淫猥な音が響き、

「ふ、ぁ…ぁっ。ん…ぅ…あ、ひぅ…んっ、そこ…っぁあ」

 そこに祥子の嬌声が響きにゃむを満たしていく。

「っはぁ…はぁ…祥子、もっと声聞かせて。祥子の可愛い声、あたしだけに聞かせて…ちゅ…っっ」

「あぁっ…っ…ふぁ。はぁ…あ、っん。お、かしく…な、る…ふぁあぁあ!」

 意識的にも無意識にも腰を躍らせ、快楽の沼へと落とそうとするにゃむの細長い指を求める。

「はぁ。は…いいじゃん、それで…。全部忘れて、あたしのことだけ考えなよ…っちゅ」

 求めに応じて指をうごかし、乳首を吸い付いて舌で転がす。

「ふ、ぁ…っあっ…っ、ん…やっ…それ、だ、め…っ…っ」

「駄目じゃなくて、もっとでしょ…れろっ…ちゅぅぅ…ぱ」

「んっ……〜〜…ん、も、っと……ぁあ…も、っとして…。ぁあぁ…っふ、ああっ。声、とまらな…あ、っ、ひぃ、…んん……っ!」

 頭の中が快楽に埋め尽くされていく幸福と屈辱に祥子はにゃむに隠した瞳をぎゅっと瞑ると、一筋の涙が頬を伝う。

 それがどんな理由が考える余裕もないまま

「あっ…ぅ…、ぁ…ぁあっ。これ…っぁあ、わた、くし…ぁああっ…」

「イっちゃう?」

「っ……!」

 ストレートな物言いに一瞬の躊躇、しかし

「っ…ぁ、イく……も、う…ぁあ…だ、め…あっふ…ぁあ…そこ…っぁああっいぃ、ですわ…はっ…ぁあ!」

 一度絶頂への坂を下り始めればもはやとどまる術はなく、にゃむからの法悦を受け入れ求める。

「いいよ、祥子。イって。あたしで祥子が気持ちよくなるとこ、見せて…ちゅぅ…ぺろ…ん、チュパ……っふぁ」

 ラストスパートとばかりにぐちゅぐちゅと膣内を掻きまわし、胸にしゃぶりついては愛の証を残す。

 そして、その時間は長くはなく。

「ぁああっ、っ…ぅ…あ…く、ぅ…んっ。っ、はぁあ、あぁ…ふあぁあ……っ――…っ!!」

 祥子は己の中に快感を押し込めるかのように身を縮ませて絶頂へと落ちた。

「…んっ、指…っ、締め付け…すごっ……はっ…ぁ…」

 祥子のエクスタシーを体で感じ、うっとりと吐息を零すにゃむ。

「ふ、ぁ……はぁ…ふ…ん」

「…………」

 達しても顔は隠したままの祥子を眺めるにゃむはその裏にある表情を暴きたくなる衝動に駆られるが。

「かわいかったよ、祥子」

 逡巡の後、実のない会話をすることを選ぶのだった。

 

 ◆

 

 初めは軽い気持ちだった。

 祥子を誘ったのは深い意味があっての事ではない。

 もともとにゃむが祥子のバンドの誘いに乗ったのは利害の一致というやつで、祥子の目的などさほど興味はなかった。

 だが実際の所、にゃむは祥子のことを大したものだとは思っている。

 何があって、何を目的にアヴェムジカを作ったのかは知らないが簡単にできることではない。

 海鈴は知らないが、睦や初華を巻き込んだくせに一線を引き立ち入らせようとはせずしかもそれを利用してなりふり構わず自分を誘い、瞬く間にアヴェムジカを作り上げ、ライブを成功させた。

 目的のために手段を選ばない執念には感心をしている。自分に同じことをしろと言われてもできないだろう。

 一種の敗北感、劣等感があった。

 だから誘いをかけた。金銭で困っていることは見て取れて、劣等感に対するちょっとした意趣返しだったのかもしれない。

 一度だけで終わらせてもよかったが、正面からでは敵わない祥子を自分のものにするということには後ろ暗い心地よさ、倒錯した快感があって。

 気付けば幾度となく夜を重ねていた。

 

「にしても可愛げなのない下着だよね。あたしがもっと可愛いのプレゼントしてあげよっか?」

 事が終わり、身支度を整える祥子の下着姿を茶化すように言ってのける。

「貴女の施しを受けるつもりはありませんわ」

 冷たい視線と声。

 少し前まで何もかも忘れ乱れていたとは思えない姿。

 だが、祥子の体の至る所ににゃむのつけた痕が先ほどまでの事が現実だと記している。

 それこそ、本来近い存在である睦や初華が見ることのない祥子がいたという証。

 にゃむの中にまた燻っていた支配欲とも独占欲とも優越感ともいえる感情を刺激した。

「施し、ね…」

 その昏い欲望に突き動かされたにゃむは祥子の背後に迫ると首元に腕を回す。

「つれないなー、さっきまであんな素直にあたしの愛に悶えてくれてたのに」

 にゃむにはまだ先ほどまでの火照りが残っており、昂ったまま祥子に残した痕を指で撫でる。

「気持ちいい。もっとぉ、ってさ」

 煽るように言って、祥子が自分のものになっていた瞬間を思い出すにゃむは体を熱くする。

 にゃむの予想、いや、望みとしては同じように思い出してはまた自分にしか見せない姿を見せてくれることだったが。

「……貴女は、あぁいうのがお好きでしょう」

 表情の見えない祥子から出てきたのは照れでも、負け惜しみでもない、嫌味のようなセリフ。

「……っ」

 その抑揚のなさはにゃむの何かを刺激した。

 これもまた言葉でしかできない抵抗、虚勢と捉えてもよかったが、望みと違う祥子の様子に冷や水を浴びせられたような、逆に自分だけが盛り上がっていたような羞恥に体が熱くなるようなそんな不快な気持ちにさせられて。

「祥子ー……あたしの愛、伝わんなかった?」

 処理しきれない感情を吐き出していた。

「悲しいなー、精一杯愛してあげたつもりなのに」

 力のない子供の負け惜しみだと流していいはずなのに。

「なんならさ、もう一回教えてあげよっか? 祥子が誰のものかって」

 気付けばそんな言葉を吐いていて、

「お好きになさっては? 今の私は確かに祐天寺さんのものなのですから」

「っ……!」

 祥子の言うことはにゃむの言葉を肯定はしているのに、何故か妙に癪に障り、

「ならお望み通り祥子に教えてあげる。あんたはあたしのなんだって」

 そのまま祥子を押し倒していった。

「……えぇ」

 目的のために手段を選ばぬ祥子がこの瞬間、どんな顔をしているのかも知らずに。