大晦日。
友達や恋人、家族と過ごしたり、イベントや初詣に行ったり。
過ごし方は人それぞれだ。でも、まぁあたしみたいに大学で地元を離れてる人間だったら実家に戻って家族でって言うのが多いのかな。
ただあたしたちの過ごし方は違う。『家族』と過ごすっていうのは間違ってないかもだけどね。
美咲だけ遠くに行っちゃうし、年越しは三人でって決めた。
特別なことをするわけじゃなくて、いつも通り三人で過ごして、夜は年末らしいテレビでも見ながらそばでも食べて三人で過ごせた幸せな一年の終わりをかみしめて、新しい年が始まるその瞬間を大切な相手と迎えたいって。
言葉にしたわけじゃないけどたぶん美咲もゆめもそんな風に思ってくれてるって、勝手に信じながら幸せな年末を送る……はずだったんだけど。
いや、なんていうか幸せは幸せなんだ。ちょっと予定通りではないことが起きちゃっただけで。
「ねー、美咲」
「なによ」
あたしたちがいるのはあたしの部屋のベッドの上。
お互い何も身に着けず、脱力したぬるい体温を感じ合ってるところ。
まぁ、身もふたもなくいっちゃうとエッチした後にベッドでだらだらとしているところなんだけど、ここでいくつかの問題に気づいちゃったわけ。
「いつの間にか年が明けてるんだけど」
「ん、あぁ。本当ね。明けましておめでとう」
「うん。おめでと。じゃなくて、明けちゃったんだよ年が」
「そうね。まぁ予定とは違ったけど、好きな人としながら年を越すのも悪くはないんじゃないの」
「それは、そうかもだけどじゃなくて!」
年の納めと始めを好きな人と一つになりながらっていうのは確かに悪いものじゃないよ。けど、問題はそこじゃない。
「ゆめに頼まれてたじゃん。仮眠取るから十一時ごろ起こしてくれって」
「…あ。そういえば、そうね」
あたしに言われて美咲もまずいことに気づいたという顔になる。
実をいうとここであたしたちはこんなことしてる場合じゃないし、するつもりもなかった。
でもゆめが夕飯を食べた後に眠いから仮眠すると言って、その時には年越し前には起こして一緒にそばを食べようって約束してた。
その後、なんとなく二人になったからってあたしの部屋で今年のことを話あっててまぁ……その、つい昂っちゃって始めちゃったんだよね。
別にほら欲求不満だったとかそういうんじゃなくて、今年も一年一緒にいられて嬉しかったみたいな会話をしてたら好きだって伝い合いたくなったんだよ。
で、今に至るってわけ。
「どうする? ゆめむっちゃ怒るよね」
「……そう、ね」
ゆめが怒る要素が多すぎる。まず約束を忘れて起こさず、一緒に年越しができなかったこと。
それだけでも問題なのに、その理由がえっちしてたからなんて知られたらいじけるなんてもんじゃない。
「私たちも忘れて寝ちゃったなんて言うのはさすがにダメだし」
「ダメに決まってんじゃん。それに後からばれたらどうするんの」
「それはさすがに避けないとまずいわよね。明日には帰るんだから、私なんて二、三日怒らせたまま別れることになるし」
「だよねぇ」
軽い会話だけでどうすればいいのかは見えて、それは美咲も同じだという顔をしていた。
「怒らせるのは怖いけど」
「起こしてちゃんと謝りましょうか」
もしかしたら隠すことはできるかもしれない。でもそれはゆめっていう恋人に対して不誠実だ。
だから怒らせることがわかってもちゃんとごめんなさいって言わなきゃいけない。
そうあたしたちは自然と同じ結論に達し、身支度を整えるとゆめに会いに行くのだった。
そして、事情を聴いてくれたゆめと三人で今年の始まりをすることになるんだけどそれはまた別のお話かな。