その日、ゆめは委員会があって放課後に少し残っていた。
委員会はいつも美咲が一緒にいるのだが、今日は美咲が風邪を引いて休んでいて寂しく委員会を終えたゆめは下校するために下駄箱へとやってきた。
この日は部活が禁止なので委員会の終えた時間となってはほとんどの生徒が下校しており、下駄箱の中はほとんどからだった。
「……あ……」
そんな中何気なく見た下駄箱でゆめは思わず声を上げた。
(……彩音の靴、まだある)
部活が禁止なのだから普通は帰っている時間ではあるが、彩音の靴はまだ下駄箱に残ったままだった。つまりは、まだ校内にいるということ。
「……………」
しばらくゆめは彩音の下駄箱を見つめる。
(…………五分、だけ)
そう心の中でつぶやくと、下駄箱から廊下に戻ってきょろきょろと周りを確認し始めた。
右へ少し行って廊下や階段を確認したかと思えば、今度は左に歩いて同じことをする。
「……………」
たまにこれから下校していく生徒たちとすれ違うが目的の相手は一向に現れない。
「……………」
そうこうしているうち、あっという間に自分で決めたリミットの五分が過ぎてしまう。
近くの教室の時計でそのことを確認したゆめは……
(………あと、三分、だけ)
今度はそう決めて、またきょろきょろとし始めた。
「……………遅い」
そして、その三分も一瞬で過ぎてしまう。
(………あと、二分、待つ)
さらに時間を引き延ばすゆめだったが、
「………………」
彩音は一向に現れない。
(……あと、一分)
これで最後と決め、今度はふらふらとしないでクラスの下駄箱の前でただ彩音を待った。
(……十、十一、…十二)
心の中で数を数えだすゆめ。最初は自分の感じる時間をそのままに数えていたが、
(……三十………三十一…………三十二………………………三十三)
どんどん自分の中で時間がゆっくりとなっていく。
しかし、
(五十八…………………………………五十九……………………………………………………………六………………十)
無情にも通常よりもはるかに長かった一分は過ぎてしまった。
「あ、ゆめだ……」
クラスの友達の付き添いで図書館で時間をつぶしてたあたしは帰ろうと下駄箱へと続く廊下に出るとゆめの姿を見つけた。
「? なにしてんだろ?」
ゆめは下駄箱の前きょろきょろと右左と見回している。
あたしはなにしてるのか気になってゆめからは見えない位置に隠れながらゆめを観察することにした。
ふらふら、きょろきょろとゆめは落ち着かない様子でやっぱり廊下を気にしてるみたいだ。
(誰か、待ってんのかな?)
下駄箱前であんなことするのはそのくらいしか思いつかない。
誰かっていうか、あたしか。美咲は休んでるし、ゆめが待つっていったらあとはあたしくらいしかない。
(にしても……)
ここからじゃ表情までは見えないけど、なんだか寂しそうな感じは伝わってくる。
(ゆめ、かわいー)
靴はまだあるからあたしがいるっていうのは確信してるんだろうけど、いつくるかまではわかるはずもなくて待ちわびているように見える姿は、あたしの妄想分も含めて可愛かった。
出て行ってあげるのは簡単なんだけどゆめがどんな風にするか気になってちょっとこのまま観察してみることにした。
(ふふふー)
最初ゆめは廊下を右へ左へ少しいってその先を見渡してたけど、しばらくすると動かなくなって頭だけを動かしてあたしのことをさがしている。
今のゆめがどんなこと考えてんのかなーとか、そんなにあたしと帰りたいのかなとか、このまま出て行かないとどうなるのかなとか色々考えながら見てるのは不謹慎だけど予想外に面白い。
「あ……」
ただ、ゆめの忍耐にも限界はある。
ゆめは最後に廊下を確認するとしゅんと落ち込んだように下駄箱へと歩き出した。
「限界、かな、っと」
それを見たあたしは早足に下駄箱に向かっていって
「ゆーめ」
と後ろから声をかけた。
「っ……彩音」
ずっとあたしを待っていたくせにゆめは一瞬驚いただけで冷静にあたしを呼んだ。
「どしたん、ゆめ。こんな時間までさ」
これはちょっといじわるかな。
「…………彩音を待ってた」
って、まともに応えられちゃったよ。
「そ、そう。ありがと、んじゃ、一緒に帰る?」
純真なゆめにちょっと胸を痛ませながらあたしはゆめが言ってもらいたく、あたしの望みでもあることを提案し、
「……うん」
大きくうなづくゆめにあたしの罪悪感が膨らんだのはいうまでもなかった。
正確な時期は考えてませんけど、ゆめが彩音と美咲の友達になってそんなに経ってない時期のお話です。ゆめがこういうことするのはいいですけど、彩音ひどいですねーw こういういたずらは美咲がするほうがあってたかも。