※これはおまけであり、本編とは一切関係ありません。

 今回香里奈が玲菜の名前を覚えていないというネタを使ってしまいましたが、本来は別のところで使おうと思っていたのでそれを載せてみます。  ちなみに、これがあったからと言って玲菜の相手が香里奈になるわけでも、香里奈が候補から外れるわけでもないです。

 

「……なぁ、香里奈」

 二人きりの部室。いつものソファで香里奈を膝枕する玲菜は、かねてより気になっていたことを香里奈へ聞いてみることにした。

「ん、なぁにぶちょー」

「私とお前は……その、付き合っているんだよな」

 頬を若干染めながら問いかける玲菜の姿は以前玲菜からは考えられない。だが、今は自然とそれができる。

「うん、そうだよ。ぶちょーのこと大好き」

「う、む」

 肯定されたものの玲菜の表情は芳しくない。

 それもそのはず。玲菜が気にしているのは、そのことではないのだから。

「…………」

「? ぶちょー、どうかした?」

 香里奈はそれにすばやく気づき、首をかしげながら問いかける。

「いや、その……」

 玲菜はそれでも気恥ずかしそうになかなか切り出せずにいた。

「もー、ぶちょー。どうしたの? 私とぶちょーは恋人同士なんだから何でも言ってよー」

「…………」

 付き合うという行為が初めての玲菜にとってはっきりそう言ってもらえるのは嬉しいことではあるのだが、その中に玲菜を悩ませている単語が二回も出てきていた。

「なら、言わせてもらうが」

「うん、何でも言って―」

「普通、恋人同士というのは名前で呼び合うものではないのか? もう、それなりに経つのだからそろそろ名前で呼んでくれてもいいと思うのだが……」

 恋人という関係にはなったが、今のところそれまでと比べてほとんど進展がない。そのきっかけというわけではないが、恋人と呼べる証のようなものが欲しい。

(まぁ、名前で呼び合ったからと言って【恋人】になるわけではないだろうが)

 それでも以前とは違った関係への一歩にしたい。

「んー、そうかもね」

「うむ。なのでこれからは名前で呼んでくれると嬉しいのだが」

「うん。わかった」

 香里奈はあっさりと玲菜の要求をのんだ。正直、香里奈のことだから「ぶちょーはぶちょーだし」みたいなことを言って受け入れてくれないとも考えたが杞憂だったらしい。

 と、安心する玲菜だったがもっと別のところに問題があった。

「あれ? そういえばぶちょーの名前ってなんだっけ?」

「なっ!!?」

 さすがに言葉を失う。

 恋人という立場以前に、これほどの時を一緒に過ごして名前がわからないと言われる。恋人の矜持以前に先輩として、いや同じ時を過ごした人間として落ち込んでしまう。というよりも自信を無くしてしまう。

「お、お前、私のことを好きなんじゃないのか」

「え? 大好きだよ? お姉ちゃんよりも好き」

「なのに名前を忘れるというのは、恋人という以前に人としてどうなのだ」

「忘れたんじゃないもん」

「実際わからないと言っているだろう」

「最初から覚えてなかっただけだもん」

「なおさら悪いわ!」

 これで香里奈への気持ちが変わることはない。だが、さすがの玲菜も呆れて膝枕していた香里奈をどかして立ち上がった。

「あ、ぶちょー。ひどーい。頭うっちゃったよー」

「今日はもう帰らせてもらうぞ」

「えー? まだ来たばっかりだよー」

「知らん!」

 悩んでいた自分が馬鹿らしく玲菜は語気を強めて言い放つと部室を出て行こうとしたが……

「だーめ」

「っ!!?」

 甘い声ささやかれ、背中から抱きしめられた。

「か、香里奈?」

 ふくよかな肢体を背中に感じながら玲菜は様子の違う香里奈に戸惑いながら、首だけをかしげて香里奈を見つめる。

「駄目だよ、れ・な」

「!!?」

 初めて呼ばれる恋人からの名前。香里奈とは思えぬ少女らしからぬ雰囲気。

「っ!?」

 香里奈の手が玲菜の手に伸びて指を絡ませられる。

 子供のように暖かな香里奈の手。

 しかし、今は……

「好きな人の名前を忘れるわけないじゃない。さっきのは玲菜のことをからかってみただけ」

 おおよそ香里奈らしくない態度。

 その初めての姿は玲菜に動悸を起こすには十分すぎた。

「か、香里奈……?」

「ほんとは私だってずっと玲菜ってよんでみたかったんだよ? でも、私が変わったら玲菜が困っちゃうかなって思ってたの」

「お、おまえ……」

 言葉が出てこない。あまりの豹変ぶりに本当に香里奈かと疑ってしまうほど今の香里奈は普段の香里奈からかけ離れていた。

「……私だっていつまでも子供じゃないんだよ? 玲菜にふさわしい女の子になりたいってずっと思ってきたんだから」

 そんな玲菜を見透かしたらように香里奈は言う。

「っ……」

 そんな香里奈に玲菜は、玲菜こそが初心な少女のように頬を染めてうつむいた。

「玲菜」

「……っ、か、りな」

 正面に回ってきた香里奈の顔が恥ずかしくて見ることができない。

「好きだよ玲菜」

「っーーー!!」

 それはこれまで玲菜がもらったどの好きよりも大きな気持ちが乗り、なによりどんな好きよりも嬉しく。

「ぁ………」

 潤んだ瞳で見つめあう二人。

 そして、どちらともなく目を閉じると

 香里奈は玲菜を抱き寄せ

「っん」

 初めてのキスを交わした。

 

 

 ※あくまでおまけです。

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