余裕のない時ほど時間はあっという間に過ぎて。
早くも明日はデートの日。
もともと日数はなかったとは言え、何の準備もできないままに前日を迎えてしまったことのは恥ずかしい限りだけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
(何か……何か考えないと)
この日、授業は朝からだけで午前中には自由になった私はせつなさんと入れ違いになるように家に帰ってきていた。
(気が、重い)
出ていくときに「明日のデート楽しみにしてるから」なんて言われてしまって、頭を抱えたくなる。
何も予定がないのだから。
「はぁ……」
ベッドに横になりながらため息をついても仕方はないのだけれど、ため息くらい出るもの。
デートってどうすればいいのかわからない。
概念はわかる。経験もしてきた。
でもそれだけ。
自分が主体になって意中の相手に楽しんでもらう方法なんて考えたこともないのだから。
「うぅあ…」
この数日どうすればいいのかをずっと考えてきたけれど、具体的な案は全然思いつかなかった。
デートといえば、相手の趣味に関する場所やテーマパーク、動物園や水族館、博物館に行くこと。後は買い物や映画なんかもそうだし、そもそも極端に言えば二人で散歩をするだけでもデートと言えるでしょう。
その無数の選択肢の中からどれを選んでいいのかはさっぱりなのだけど。
趣味はあまり多くない。本を読むことは私もせつなさんも好きだけど、デートに活かせるかといえば疑問。
テーマパークは……いったことがないわけではないしそれなりには楽しめてはいたけど、私もせつなさんも人混みは得意ではないし、急遽明日行くというには準備できていない。
動物園や水族館なんかは悪くはない。しかしタイミングの悪いことに水族館デートは一か月ほど前にせつなさんが漫画で見た水族館に行こうと誘われて行ってきたばかり。
(そういえば、高校の時には漫画なんて呼んでなかったのにたまに見るな)
大学のあのなんといったか忘れた友達が貸してくれると言ってったっけ。
と、それは今はいいとして。
あとは買い物?
それも悪くはない。ただ、よく年ごろの女の子がするように服を延々と選んだりもしなければ、アクセサリーや小物を見て回るのもあまりしない。
「……私たちって少し変わってるのかも」
それを負い目だったり悪いと思ったりはしないが、こういう時は少し困ってしまう。
デートの選択肢は気づけばほとんど限られてしまっていて、さっき思いついた中じゃ映画くらい?
映画や、ちょっと手軽に手は出ないけれど舞台なんかもいいとは思う。
ただ映画は特に興味があるものはやっていないし、舞台は興味はあれど前日にどうにかできるようなものじゃない。
「……………はぁ」
思いついた選択肢をつぶしてしまった私は再度ため息をつく。
いつのまにか買っていた二人用の枕に顔を頭を預け、このまま夢の中に逃避したいような気持にもなるがそんなわけにはいかず
「……せつなさん」
枕の残り香にふと恋人のことを思い浮かべて
「せつなさんとのデートはいつも楽しかったな」
連動してそれを思い出す。
せつなさんとのデートで楽しくなかったことなんてない。
天原にいたときから、少し町にでて買い物をするとか、喫茶店で紅茶を飲むとか、それこそ寮の周りを散歩するだけでも楽しかった。
何か特別なことをしたわけではないのに、私もだけれどせつなさんもいつも笑ってくれていて。
そんなせつなさんが私は……
「………………」
何か、胸によぎった気がする。
なぜ私がいつも楽しかったのか。それは……
「…………」
深く息を吸い、せつなさんの香りに浸って………
「背伸びしても仕方ないか」
今更じたばたしてもできることは限られている。
それなら私は私のできること……したいことを考えよう。
恥もなく陽菜に頼ろうかとも、桜沢先生やときなさんにアドバイスをもらおうかとも考えたけれどどうにかなりそうだ。
「……少しずるくなるけど、私は先に決めておこうかな」
なんて、心の軽くなった私は明日を楽しみに思いながら今日はせつなさんの好物でも夕飯にしようかなと余裕を持つのだった。