正面のテレビからは天気予報が流れている。

 今年も寒くなり、冬が本格的に近づいているのを知らせていた。

 それと、耳を澄ますと恋人がお風呂に入っている音が聞こえてくる。

 この時期になるとお風呂の後には体が冷えないうちに床につくことが多く、ベッドの横には恋人用の布団が敷いてある。

「………………ふむ」

 私は今自分のいるベッドと、布団を見比べてあることを考える。

(渚は簡単に了承してくれなさそうだけど)

「一応、誘ってみるかしらね」

 恋人の反応を思い返して私はベッドを降りると布団をたたみだした。

 念のため完全に片付けることはしないで、畳むだけにとどめて再びベッドに戻り渚が戻ってくるのを待つ。

 それから十分もせずに入浴を終えた渚が戻ってくると

「………?」

 まずは首をかしげる。

 とりあえずポンポンとベッドをたたき隣へと座らせても渚はそちらを見ていて。

「あの、私の布団なんで畳まれてるんですか」

「今日から一緒に寝ない?」

 当然の疑問に私は明確に答える。

「っ。今日「から」ですか。え、ずっと、って意味、ですか?」

「そうだけど? 寒くなってきたし、一緒のベッドの方がいいでしょ」

 このベッドは二人用ではないけど、一人では広すぎるし小柄な渚を迎える余裕くらいはある。

「それに、恋人を抱きながら眠る方がいい夢が見られそうだし」

「だ……っ…」

「?」

 なんだか渚の反応がおかしいわね。

 そんなにおかしなことは言ってないはずだけれど。

 冬も近いし、一緒に寝た方が暖かいからというのは理にかなっているはず。

 一度も一緒に寝たことがなかったり、エッチをしたこともないのにとかだったら変に意識させてしまうかもしれないけれど、渚とはもうそんなぬるい関係ではないのだし。

「渚、いいでしょ?」

 隣にいる渚に迫り、腰を抱いてこちらへと引き寄せる。

 特段意味のある行動じゃなくて、なんとなくのスキンシップ。

 それが、渚と私の「勘違い」を決定的なものにしたらしい。

「や、やっぱりだめです!」

「っ? 渚?」

 渚がすごい勢いで私を引きはがしてきた。

 心なしか顔は赤いのは、多分

「な、何を考えているんですか!」

 怒っているから……なの?

「何って、おかしくはないでしょ。恋人なんだし一緒に寝るくらい」

「こ、恋人だからって節度は必要です。」

「節度?」

 そんな話していた? 一緒に寝るのが節度を犯している行為とはとても思えないのに渚は何を言っているの?

「し、しかも……ま、毎日、だなんて」

 ますますわけがわからない。さっきは怒っていた気がするのに今は照れたようにしているような?

「渚、何を言っているの?」

 素直に疑問で問いかけると

「っ!」

 キッ、っという鋭い目線をした。

「だ、だから毎日え、えっちがしたいだなんて駄目だって言っているんです。何をとぼけてるんですか!」

「…………………」

 何を言われたのかまったく理解できなくて、少しするとようやく私と渚でそもそもかみ合っていないことに気づいた。

「渚、説明しておくと一緒に寝るっていうのは寒くないように二人で寝ようってだけでエッチをしようなんて意味じゃないのよ」

「え…………?」

 ぽかんと予想外のことを言われたような渚。

「なるほどねぇ、渚はエッチしたいって意味だと思ったの」

「あ……ぁ。ぅ……その」

「普通に考えて、こんな風に誘わなくないでしょう?」

「だ……だって……」

 自分の勘違いに気づいた渚は俯きぷるぷると震えだす。

 だが、客観的にみて渚のほうが勝手な思い込みで怒ったというのは渚自身にもわかっていることで行き場のない感情を抱えて

「せ、せつなさんが、い、いやらしいからいけないんです」

 ………行き場は私に向けられたらしい。

「ふーん。渚から見たら私はそんな毎日エッチしたいと思ってる人間だっていうことなの。さすがに心外だけれど?」

「ぅ……」

 実際そこまでは思ってないはずだけど、全く思ってないわけじゃないんでしょうね。

 確かに一緒に寝ようと言ってそのまましてしまった実績はあるけれど、ここまで言われる筋合いはない。

 ただ

 私は渚に近づくと再び手を伸ばして

「きゃっ!?」

 身近な悲鳴を聞き、

「せ、せつな、さん……?」

 渚をベッドへと押し倒した。

 それから不敵に笑って

「渚が私をそんな風に思ってるなら期待に応えてあげるべきかしら」

 そう挑発するように言う。

「……………」

 苦々しいといった顔の渚はなかなか答えてはくれない。

 さっきのこともあるし渚が何かをいうのは難しいというのは理解してるつもりだわ。

(なら)

 寝間着に手を潜り込ませて、お腹に触れる。

 薄い渚のお腹ですべすべの肌の感触を楽しんでいると、渚は一瞬私に強い視線を送った後困ったように顔を反らして

「……そういう、ところがいやらしいっていうんです」

 観念したように言ってくれるのだった。

 そうして私は素直じゃない可愛い恋人にキスをして長い夜を始めていくのだった。

 

 ◆

 

 こと、が終わって。

「……やっぱりせつなさんはいやらしいです」

 シーツにくるまった恋人が背中を向けて不機嫌な声を出す。

 その背中にはいくつもの赤い痕があり、それに指でなぞりながら「ごめんなさい」と謝る。

「謝ればいいというわけではありません」

「……反省しているわ」

 今度は抱くように腕を伸ばすとそれを払うことはない。

 謝ればいいわけじゃないのは渚の言う通り。

 最近やりすぎってしまっている自覚はある。

 毎日だなんてことはさすがに考えていないけれど、回数が増えたのも事実。

 ここでいうべきは謝ることかもしれないけど、そうじゃなくて。

「渚。ありがとう、愛しているわ」

「……っ」

 お礼、というよりも好きだと伝えること。

 渚にしてしまうことをやりすぎているのは本当。

 自分で言うことではないかもしれないけれど、それは渚が好きだから。

 渚が私を受け入れてくれることが嬉しいから。

 私の愛を受け止めてくれる渚が嬉しくて、可愛くて、もっとって求めてしまう。

 とめどなく、際限なく渚を愛したいと心から思ってしまうの。

「……知っています」

 渚も私の気持ちをわかっていて私の腕に手を添えて優しく抱きしめてくれた。

 ありきたりな言い方だけど心までを抱かれているような気分。

 心が通じ合っているのがわかって暖かな気持ちになった。

「……せつなさんの言う通り今日から毎日一緒に寝てあげます」

「ありがとう」

「だからって毎日こういうことするのはだめですからね」

 こちらへと体の向きをかえて恥ずかしさの上にいじらしさを混ぜたような渚がとても……そう、可愛らしくて。

「わかってるわ、渚」

 可愛い恋人のおでこに唇を当てて私達は幸せな夢へと落ちていくのだった。

 

ノベルTOP/S×STOP