「いたっ!」

 ベッドで本を読んでいたあたしは鋭い声をあげた。

「……………」

 普通大好きな人がそんな声をあげれば、心配してどうしたの? って聞くものだろうけど、同じくベッドで本を読んでるゆめはあたしのことを一瞥しただけで本を読み続ける。

「……あの、ゆめさん。普通こういう時は声をかけてくれるもんなんじゃないの?」

 別にそれが不満だったわけじゃないけど、言ってくれないのは寂しいのは寂しいからそんなことを言ってみる。

「……どうせ、紙で手を切ったんだから心配するほどのことじゃない」

「そりゃ、まぁ……」

 本を読んでて痛いなんていうのはそのくらいだろうし、実際その通りだから言うとおり心配するほどのことじゃないかもしれないけど、恋人としてこの態度はちょっとないんじゃないかねー。

(お、そうだ)

 そんなあたしはあることを思いついて、ゆめの前まで行くと指を差し出した。

「ね、ゆめ舐めてよ」

「……………変態?」

 ゆめは本から顔をあげてまっすぐな瞳でそう言ってきた。

「って、こら」

 変なことは言ったかもしれないけど、変態と言われるほどのことはしてないでしょうが。でも、このくらいじゃめげないもんね。

「いいじゃん、消毒、消毒」

 言いながら切った指でゆめのほっぺを突っつく。

「……んにゃ、やめ、る」

「じゃあ、舐めてよー」

 ゆめが迷惑そうにしたところであたしはやめるつもりなんてないから、今度はゆめの唇に指を添えた。

「……ん……仕方ない」

 あたしがやめる気がないのをわかってくれたのかゆめは本を閉じるとそう言ってくれた。

 あたしはあらためてゆめの隣に座ると、指をゆめの口元にもっていって

「はい、あーん」

「………ばか」

 ちゅ。

 ゆめの小さな口があたしの指をくわえる。

「……ん……ちゅ……ふぅ」

 そして、あたしの要求の通りあったかい舌であたしの指をなめ始めた。

「…ぁ…ゆめ……」

 ざらざらとした舌になめられるとちょっとくすぐったくてゾクゾクとする。

(いい気分……)

 ゆめの舌の感触もさることながら、ベッドの上でゆめがあたしの指をなめてくれるっていうのがまたそそる……じゃなくて、うんとにかくいい気分なの。

 あたしとしてはこれだけでももちろん嬉しいけど、ゆめが大好きなあたしとしては

 コショコショコショ。

「ん、みゅ!?」

 いたずらをしたくなって、指をゆめの口の中をくすぐるように動かしてみた。

「……んむ……んぷ……」

 舌を押してみたり、歯を撫でてみたり、舌の下に潜り込ませてみたり。

「……ん、みゃ!」

 なんてしてるとゆめはあたしの腕を取ってあたしの指を吐き出した。

「……なに、するの」

 それでちょっと怒ったように言ってくるけどその姿がまた可愛い。

「やー、ゆめが可愛かったんでつい」

「……理由になって、ない」

「いやいや、なるでしょ。ゆめが可愛いからいろんな姿を見たくなるの」

「………バカ」

 ゆめの最近の定番の照れ。

 ちょっとだけ頬を赤くして、あたしを見てから目を伏せる。

「んー、じゃ。お詫びと消毒してくれたお礼になんかしてあげよう」

「……うに?」

「ま、ようはゆめの言うこと聞いてあげるってこと」

「……何でも?」

「え? ま、まぁ……できることなら」

 わざわざ確認してくるなっての。美咲にならこういう白紙の小切手を渡すようなことはしない。でも、ゆめなら思った以上にへたれだし変なことはしないって思うけど……

「…………じゃあ私にも、消毒」

「へ?」

「……口の中、怪我した。だから消毒、する」

 あ、あれ? これはもしかして、ちゅっちゅのおねだり?

「…………だめ?」

(はぅっ!)

 あたしがぽかんとしたのが拒否に受け取られたと思ったのかゆめはちょっと不安そうに見上げてきた。

 それが超絶に可愛くて思わずこのままベッドに押し倒したくなる。いや、しないけど。

「いやいやいや、駄目じゃないよもちろん。ただ、ゆめがこういうの言ってくるの珍しいなって思っただけ」

 さっきも言ったけどゆめって結構へたれだからあんまりこういうことを言ってきたりしない。せいぜい抱きしめろとかなのに。

「…………だって、最近全然……してない」

「え?」

 ま、あ……確かにそう、かな? 少なくてもこういうおまけとか外伝じゃゆめとはあんまりしてないような気がする。

 美咲とは必要以上にしてるというかされてる気もするけど。それはまぁ置いといて。

(ただでさえ一緒に住んでないもんね)

 それの影響か前にもましてゆめは寂しがり屋になった気がする。もともと仲間はずれが嫌いなゆめ。こんなこと言わせたのはあたしが悪い訳じゃないけど、あたしのせいではあるのかも。

 今思ったのがゆめの真意かどうかはともかくあたしは自分の中でそう結論づけるとゆめとちゃんと向き合った。

「……私は、彩音の恋人。だから……キス、する」

「あらら、消毒じゃないの?」

 ゆめは相変わらず恥ずかしそうだけどもうしてあげることを決めてるあたしはそんなゆめをからかえる。

「……っ……うるさい。する」

「はいはい」

 ゆめがまたちょっと不機嫌になるのを可愛く思いながらあたしはベッドに手をついてゆめに近づくと、

「……う……にゃ!?」

 そのまま力を込めてゆめをベッドに押し倒し、そのまま覆いかぶさると

「大好きだよ、ゆめ」

「………バカ」

 恥ずかしがって顔をそむけるゆめとお約束のやりとりをして

「……ん」

 口づけを交わした。

 

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