彩音は私を好きなんだって知ってる。

 そう彩音は私を世界で一番好きなんだってわかる。感じる。

 ゆめのことも私と同じように好きなのは知っているし、別にそのこと自体は気にしてるわけじゃない。

 だけど……別に、今さらだし、それに、えーと、今回のことは嫉妬しているわけではない。嫉妬ではない。

 ただ……面白くないのだ。彩音はいつもゆめにだけ優しくするというか、優先するというか……うまく言えないのだけど……ゆめの立場からしたら私のこんな気持ちなんて、笑っちゃうくらいくだらないのかもしれないけど、……もっと彩音は私のこと考えてくれてもいいのにとらしくもなく思ってしまう。

 

 

 世界が暗く染まって人が眠りにつく時間。

 私たちもその例外にもれることなく電気を消しておのおのの寝床につく。

 まだそんなに時間は経っていないし彩音は寝つきがよくないのでまだたぶん寝てはいないと思う。

「…………」

 私は時折彩音のベッドを見つめながらある考え事をしている。

 ……彩音はゆめが勝手にベッドに入ってきたとか言ってたけど本当かしら。そりゃゆめは寝ぼけやすいのは知ってるけど、いくら寝ぼけてたからって彩音のベッドに入ってくるとは思えないし。

 ううん、ゆめが彩音のベッドに入ってきたのは本当だとしてもなんであんな風に抱きながら寝るのよ。一緒に寝るのは許してあげなくもないけど、あんなに密着して、しかも抱きながら寝るなんて。別に二人があんな風にしてるのが嫌なわけじゃないのよ?

(……うらやましい、わけじゃない、わよね?)

 そう、そんなわけじゃない。じゃなくて二人が一緒のベッドで寝てたっていうのが嫌なの。仲間はずれされたとか思うわけじゃないけど……ううん、思ってるのかしら……? 認めたくないけど、二人だけであんなふうに仲いい姿を見せ付けられるのはいくら大好きな彩音とゆめだからって、というよりもあの二人だからこそ嫌。

 彩音とゆめを信じてるからとかそんな理屈は関係なく、あんなのを見せ付けられたら面白くないわよ。

(……だからってこれから私がしようとしてるのは、馬鹿らしいわよね……)

 けど、わかってもしようとしてる自分にあきれるわ。

(さて……)

 私はむくりと布団から体を起こすとわざとのんびりとドアまで歩いていって部屋の外にでる。

 向かうのはトイレだけど、別にそこにようがあるわけじゃないこれはふり。ふらふらと歩いていって彩音にも聞こえるようにドアをちょっと大きな音を立てて開けて、何もしないのに少しの間トイレの中で時間を過ごす。

 それから何もしてないのに水を流して今度は部屋に戻っていく。

「すぅ……」

 ドアを開ける前に一つ深呼吸。

 別に……いいわよね。らしくないかもしれないけど、彩音と寝るの、くらい……昔はしてたんだし、そ、それに、した、あとは一緒に寝てるんだし。

 カチャ。

 ドアを開けて真っ暗な部屋に戻ってくる。

 ぼんやり家具が見える部屋をゆっくりベッドまで歩いていった。

(いい、わよね……?)

 昨日はゆめと寝てたんだし、私と彩音の仲ならこれくらい。

 ああ、もう。何でこんなにどきどきしてるのよ。これくらいで躊躇するような仲じゃないでしょ。

 昨日ゆめがしたみたいに寝ぼけた振りをして彩音のベッドにもぐり込むだけじゃない。何かするわけじゃなくて、一緒に寝るだけなんだから。

「……んぅ」

 演技ってばれる、わね。これじゃ。

 あからさまだし。

 ま、いいわ。そんなの。ばれたからって私の気持ちをわかってくれないほど彩音も馬鹿じゃないでしょ。

 ぬくぬくとした彩音のベッドの中。それと一緒に私の大好きなお風呂上りの彩音の香りも一緒に感じる。

 自然に頬がゆるむが

「ちょっと、なにしてるわけあんたは?」

 彩音のあきれたような声が響いて、私は頭から水をかけられたような気分にさせられた。

「ぁ、……う」

 なによ。いきなり迷惑そうな声して。

「べ、別にいいじゃない。一緒に寝てくれたって、昨日はゆめと寝てたんだから」

「やだよ。暑苦しい。昨日のはゆめが寝ぼけてたけどあんたはあきらかにわざとじゃん。さっさと降りてよ」

「っ……」

 何よ。何よ、何よ!

 私はなにか惨めな気分になるのと一緒に彩音に怒りも感じて即座に自分の布団に戻っていった。

 迷惑だっていうの? 私が一緒に寝たら。ゆめとは寝れて私はダメだっていうの? 

 ほら、やっぱり彩音はいつもゆめに甘くて私に、冷たいっていうか……何よ! 

「っ……」

 うっそ。やだ、ちょっと泣きそう。ぜんぜん泣くようなことじゃないのに。

 頭がカッカして、体が嫌な熱を持ち、胸の中がむかむかする。

 シーツをぎゅっと掴んで表に出せない気持ちをどうにか体の中に押し込めようとする。

 何よ! 彩音は私のこと好きでしょ!? 大好きでしょ。なら、一緒に寝るくらいぜんぜんいいじゃない。

 それが何!? 暑苦しいから嫌って。私と寝るのが嫌って言えばいいじゃない! 何よあの言い方! 

 いらいらする。むかむかする。頭が怒りと寂しさで沸騰しそう。

 断れたのももちろん、ここまでショックを受けてる自分が信じられない。

「………みさきー?」

 彩音が私を呼ぶ声が聞こえる。

「………………」

 何よ、今さら。

「ねぇー起きてんでしょ?」

 返事なんてしてあげるものですか。

「寝てないんだったら、危ないからどいたほうがいいよ」

「……?」

 何言ってるの?

「ごろごろごろ、どーん」

「っ!!?

 彩音の一人しゃべりを無視していた私にドン! という衝撃が襲ってきた。

「った〜。何すんのよ!

 それが彩音がベッドから降ってきたのはすぐにわかったけど、いきなりそんなことされる理由はまったくわからない。

「だから、危ないっていったじゃん」

「なんなのよ! いきなり」

「ん、寝ぼけてベッドから落ちた」

「はぁ!?

「もうあがるの面倒だから、今日はこのまま寝てもいい?」

「…………」

 彩音が私の体を抱きしめてくる。

(……私ってこんなに彩音が好きだったの?)

 さっきまであった嫉妬とか、怒りとか寂しさとか……そういう嫌なものが消えていくのが、すごく……むかつく。

「…………嫌よ。暑苦しい」

 ……私は小学生か……

 らしくなさすぎて自己嫌悪になりそう。

「あっそ」

 ぎゅ!

 顔を見られたくなくて背中を向けた私を彩音は後ろから強く抱きしめてきた。

 暖かくて、柔らかくて、いいにおいがして……大好きな彩音の全部。

「美咲ってさたまにすごく可愛くなるね」

「……どうせ、いつもは可愛くないわよ」

「ったく、素直じゃないっていうか。ま、らしいけど」

 ……私は今の自分をおおよそらしくないと思っているけど彩音の目からみたら【らしいの】?

彩音にそんな風に思われるのは少し心外だけど、こうして彩音の腕の中にいるとそういうこともあまり気にならなくなってくる。

 暖かな布団の中で世界で一番大好きな人に抱きしめられて、幸せに浸る。

 こんな風に彩音のことを独り占めしてゆめには悪いと思うけど、昨日はゆめが一緒に寝てたんだし、見せ付けられないだけましって思ってよね。

 ゆめのいないところで彩音にこんなことされてるのに少し罪悪感を感じながらも口元を緩めてしまう。

私は多幸感に満たされながらそんな風に思う自分を少し情けなく思うのだった。

 

 

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