私は欲張りだ。

 欲張りで嫉妬深くて、寂しがり。

 私は今とても恵まれた環境にいるのだと思う。

 なにせ好きな人と一緒に住んでいるんだから。

 朝、好きな人の寝顔を見て一緒に朝食をとって、並んで登校をする。

 学校でも一日中一緒で、放課後は別々なこともあるけど家に帰れば必ず会える。

 夜は一緒に勉強をしたり、他愛のない話を延々と続けたり、時には一緒にお風呂にはいったりもする。

 そして、一緒に床につく。

 それが毎日繰り返される私の幸せ。

 誰がどう考えても私は幸せだ。

 でも、私は欲張り。

 嫉妬深くて、寂しがり。

 そんなの、彩音は気づいてもいないでしょうけど。

 私はいつももっとって思ってるのよ。

 

 

 美咲はたまに一緒に寝ようって誘ってくる。

 そう求められて私に断る理由はないから、軽く文句みたいなものは言うけど当然それを受け入れる。

 なら、毎日一緒でもいいような気もするけどそれは……色々問題が出てきそうだからそうはならない。

 まぁ、とりあえず今日はそう言われたから一緒に寝るんだけど、美咲は妙なことを言いだした。

「ね、向こう向いて」

「ん?」

「だから、私に背中向けなさいって言ってるのよ」

 よくわかんない。

 普通一緒に寝るんだから相手と逆方向を向くっていうのはおかしい気がするんだけど、まぁ美咲がそうしたいなら優しいあたしは言うことを聞いてあげよう。

「っ!? な、なにすんのいきなり」

 あたしが美咲に背を向けた途端、美咲は後ろからあたしに抱き着いてきた。

 枕の下から首に腕を回され、もう片方はお腹の方から回ってきて胸の前でクロスされる。

「別になんとなくよ。なんとなく」

「……?」

 少し声の調子がいつものとは違うかも。あたしにはこの理由は想像もできないけど、美咲からしたら大切なことなのかも。

 そうは思うけどわざわざ聞いたりはしない。だって言いたければ言うだろうし、言ってこないのは聞いてほしくないことだと思う。

 美咲はゆめとは違う方向に恥ずかしがり屋だから。

 おいそれと当てたりすると、照れ隠しに怒ることもおおい。

(まぁ、それがまた可愛かったりするけど)

 あ、それはゆめもだよね。もっともゆめの場合はまったく隠せてないことも多いけど。

「ねぇ、彩音」

「っ!?」

 思考を美咲から外してたあたしに美咲が甘く囁いてきた。

「ちょ、耳元で言わないでよ」

 美咲にされることなら大抵慣れてるけど、これはちょっと恥ずかしい。

「私のことどう思ってるの?」

「はぁ? なにいきなり」

 あたしの文句には耳を貸さずまた耳元で囁く。

 答えなんて聞かなくても決まっていること。

「いいから正直に答えなさいよ」

「いや、好きに決まってるじゃん」

 ぎゅ、っと私を抱く腕に力がこもった。

「言葉が足らないわよ」

「はいはい。大好きだよ」

「…………」

「世界で一番美咲が好き」

「ふふ。よろしい」

 満足げな美咲の声が耳朶に響く。顔は離してもらったけど、どうも抱き着くのはやめるつもりはないらしい。

 まぁ、こうしてるのも好きだから別にいいんだけどね。

 

 

 私は欲張りだ。

 今すごく幸せなくせに、もっとって思ってしまう。

 そのくせ臆病で、何回でも好きだって言わせちゃう。

 世界で一番だって、誰よりも好きだってそう言わせちゃう。

 今幸せでも、もっと幸せになりたい。

 もっと好きって言って欲しい。世界で一番って言って欲しい。誰よりも好きだって言って欲しい。

 何度でも、何度でも、もっと、もっと彩音の気持ちが欲しい。

 でも、そんなこと彩音には言わない。言えない。

 臆病で、寂しがりだから。

 欲張りだけど、臆病だから。

 だから……

 もっと、私のこと好きって言いなさいよ。もっともっと私のことを好きになりなさいよ。

 私はいつものようにそう思ってぎゅっと彩音の体を強く抱きしめた。

 

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