「…………」

 言葉が出ない。

 蘭先輩は私の側にイスを持ってきて、そこに座ってベッドで体を起こした私を見つめている。

(何を、話せばいいの?)

 そう思いながら視線を送る。

(………やっぱり、綺麗)

 何度も思うことを再び思った。

 流れるような金髪、水晶のように吸い込まれる青い瞳。佇まいも落ち着いて清楚な雰囲気を感じる。

 ……今でも、そんな風に見える。昨日のことが嘘みたいに。

 でも、昨日のことは嘘じゃな

「っ」

 い、と思おうとして体をビクつかせた。

「あ、ごめんなさい。驚かせちゃった?」

 蘭先輩の手が私をのびてきて私は、反射的に震えたみたい。

「冬海ちゃんに鈴ちゃんが寝込んでるって聞いたから熱があるのかなって思って」

「だ、大丈夫、です」

 体はすごい疲れた感じはしてるけど、熱があるっていうわけじゃない。

「そう」

 穏やかな声と、安心したっていう柔らかい表情。

 やっぱり昨日の夜と同じ人になんて思えないくらいだ。

「鈴ちゃん」

「は、はい!」

「緊張しないでって言っても、無理か」

「…………」

 無理にきまって、ます。

「昨日は」

「っ」

 蘭先輩の口からその単語が聞こえてくると私はフラッシュバックのようにそのことを思い出して

「ごめんなさい」

 思いがけない言葉に

「え?」

 と首をかしげた。

(謝られた?)

 ごめんなさいって言われた。それは間違いないって思う。

 ううん、それがおかしいってわけじゃないの。ひどいことをされたっていう自覚はあるし、謝られるっていうこと自体はおかしくないって思うの。

 でも、昨日あんなことをした人が素直に謝罪をしてくるなんて思ってなかったから。

 むしろ今だって何をされるんだろうって怖かったくらいだから。

「鈴ちゃんのことを信用してないっていうわけじゃなかったの。黙っててくれるって思ってる」

「は、い……」

「けど、言葉だけじゃ信じられないのも本当」

「…………」

 その意見はわからないわけじゃない。言葉でなんていくらでも言えるのだから。

 私が困惑していると蘭先輩は「これも秘密にして欲しいんだけど」と口にする。

「私たちだけじゃないの。この寮で、昨日みたいなことは珍しいことじゃないわ」

「え………と」

「まぁ、遊びとか興味本位でっていう子も少なくないけど、本気で愛し合ってる子たちもいる。そういうことを気づいて無視している子もいれば、鈴ちゃんのルームメイトさんみたいに何も気づいてない子もいる。鈴ちゃんがもし誰かに話しをして、それが広まったりなんかしたら、困るっていうのはわかるわよね」

「は、い……」

 蘭先輩の言っていることはいきなりすぎて処理しきれてないところもあるけど、わかるとは思う。

「私のせいで本気の子たちにまで迷惑がかかるのは申し訳がないの。無理にでも鈴ちゃんには黙って欲しかった」

「………………はい」

「うん。ありがとう」

 割り切れない。

 けど、蘭先輩のことを否定することもできなくてうつむきながらそう頷いた。

 ただ、意外には想って改めて蘭先輩のことを見つめなおした。

 お人形みたいに綺麗な人。でも、千秋さんとはあんなことをしていて……私を脅してきた。

 でも、それは……自分のためじゃなくて、自分以外の誰かのためで……

(いい人、なの?)

 少なくても悪い人じゃないって思って……次の瞬間には再び印象を変えらせられることになる。

「………ところで、鈴ちゃんは外国から帰ってきたっていうのは本当?」

 さっきまでとは一変した表情。さっきはみんなのことを考える優しい先輩の顔。

「は、はい。そう、ですけど?」

「……………………ふーん」

 今の蘭先輩は昨日みたいな、夜叉のような冷たくそれでいて熱情を秘めたようなそんなとても怖い顔をしていた。

「ねぇ、鈴ちゃん?」

「っ!!?」

 手を頬に添えられた。

 細長くすべすべとした手。昨日私の体を隅々まで知った指。

「昨日、本当に嫌だった?」

「……え?」

 妖艶な瞳。甘い声。

「全然気持ち良くなかった? 私と千秋に触れられるのはいやだった?」

「あ、の……どういう……?」

 意味かなんてわかってるけど、どうして今急にこんなことを聞かれるのかわからなくて……ううん、わかりたくなくて私は顔を背けるけど

 グイ

「ねぇ、答えて」

 顔を蘭先輩に向けられる。

「こんな風に触られるの嫌だった?」

「ぁ、っ! や……」

(嘘………)

 パジャマの上からだけど胸を触られ……ううん、包むように撫でられてる。昨日、みたいに。

「そんなわけないわよね。あんなに気持ちよさそうにしてたんだもの」

「っ……ぁ、ふぅ……ん。だ、め……や、めて、くだ、さい……」

「正直に言ってくれたら、考えてあげる」

 そう言って蘭先輩は、微笑をたたえたまま私の胸を触り続けた。

「ぁ……っ、う…あん……」

 さざ波のように昨日初めて知った感覚が体と心に押し寄せる。

「ほら、気持ちいいでしょう? 素直に気持ちを話してみて」

(っ……なに? どういうこと、なの?)

 どうして蘭先輩はこんなことをするの? だって、昨日のとは違う、のに。もう脅す必要なんて、ない、のに。

「っ……ぁ、ふ……ぅ」

 包み込むように揉まれたり、時には手のひらで敏感なところを刺激されると自然と声が出てしまって……。

「……抵抗、しないんだ」

「っ!!?」

 そこで初めて、抵抗できるんだっていうことに気づいた。

 惚けた顔に、蘭先輩は「可愛い子」って楽しそうに笑う。

 それからパジャマの隙間に手を……

「戻りましたー。とりあえずおにぎりとお味噌汁をっ……わ、っ、蘭先輩!?」

 蘭先輩の手が私の肌に直接触れる直前、冬海ちゃんが部屋に戻ってきた。瞬間、蘭先輩は手を引くと

「冬海ちゃんも戻ってきたし、私はお暇させてもらうわね。お大事に、鈴ちゃん」

 憧れの先輩の顔になって乱れたパジャマをお布団で隠すと立ち上がった。

「…………今度また昨日の部屋に来てね」

「っ!!」

 瞬間、私の耳元に小さくそう囁いて。

 耳朶に響いた声に私は背筋を震わせながら蘭先輩の背中を見つめるのだった。

 

2−1/2−3

ノベルTOP/R-TOP