天原女学院の寮の管理人である宮古は基本的に寮にいることが普通だ。だからといって毎日いては休日も何もあったものではないし、誰かに会うということもできない。
なので、もちろん休みをとるが、たまの休みに訪れる場所は大体決まっている。
恋人である八重の元だ。
八重は寮からバイクで三十分ほどの小綺麗なアパートに住んでいる。適当な手土産を持って今日もそこを訪れた宮古は大学時代には毎日のように過ごしていた、何でもない特別な時間を過ごしていた。
「そういえば、八重」
八重の作ってくれたケーキを二人で囲みながら宮古はふと、気になっていたことを口にした。
フォークにさしたケーキを八重の口元に持って行きながら。
「……ぱく。………なぁに、宮古?」
八重は差し出されたケーキを食べてから宮古の言葉に応えて、同じように宮古へケーキを差し出した。
「あむ。……この前、絵梨子つれてきたじゃない? はい」
「はむ。……えぇ、そうね。ん」
「っん。……あの時だけど、絵梨子に何か吹き込んだ? ほい」
「ぁむ。……さぁ? 絵梨子さんがどうかしたの?」
当たり前のようにお互いにケーキを食べさせあいながら会話をしていく。大学時代にケーキを食べるときにいつもこうしていてその名残だ。
今思えば若気の至りだが、今更やめようとは思わず今でもこうして続けているうちの一つだ。
「この前、私と八重がどうなのかとか聞いてきたのよ。はい、最後」
「あーん。……そうなの。私と宮古があまりにラブラブだったからあてられちゃったんじゃない? はい、あーん」
「…あん。どうもそういうのじゃないみたいだったのよね。なんだか、顔が赤かったっていうかにやけてたっていうか、照れてたっていうか、しかも何でかお風呂がどうとか言ったりもするけど、結局何が言いたいのかわからなかったし
「へぇ。そうなの」
八重は楽しそうに微笑む。宮古以外の人間が見ることのない、八重のいたずらっぽい笑み。
それだけで宮古はやはり八重が何かを言ったんだということを確信した。
「そういうこと言ってくるってことは、アレあげたの効果あったのかしらね」
「アレ……?」
「そ、アレ」
含みのある笑いをしながらケーキにつけていた紅茶を飲む八重の口元を見て、宮古はこれまでの情報を整理した。
「っ……だから、お風呂がどうとか言ってたのか……何が八重さんによろしくよ。教え子相手に……まったく」
「へぇ、教え子さんなの。絵梨子さんの相手って」
「あっ!?」
絵梨子が八重とどんな話をしたのか知らない宮古は迂闊にも人には漏らしてはいけないことを口にしてしまった。
「……他の人には言わないでよ。もちろん、絵梨子にも」
「えぇ、もちろん。そのくらいはわかってるわ」
八重はもう一度紅茶に口をつける。
アルコールさえ入らなければ清楚さ溢れる八重がそうするところは気品すら感じさせて、宮古が好きな八重のワンシーンだ。
「それで、相談なんだけど」
そして、宮古が苦手な八重の雰囲気。
「お風呂、一緒に入らない?」
「……それは、相談じゃなくて、脅迫っていうのよ。っていうか、今日は泊まりじゃないんだけど?」
「だから、せめてお風呂くらいは一緒に入りたいんじゃない」
あくまでそういってくる八重に抵抗は無駄だと悟った宮古は、
「しょうがないわね」
八重にあきれながらそれを了承する自分にもあきれるのだった。