チャプ。

 水の音。

 ジャアア。

 シャワーの音。

「ねー、美咲―」

 響く声。

「なにー」

 お風呂。

 今あたしと美咲は一緒にお風呂に入っていた。美咲とお風呂っていうのはそんなに多くはないけど、たまにはあることで、今日はなんとなくあたしから誘ってみた。

 あたしは先に髪と体を洗わせてもらって今は浴槽に身を沈めながら髪を洗ってる美咲を眺めていた。

「……何よ?」

 声をかけたのにあたしがその後何も続けないのを不審に思ったのか美咲は一旦手を止めてこっちを向く。

「んー、なんつか……」

 実はあたしはさっきからあるものにくぎ付け。それは裸の美咲すら見慣れてるあたしですらそんなに見たことのないもの。こうやって意識してみるのは初めてかも?

「美咲って、背中、綺麗だよね」

「っ、な、なにいきなり言ってんのよ!」

「やー、なんか気になっちゃって」

 髪を洗う間って結構気を使うから黙って美咲を見てたんだけど、美咲のつるつるの肌とか、まっすぐにとおった背骨とか、肩甲骨周りとか、こうしてみるとすごく綺麗で、魅力的だ。

「……バカなこと言ってんじゃないわよ」

「別に、バカなことじゃないと思うけどねぇ」

「ふん」

 と美咲はあきれたように鼻を鳴らして髪を洗うのを再開した。

「…………」

 で、あたしはまだまだ美咲に目を奪われている。

(あー、やっぱ。いいなぁ)

 背中もそうだけど、こうして手が挙がってる状態だと二の腕からわき、そして胸へとつながるラインの肉付き感がたまんない。

 それに美咲が髪を洗うせいでちょっと体と、そのあたりが揺れるし。

(ほんといいなぁ〜)

 そんなことを思ううちにあたしは、見てるだけじゃ満足できなくなっていって

「……ひゃ!!?」

 美咲の背中に指を伸ばしていた。

 美咲が叫び声をあげるのにちょっと驚きはしたもののそのまま背骨の筋をなぞっていく。

「やぁ……ん」

 しかも美咲が色っぽい声をあげるのがまたたまらなくて今度は脇腹のほうに指を滑らせる。

 肋骨の感触を感じながらくすぐるように撫でまわす。

「ん、ちょ、っと……ぁん」

 いつもの美咲ならそろそろ「やめなさい」とか怖い顔で言ってくると思ったけど、

「や、やめな、さいよ」

(っ!)

 言葉は予想通りだったけど、全然強気な感じじゃなくて顔を真っ赤にして、まるで少女のように言ってきた。

「あー……と、ごめん」

 それが意外で、あたしも毒気を抜かれる。

(……怒ってくると思ったのにな)

 まぁ、美咲って意外に不意打ちに弱いしね。そういうことなのかな? 実は背中が弱いとか?

 なんにせよ意外な反応にあたしもおとなしくなって、素直に美咲が髪を洗うのを見てた。

 チャポ。

 と、数分で美咲は髪を洗い終えて、浴槽に入ってくる。

 あたしは浴槽の端によるのとともに膝をたたんで美咲の入れるスペースを作る。

「まったく、あんたは……なにしてんのよ」

 ここでやっと美咲はさっきのことについて口にする。

「ごめんってば。美咲の背中があんまり綺麗だったからさ」

「っ……ふぅ」

「た、ため息つくことないでしょ」

「……別に、今のはそういうため息じゃないわよ」

「は?」

 そういうって、じゃあどういう?

 あたしとしては、また変態的なことをしてるとかいう誤解を受けたのかと思ったけど……違うの?

「つか、ゆめとお風呂入るときもさっきみたいなことするわけ?」

「へ? い、いや! んなことないって」

「……というか、前水着着せてたっけ」

「あ、あれは、その……ゆめが着てくれるいうから……」

 思い返すととんでもない変態に思えなくもないけど、ゆめが誘ってきたわけだしあたしは無実だよね。

「と、とにかく、別に変なことなんてしないってば」

「じゃあ、私にはなんでしたわけ?」

「え? いや、だから、美咲が綺麗だったから……?」

「ふーん。じゃあ、私だからしたってわけ」

「まぁ、そう、かな?」

 ゆめだと後姿とか本当にお子様って感じだしね。あ、前を見てもそうなんだけど。まぁ、それはそれで可愛いし、いくらあたしが小さいゆめが好きって言ってもやっぱり気にしちゃってるところとかもたまんないしね。

「……そ。なら、今回は特別に許してあげるわ」

「え? あ、ありがと?」

 なんかあんまりらしくない美咲。許してくれるのに越したことはないんだけど。

「……………」

 その後少しの間沈黙が訪れる。

 なーんか美咲機嫌よさそう。いたずらして怒ってるって思ったのに。

 こういう美咲はたまにある。機嫌はいいんだけどその原因がよくわからない。あたしと暮らし始めるまではこういうこともなかったんだけど、今はたまにある。

(美咲が機嫌いいんならいいけど)

 こう、なんていうのかな。すごく喜んでるって感じじゃないんだけど、嬉しそう。でも、それを全面的に出してるわけでもなくて、にじみ出てるって感じ。

 ま、理由はわからなくても好きな人が嬉しそうにしてて嫌なことなんてあるわけない。

「……………」

 黙られるのは困るんだけどね。せっかくお風呂入ってるんだからいろいろ話したいし。いや、別にお風呂じゃなくてもいつも一緒なわけだけど。

 とはいえ、なんかくだらない話題は言い出しづらい雰囲気で……

「そういやさ、小学校の頃に一緒にお風呂入らなくなったことがあるじゃん」

 せっかくなのでお風呂に関連する話題を口にした。

「あぁ、そうね」

 すると、美咲はいきなり不機嫌そうな声になった。ただ、怒ってるというよりは落ち込んでるような感じ。

(なんで?)

 美咲がその当時のことを思い返してちょっとブルーになってるなんてことは知らずあたしはそのまま続けていく。

「あんときさー、美咲と入るのがくせになっちゃってたから、しばらくこうやって足曲げながら入ってたんだよねー。今思うと馬鹿らしいよね。突然、美咲がやっぱり一緒に入るとか言って来てもいいようにってさ」

 うんうん。今思うと馬鹿だった。大体癖になるところがおかしい。たとえ美咲が入ってくるとしてもそれまでは普通に足を延ばしてていいはずなのに、なんでかいつも美咲がいてもいいようにって足曲げちゃってたんだから。

「…………」

 って、なんで美咲はなんも言わないの? 普段の美咲ならバカじゃないの? くらい言って来てもいいような気がするのに。

(やっぱちょっと、へ……)

「っ!!??」

 変だと思おうとしたあたしは、いきなり美咲があたしとの距離を詰めてきて反射的に身を引こうとしたけど、すでに浴槽の壁についててさがれない。それどころか、美咲はあたしの指に自分の指を絡めて来てグイっと美咲の側にひっぱられて

「ん……」

 キスをされた。

「……ちょ、いきなりなにすんのよ」

「……はぁぁあ……」

 しかも、思いっきりため息をつかれた。

「もう、出る」

「あ、そ、そう……」

あたしがわけわからずにいる間に美咲は本当にお風呂から出て行っちゃった。

「な、なんなんだ?」

 美咲が小学生のころ同じことをしてたということも、それを知った美咲が意外なほどに喜んでいたのにも気づかずあたしはただ訳が分からなずいるのだった。

 

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