「ねぇ、ときな」
それはとある日の日常。
絵梨子の部屋でときなはいきなり絵梨子に名を呼ばれてそちらを振り向くと、
「はい、あーん」
小さな飴を差し出す絵梨子の手が目に入る。
「…………なに、いきなり?」
意図はわかるもののいきなりなことに怪訝な顔をして答えた。
「ん、この飴おいしかったからときなにもあげようかなって。ほら、あーん」
グイと飴を口元に近づけてくる絵梨子。
(……相変わらず子供ね。絵梨子は)
呆れるものの好きな人にあーんをされるのが嫌なわけもなくときなは小さく口を開けると
「あー」
小さくそう言って
「ん……」
閉じた口は空を切り、飴は絵梨子の口の中へと吸い込まれていった。
「あはは、ひっかかった」
「…………」
絵梨子が何を目的にこんなことをやっているのかときなにはわからない。
だが、からかわれて気分いいはずもない。
いたずらを成功させてにやにやと笑う絵梨子のことを面白く思うはずもなくときなは
「へ? ときな?」
絵梨子の頬と頭に手を回すと
「んっーーー」
強引に引き寄せて唇を奪った。
「っん……む……んー」
驚いた絵梨子は反射的に後ろに下がろうとするもののときなはそれを許さずに絵梨子の舌に自らの舌を絡めて離さない。
そうして、絵梨子の熱い感触を堪能してようやく解放する。
だが、もちろんその程度で絵梨子を許すときなではない。
「ねぇ、絵梨子?」
「な、なぁに」
「今度は私が食べさせてあげるわ」
「え、えと……わ、私はもう、十分、かな」
「………絵梨子。そんな答えをこの私が許すと思ってるの?」
笑顔の中にも有無を言わせない迫力に絵梨子は思わず背筋をゾクゾクとさせる。
「は、はぃ………」
そして、絵梨子は些細ないたずらからこの時どころか夜に至るまでときなに逆らえなくなってしまうのだった。