「……ん…ふ、う」
ときなはめずらしく困っていた。
それも、そのはずだろう。
何せときなは今全裸だ。しかも、周りに体を隠すものなど存在しない。
普通の部屋よりも小さなこじんまりとした空間の中、ときなは全身を写すほどの大きな鏡の前で、これからどうすればいいのかわからないといった顔をしていた。
(まさか、本気にするなんて……)
などと、今更思っても仕方がない。
ここは絵梨子の部屋のお風呂だ。
いつぞやのデートからしばらく。泊まる機会を得たときなは絵梨子の部屋を訪れたのだが、そこで絵梨子はお風呂に一緒に入りたいといってきたのだ。
聞き手と話し手の感じ方は往々にして異なるもので、ときなは冗談のつもりで今度一緒に入ってあげるといっていた。
しかし、絵梨子のほうがそれを本気にしていたらしく、一緒にお風呂に入りたいといってきたのだ。
断ってもよかったのだが、冗談とはいえ誘ったのは自分ではあるし、期待を裏切っていじけられても困る。
「……まったく、先生ってば」
ときなは呆れながら、浴室のイスに座ってぼーっと周りに浴室の中を観察していた。
(嫌なわけはないけど……やっぱり色々気になっちゃうわね)
一緒に入ること、一緒に入ってするであろうことに抵抗があるわけではない。
それでも、気にしてしまうのはまだまだ絵梨子と比べて子供だからなのかもしれない。
「ん? これ……?」
中々やってこない絵梨子を待ちながら浴室を見ていたときなだったが、シャンプーやリンス、ボディソープなどが置いてある場所に見慣れないものがあることに気づく。
「なにかしら?」
透明の容器の中に、透明液体が入っている。それがピンクのキャップでとめられている。今まで絵梨子のお風呂では見たことのないものだった。
それが異質な気がして思わず手にとって見ると
「ときな、おまた……せっ!!?」
やってきた絵梨子が何故かいきなりあわてたような声を出すのだった。
少し話はさかのぼる。
ときなにお風呂のことでからかわれてからまだ数日後。
絵梨子は天原時代の先輩で、今はときなの寮の管理人を務めている宮古から誘われ宮古の恋人である八重の家を訪れていた。
面識はそれほどあるわけではないが、立場上宮古の誘いというのはなかなかに断りづらくおとなしく付いてきたのだが。
「えへへ〜、みやちゃ〜ん」
飲みに誘われたというのを気づいたのは来てからで、しかも一杯で完全に出来上がってしまった八重に、絵梨子は圧倒されていた。
話を聞けば、八重はお酒にめっぽう弱いくせに、たまに飲みたがるらしく一人で相手をするのは大変だからと誘われたにすぎないということだった。
絵梨子が知っている八重は、清楚で落ち着いていて、とても今の姿を想像できないものでそのギャップを見るのは面白くもあったのだが、宮古がお手洗いと席を立ってしまって、残された絵梨子はこんな状態の八重とどう話していいかわからず。
「ふぇ……、お風呂〜?」
みやちゃん、みやちゃんとあまりにラブラブな二人につい口をついてしまった言葉があった。
「え、えぇ。その、お二人はお風呂一緒に入ったりなんか、するのかな〜って。……い、いえ! ふ、深い意味はないんですが、その、参考に……というか……その、どうなのかな、って」
口にしてから宮古に聞かれたらまずいことを聞いてるのかと思ったが、言ってしまった以上話題を閉ざすわけにもいかず続けていく。
「ん〜と、みやちゃんが泊まるときは大体は一緒に入るよ? あらいっこ、するの〜」
「あ、洗いっこ、ですか?」
「うん〜。みやちゃんね、すごく上手なんだよ。私すぐふや〜ってなっちゃう」
「じょ、上手、ですか……」
「うん、でもちょっといじわるなところもあってね……くた〜ってなっちゃうのに、今度は私からしてっていうの〜。されるほうがすきだし、楽なのに。洗いっこなんだからって」
「え、えと……」
(……それをどういう意味でとっていいのかしら?)
と、心で思うわりには顔を赤くしてしまう絵梨子。
(……でも、もしときなが……)
と、人前でそんなことを考え出す絵梨子だが一瞬その顔が沈む。
(なんか、またいいようにされちゃうような気もする……あ、でもそんなこともない、かな? だってときなってそういうの……)
「ねぇねぇ。絵梨子ちゃんは、一緒にお風呂入りたい人いるの〜?」
この場ではとてもいえないことを考え始めていた絵梨子だが八重は興味津々といった様子でそれを問いかけてくる。
「え、えぇ。まぁ……その……」
「ふ〜ん、そうなんだ〜。あ、それじゃあね〜」
と、八重は急に何かを思い出したかのように席を立つと、今話題にした浴場に向かって
「はい、これあげる〜」
なにやら、小さな容器を持ってくるのだった。
八重からもらったものがどのようなものだかはわかったのだが、さすがに初めて一緒に入るお風呂でそんなものを使うなんてことはまったく考えもしなかった。
ただ、返せる雰囲気ではなかったので一応預かってとりあえずとお風呂に置いたままにしていたのだ。
ときなが来るときには回収しておこうとは思っていたのだがすっかりそれを忘れてしまい。
「先生? どうかしたんですか?」
今に至る。
ときなに遅れて浴室に入ってきた絵梨子は、ときなが八重からもらいうけたものを手にしているのを目にして、ときなの裸よりもそれに目を奪われてしまった。
(ま、まずい、わよ、ね……)
服を着ていないからとかそういうことではなく全身に寒気が走る。もう三年目となるときなとの時間がそうさせた。
「あ、あのね、ときな、ち、違うのよ!?」
(あ、あんなの用意してたなんて思われたら、なに言われるか……)
とにかくあせってしまっていた絵梨子は早口にときなに酌量を求めるような情けない顔をした。
「? 何が、ですか?」
だが、当のときなは意味がわからないといった顔で首をかしげていた。
(あ、あれ?)
普段のときななら、「これは、どういうつもりでしょうか?」と、背筋を凍らせるような笑顔で絵梨子に迫ってくるはずだが今は、そんな様子もなく単に様子のおかしい絵梨子がどうしたのかという顔をしているだけだ。
(もしかして……?)
「えー、えーと、なんでもない、かな?」
ある予感を芽生えさせた絵梨子は少しだけ落ち着きを取り戻しやっとその場から一歩踏み出せた。
「はぁ? 変な先生ですね。あ、そうだ」
ときなは釈然としないといった様子ではあるものの、絵梨子がたまに挙動不審になったりするのはあることなのでそれほどきにすることもなく自分の疑問をぶつけてみようと手に持っているものを絵梨子の前へと持っていった。
「これ、何なんですか? シャンプーとか、そういうのとは違いそうですし」
(やっぱり、気づいてないんだ)
それを確信に変えた絵梨子は心に余裕を回復させると共にある邪な考えを思いつく。
「えぇ。そうね、違うわよ」
「ふーん? じゃあ、何なんですか?」
(いつも、ときなにからかわれてばっかりなんだもの。たまには、いいわよね)
すでに行動を決めている絵梨子はときなからそれを取り上げると、
「教えてあげようか。使い方」
と、にやりと笑うのだった。
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今の所続きは書いてません。今まで、それなりに年齢制限のものはやってきましたが、【こういう形態】のものはなかったので、いろいろ考えてるところです。あんまり理屈で考えることではないとは思いますが、二人は愛し合っているのですしそんなに深く考えることでもないかなとも思いますが……うーん。
もし、何か意見や感想等があればお願いします。