ときなが絵梨子の部屋を訪れている間、大体食事はときなが用意する。ときなはその時のため一人暮らしの時も色々レパートリーを増やしているが、いくらときなが優秀だと言ってもそれらすべてを覚えているわけではないし、ど忘れしてしまうこともある。

 今の時代便利なものでそんな時でも簡単に調べる方法がある。

 なのでときなは文明の利器に頼ろうと絵梨子のパソコンを使っていると

「ん、なにかしら、これ?」

 デスクトップにある異質なアイコンに着目する。

 ときなはパソコンに詳しくはないが、まるで使わないわけでもないそれがゲームのアイコンだということくらいはわかっていて

「………………ふーん」

 開かれた画面を落ち着いた表情で見つめる。

(聞いたことくらいはあるけど……ふーん)

 ある程度操作してみるとそれが何かということをなんとなく察する。

(……私がいながらこんなものをやってるなんてね)

 表情には出さないがすでにときなの心の中は穏やかではない。

 それは嫉妬かもしれない。ゲーム相手にと自分でおかしく思わないでもないが、この感情のもとは恋人であるという、いや妻であるという自負だ。

「少し話し合う必要があるみたいね……」

 淡泊に口にするそれはどこか迫力があった。

 

 

 その日絵梨子はときなの様子の変化には気づいていた。

 帰ってきた時には妙にいい笑顔で迎えられたし、夕食は予定したものとは異なり豪華だった。

 その理由は説明してくれなかった上、他にも話を振ってもすぐに話しを切られてしまった。

(うーん………怒ってるのかな?)

 絵梨子はお風呂上りに脱衣所で髪を乾かしながらときなの様子についてそう思っていた。

 理由はわからないがそんな気がする。愛する相手のことだそのくらいはわかって見せる。

 ただその理由までは見当もついていないのだが。

(まぁ、それも聞けばいいわよね)

 それがどんなものでもきちんと話をして二人で解決しよう。

 それが結婚をするということなのだから。

 と、志を燃やす絵梨子はときながどんな気持ちで待っているかなど知らずに脱衣所を出て行った。

「ときな、お風呂でたわよっ!?」

 リビングに戻った絵梨子を待っていたのは………

「おかえりなさい、絵梨子」

 満面の笑顔のときなと、昼間ときなが発見したゲームが起動状態のパソコン。それと、テーブルいっぱいに並べられたあるゲームシリーズのパッケージがずらり。

「あ、あの………」

 それは意識的に隠していたというわけではないのだが少なくても積極的に公開するものではないし、今のときなの様子を見ればどう考えてもまずい状況だというのはわかる。

「絵梨子」

「は、はい」

「そこ、座りなさい」

「う、うん……」

 あくまでときなは笑顔だがそれが見た目通りの意味でないこと明白で絵梨子は言われるままテーブルの前に座った。

「それで、どういうことかしらこれは」

 ときなは昼間ゲームを初めて見た時よりも怒っていた。初めは絵梨子にプレッシャーをかけるためにパッケージでも探しておこうと思ったら、ゾクゾクと出てきてしまいその数は十個以上。

 一つ程度ならそういうこともあるかなと今日責任を取ってもらえれば水に流すつもりだったがこれほどの数を目にすればそんなこと思っていられずこうして絵梨子に問いただそうというわけだ。

「あ、あの違うのよ? ときな」

 絵梨子はときなの雰囲気にひるみながらも生じた誤解を解こうと正座のままときなを見上げる。

「……だから、何がどう違うのかそれを説明しなさいって言ってるのよ」

 だが、ときなは話をまともに聞いてくれる雰囲気ではない。

 ときなの立場からすればそれもまた仕方のないことかもしれないが。

 状況を整理するとこうだ。

 ときなが見つけ、今テーブルいっぱいに並べられているのは女の子同士がいちゃいちゃするいわゆる子供のしてはいけないゲームのシリーズ。

 最近まで自作ゲームで何作も出していたが、近年正式にメーカー化し新作のペースもあがってきて絵梨子は毎回楽しみに集めているものだ。

 もちろんそういうシーンもあるがそれが目的なわけではなく、絵梨子はあくまで話を楽しみにしているのであって、恋愛漫画や小説を読んでいるようなものと思っている。

 ただし、ゲームの内容を知らずパッケージを見ただけのときなにそれを理解してもらおうというのは不可能な話だ。

「え、えっと……」

 絵梨子はそれがわかるからこそどうすればいいのかわからずにしどろもどろになる。それがときなの逆鱗に触れるということもわかるのだが。

「あ、あのね、ときなが想像してるようなものじゃないのよ?」

「ふーん、絵梨子は私が何考えてるのかわかるの? なら言ってみなさいよ」

 ときなは座らずに高圧的に絵梨子を見下ろす。

(あぁ……大分怒ってるよぉー)

「べ、別にね、これはそんなにいやらしいとかそういうものじゃないのよ?」

「ふーん。そうは見えないけど?」

 パッケージの裏を見つめてときな。

 確かにパッケージの裏にはそういうシーンのサンプルなどがあって、多少過激にも見える。

「え、えと………」

(うぅう……何言っても駄目な気がする)

 もう何を言うかというのは関係がない。ときなにとっては最愛の相手がこんなものを持ってやっているということがすでに気に障っているのだ。

「何? 絵梨子は私よりもこんな絵の方がいいの? 私よりもこんなゲームなんかで興奮しちゃうわけ?」

「そ、そんなことないわ! 私はときなが一番……その」

(あ、あれ? なんだかものすごく恥ずかしいというか、はしたないことを言わされてない?)

「一番……何?」

「……こ、こう……ええと……好きよ」

「……………」

(うぅ……ときなが睨んでる)

 少しあきれながらしかしはっきりと冷めた目で絵梨子を見つめるときな。

 ときなとて自分が必要以上の反応をしているというのはわかっているが、絵梨子のへたれ具合に怒りは頂点だ。

(……サービスはもう終わりね)

 心でそうつぶやいたときなは

「絵梨子」

 優しい声で絵梨子を呼んだ。

「許してあげてもいいわよ」

 あくまでの優しく慈愛すら感じられる声。

「ほ、ほんと?」

 それが決して表面通りの意味でないとわかっているのに絵梨子はそれに飛びついてしまう。

「えぇ。ただし」

 

「私の言うことを聞きなさい」

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 ちなみにときながやっていたのはゆりんゆりんな会社が販売しているやつです。わからない方は「その花」で検索すれば出ると思います。

 ゲームが好きじゃない方もいるかもしれませんが、商業用で唯一の会社なので応援の意味もこめて。

 本当は保健室の麻理子さんの方でネタに使おうと思っていたのですが、今回の「言うことを聞きなさい」に持っていくため絵梨子先生に犠牲になってもらいましたw ……あんまり褒められたネタかなとも思ったのですが、後日談はおまけ的な意味が強いので寛大な心で読んでもらえると嬉しいです。

 

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