「ねぇねぇ。ときな」
実はそれほど回数が多くない二人のデート。
ファミレスで昼食を取りながら絵梨子が思い出したように口を開いた
「なんでしょうか? 先生」
「一年生にさ、水谷さんって子いるでしょ」
「水谷さん……」
後輩の名前を出されたときなはふと、何かを思い浮かべ
「あぁ、渚のことですか」
さらりと名前を口にした。
「そうそう、渚ちゃん。あの子ってさ……って! えっ!?」
適当に相槌を打って自分の話に持っていこうとした絵梨子だが、ときなから【渚】という言葉が出てきたことに驚いてしまう。
「どうかしました?」
「な、なんで渚って呼ぶの!?」
「さぁ? どうしてでしょうか?」
うろたえる絵梨子をよそにときなはにやりと含みのある笑いを見せる。
「な、仲、いいの?」
「そうですねぇ。基本的に私は人のことをファーストネームで呼んだりはしないですね」
「え? そ、それってどういう……」
「まぁ、でも渚とは話しますよ。……二人きりとかでも」
「え……えぇ。ちょ、な、なんで」
「それに、一緒にお風呂入ったりもしますし」
バン!
「そ、そんなのだめよ!」
これまでうろたえるだけだった絵梨子はいきなりテーブルをたたくと、顔を真っ赤にしながら叱責するような声をだした。
「あら、どうして先生がそんなこというんですか?」
だが、ときなはそんな絵梨子を楽しそうに見つめるだけだ。
「だ、だって、お、お風呂なんて……」
冷静に考えればときなのいっている意味を理解できるだろうが、今の絵梨子はすでに動揺しっぱなしだ。
「わ、私だって、一緒に入ったことないのに……」
つい先ほどまでうろたえ、怒ったようにすらなっていたのに今度は一転いじけてしまう。
(……子供みたい)
最初会ったときから、あまり年上のような感じがしていなかったが最近は特にそんな気がする。
もっとも、それだけでないことは十二分に承知しているが。
「ふふ、それじゃ、今度一緒に入りましょうか?」
「いいの!?」
「先生がお望みなら」
「じゃ、じゃあ、今度……じゃなくて! そ、そんなんじゃごまかせないからね」
「あらら、そうですか。で、私が彼女と一緒にお風呂入るの何がいけないんでしょうか?」
「だ、だってお風呂よ? そ、そんなの一緒に入るなんて……」
「だから、【寮のお風呂】に一緒に入ることのなにが問題なんでしょうか」
「あ………」
そこでやっと絵梨子は自分がまたときなにからかわれているのだと気づいた。
問題ないというよりも、一緒に住んでいるのだからごく当たり前のことだ。
「で、でも、なんで【渚】って呼ぶの?」
「あぁ、それは嘘です」
「へ?」
「彼女となんてほとんど話したこともありませんし、普通に水谷さんと呼んでいますよ」
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあどうして、【渚】なんていったの?」
「この前ちょっと先生のことで話したんですよ。彼女と」
それは以前、絵梨子と渚が二人で話したときのことだ。
それまでほとんど挨拶したことのない二人だったが、絵梨子という共通の話題により思わず話が弾んだ。
「まぁ、そういうわけで彼女から面白そうな話を聞いたからからかってみたんですよ」
「ひ、ひどいわよ……ときなぁ」
「彼女にからかわれて恋人のことを疑った先生に比べればましだと思いますけど?」
「う、疑ったんじゃなくて……その……だ、だって水谷さんが……」
「まぁ、彼女がどんな風に言ったのか知りませんが。とりあえずはまた先生の可愛いところが見られたので感謝しておきましょうか」
そういうとときなは食後のコーヒーに口をつけると、またにやりと不敵な笑みを浮かべ
「でも、先生をいじめたのは許せないですよね」
「い、いじめられたわけじゃ……」
「先生をいじめていいのは私だけなんですから」
「へ?」
笑顔に似つかわしくない台詞をはくときなに絵梨子はまぬけな声を返してしまう。
「じゃあ、行きましょうか」
しかもレシートを持って先に行ってしまうときなに、やっぱりここでも年上としての自身をなくしてしまう絵梨子だった。
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おまけ
「さて、これからどうしましょうか」
「あ、そうね……」
「……先生の部屋でも行きましょうか?」
「え、えぇ。ときなが来たいなら、いいけど」
「あれ? 来て欲しいのは先生のほうだと思いましたが?」
「え? ど、どうして?」
「だって、お風呂一緒に入りたいんですよね?」
「ふぇ!? と、ときな!?」
「ふふふ、冗談です」
「と、ときなぁ………」
この二人でお風呂……面白そうですが……拍手に載っちゃいそうですし……。この二人では実は予定してますし……。もしかしたらすることもあるかもです。