「そういえば、先生」

 デートも終わって、絵梨子の部屋に帰ってきた二人。今日のことや、これからのことを話しながら二人で夕食の準備をして、同じように尽きることのない会話をしながら食事を取った後。

 食器を片づけたテーブルの前で並びながら食後のお茶を飲んでいるところでときなが昼間喫茶店で指輪のことを話した時と同じ切り出し方をした。

「なぁに? ときな」

 以前買ったお揃いのマグカップにときなが妹のせつなから勧められたという紅茶の香りを楽しんでいた絵梨子はときながまた指輪を見つめているのを見て昼間と同じように幸せな気分になる。

「これ、百万円って言ってましたよね」

 ときなは絵梨子の方へ手を向けながら確認するようにときなはそう口にする。

「えぇ、そう。ときなへの気持ちをいーっぱい込めたから」

 昼間喜ばれたこともあり絵梨子は力強く肯定するが、次のときなの一言に心を縮ませた。

「よく考えたら、ありえなくないですか?」

「え?」

 いきなり、ありえないなどと言われて絵梨子は頭に疑問符と不安を宿す。

「いえ、もちろんそれだけ私のことを想ってくれたのは嬉しいですよ。でも、先生はちゃんと将来のこと考えてました?」

「も、もちろん考えてるわよ。と、ときなと結婚したいって思ったもの」

「それはそれでいいのですが、もう少しお金のほうも考えてもらいたいものですね」

「え?」

「先生の貯金がいくらくらいか知りませんけど、そういうところをちゃんと考慮しましたか?」

「え、えと……」

「大体、私が受け入れなかったらどうするつもりだったんですか。百万円捨てたのと同じですよ」

「あぅ……」

 最初心配していたことが訪れてしまったことを思い知る絵梨子は、どこか心が高揚させる。

「そ、それは、えと……で、でも絶対にときなと一緒になりたいって思ったし、そうするつもりだったし」

「言っておきますけど、私本気だったんですよ。本気で先生と別れるつもりでした。今回はよかったかもしれませんけど、はっきり言ってこんなことでは先が思いやられます」

「で、でも……」

昼間の喫茶店でのことは嬉しかったが、本来はこういうことを想定していた。それがその通りになって、絵梨子は

(あぁ、やっぱり言われちゃった)

 声に出したら多少上ずってしまうような気分でそれを思う。

「でも、ではありません。いくらだと思ってるんですか。お給料の何か月分ですか? この先どうやって私と生活するかってちゃんと考えたんですか?」

「う……」

 それははっきり言って考えていなかった。

「確かに指輪は嬉しいですし、高いっていうのもそれだけ私のことを想ってくれていたというのはわかりますよ。でも、これから先のこともちゃんと考えてください。まして、結婚したいっていうなら」

「わ、わかってるわよ。でも、ときなのこと絶対離したくなかっただもん」

「だから、それはわかっています。今回のことは……昼間言った通り嬉しいですから強くは言いませんけど、次からはそういうところもしっかりしてくださいね。一年とか、二年とかじゃなくて、これからずっと一緒にいるんですから」

「は……はい」

 ときなの言うことは正論だった。結婚指輪にお金をかけるのと、これから先のことを考えているかというのは別問題だ。結婚して、その後ずっとその関係を続けていくのであれば金銭面もきちんと考えなければいけない。

 一応、まだたくわえはあるが、仮に今回結婚指輪を買ったことにこれからの生活が成り立たなくなってしまったら本末転倒だ。

 ただ、厳しいことを言われようともときなの言葉はこれから先ずっと二人で歩んでいく将来のための言葉であり、それは絵梨子のとって嬉しい言葉ではあった。

(それに……やっぱりこういうほうがときならしい)

 昼間、泣いてくれるほど喜んでくれたのもいいがときなは、こうして年下なのに絵梨子よりも年長者のように言うところがらしくて好きなときなだった。

「……何、笑っているんですか」

「え? あ、えと……やっぱりこういうときながいいなぁって思って。少し生意気っていうか、意地悪っていうか……不遜な感じがいいなって」

「……ふーん、つまり絵梨子はいじめられるのが好きってこと?」

「へ!?」

 いきなりときなは雰囲気が変わったようにそういって薄く笑った。絵梨子はそれに驚いてしまい

「そ、ういわれると……その……と、ときなになら、少しは……」

 否定すればいいはずのところをときなの雰囲気にのまれ考えるより先に心から言葉がもれてしまった。

「ぁん!」

 そんな絵梨子にときなは手を伸ばし、頬を撫でながら

「それなら、絵梨子の望むようにしてあげる」

 そう言って唇の端を釣り上げた。

「あ、あの……とき、な……」

(っていうか、絵梨子?)

 呼び捨てにされたことにまた心をドキドキとさせる。

「なーんて、冗談ですよ。せんせ♪」

 かと思えば、ときなは一転して甘えるような笑顔になり体を離した。

「え、あ、う、うん……」

(冗談……そ、そうよね)

 いつものときなに戻った姿を見て安心するが

(でも……)

 先ほどのときなの姿が頭を離れてくれない絵梨子だった。

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 これはあくまでおまけですw 

 でも、絵梨子先生はいつまでも先生なわけではないですし……こういうのもあり、かな?

 この二人がラブラブなところをなぎちゃんあたりが見たらおもしろそうかも。

 

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