世の中の恋人がどんなものなのかは知らないけれど、私たちは仲のいい方でしょう。

 何か一緒にするだけでなく、何もせずとも一緒にいればそれだけで心が満たされるような感覚もある。

 まぁ私は時間があけば本を読むこともおおいから何もしない時間っていうのは案外少ないんだけれど。

 とはいえ、当然私にだって何もしない時だって存在するもの。

 そんな時にすみれの方から何か要求でもしてくれればそれに答えたりもしたかもしれないけれど、二人そろってダメな時はあるもので。

 

 ◆

 

「はぁ……」

「ふぅ……」

 ある休みの昼下がり、私たちはベッドに寝転がりながら小さくため息をついていた。

「……暇、ね」

「そうね」

「なんかしなさいよ」

「何かって何よ」

「何かよ」

 なんて意味のない会話だろうか。

 本当に無意味。

 昼ご飯を終えて、少し。さっきから二人ベッド横になっているだけでほとんど何もしていない。

 たまにスマホを眺めて、本をぱらぱらとめくってとかそんなくらい。

 誰にだってたまにはこういう時があるだろう。

 体調が悪いわけでもないし、何かあったわけでもない。

 ただなんとなく何もする気が起きないということ。ちょうどすみれもそんな時期なのか二人して無為に時間を過ごしている。

 こういう時本当に何もせずに時間をつぶしてしまうとそれはそれでよくわからない罪悪感みたいものが生まれて余計に嫌な気分になるから、何かをした方がいいというのは経験でわかっているのだけれど。

「……はぁ」

 自分だけではそういう行動力が生まれないのが今の状況なのだ。

(こういう時ってどうすればいいのか)

 時間が解決してくれるだろうし、実際こういう時は大抵そうしてきた。

 あと、ほかにも何か手段があるとしたら

「……ん?」

 外部の力だ。

 手にしていたスマホがなり、画面を見ると早瀬からで

「ふーん」

 飲みに行かないかという誘い。

 平日の夜などならともかく休日にいきなりさそってくるのは珍しい。

(また振られたのか)

 まぁどうでもいいけど。

「ふぅ……」

 こういう時に行動を起こすには外部の力が有効なのは事実だ。

 だが、こういう時に動く力がないというのが今の状態。

 いけばそれなりに楽しいかもしれないが、まずそこにたどり着く気力がないのだ。

「すみれー」

「なによ」

「今からのみ行くって言ったらいく?」

 断ろうとも考えたがすみれの意見を聞かないわけないわけにもいかないのでとりあえずと尋ねると。

「ん、いいわよ。このままだらだらしてても仕方ないし」

 意外ににもあっさりとそんな言葉が返ってきて

(……正直、面倒なんだけど)

 まぁすみれが行きたいといいなら

「じゃ、早瀬に行くって返すわ」

 そう言ってスマホをとると

「は?」

 なぜかすみれの不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「なに、文葉が誘ってくれたんじゃないの」

「ん、早瀬が誘ってきたんだけど? 暇ならこないかって」

「…………」

 体を起こしたすみれが黙って私を睨みつけてくる。

 こちらとしてはなぜそんな顔をされるのかわからなくて困惑するしかないのだが。

「……文葉は今忙しいわよね」

 さらにわけのわからないことを言ってきた。

「暇でしょ? だからこうしてるんだし」

「私がいるんだから忙しいのよ」

「………んん」

 これはもしかして二人では無為に時間をすごしてたのに早瀬から連絡きたら動くのかってのを気にしてるってこと?

 もしくは私からの誘いだと思ってたのが早瀬からだったのが気に喰わなかった?

 なんにせよ、こうなったすみれに反論をするのは得策じゃない。

「……そうね。すみれの相手に忙しい」

 微妙に嫌味も込めさせてもらったけれど。

「そ、文葉は私といるんだから私のことさえ考えてればいいのよ」

 さっきまでの怠惰な時間なんてなかったかのように得意げに言うんだからかわいいやつだ。

「じゃ、早瀬には断りいれるけどせっかくだしどこか行く?」

「文葉がそうしたいのなら任せるわ」

 こうして何もやる気の起きない日に、外圧によってすみれと出かけることにはなったけど、改めてすみれは面白くてかわいくて、何より私に対する想いが強い女だと認識することになる出来事だった。    

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