今までのことからもわかるとおり彩音は結構能天気。
考えなしの行動は多いし、私やゆめなら悩むことをあっさりとやってのけたりもする。
そういうところのいらつきもすれば、惚れ直したりもするわけだけど、そんな能天気な彩音が珍しく落ち込んでいた。
「ふぅ……」
たまにある両親への顔みせから帰宅した私の目に映るのはベッドの上でため息をつく彩音の姿。
「どうしたの彩音?」
その回数が一度や二度じゃないこともあって私は軽い気持ちでそれを聞いてみた。
この後私を不快にさせてくれる展開が待っているなんて想像もしないで。
「さっきから手ばっかり見ちゃって、怪我でもしたの?」
「あー、いや別にそういうわけじゃないんだけどね」
「じゃあ、どうしたっていうのよ」
「うーん………」
彩音はなぜか考え込む。
(さっさと言いなさいよ)
今更私に話せないことなんてあるわけないんだから。
「ゆめに怒られちゃってさ」
「ゆめに?」
まぁ、ゆめは意外に短気よね。
「うん。爪整えろって」
「爪………?」
なんでゆめが彩音の爪のことなんてきにす……
「っ!!」
(もしかして、そういう……?)
それならいいづらい理由にも納得だけど……話されるのもそれはそれで複雑。
「しかも、勉強不足とか怒られたんだよね」
「………」
彩音がこういうやつなのは知ってるけど……
「まさかゆめにそんなこと言われるなんて夢にも思わなかったからびっくりしたっていうか……」
「…………まぁ、そうね」
「あれ? ちょっとスルー?」
確かに、ゆめがそんなこと言うとは意外。そういうの全然疎そうだし。
もっとも誰かの入れ知恵があったのかもしれないけど。
…………それはそれとして。
(そんなことを私に話してるんじゃないわよ)
聞いたのは私だけど、そんなことを話されて私がいい気分になるとでも思ってんの。
「言われてみればそうなんだけどさぁ……でもゆめに言われるとはね……うーん」
しかも、いつまでゆめ、ゆめ言ってんのよ。
大体私だってたまに思ってたわよ。けど、言うと悪いかなって思って黙っててあげたんじゃない。
そもそも私はいつも……
「あ、そういえば美咲はいつも爪綺麗だよね。もしかしてそういうの気にしてくれたりしてた?」
「……………」
ほんっとこいつは……
そんなの言葉にすることじゃなくて察しなさいよ。聞いてきてんじゃないわよ。
「あたしもさすがに気にしてみるかなー。またゆめに怒られても嫌だし」
(…………………襲うわ)
なんで【ゆめに】なのよ。喧嘩売ってんの?
私は最高潮にいらいらしながら彩音のいるベッドに近づいていって
「そのままでいいわよ」
「へ?」
「あんたは、私にされてればいいんだから」
唇の端を釣り上げながらそう言って私を不快にする唇を塞ぐのだった。