強い日差しが照りつける校庭の下。
通気性のよさそうな白の体育着に身を包んだ少女たちがぺちゃくちゃとおしゃべりをしながらまばらに散らばっている。
まだ授業が始まっていないが少し時間が経てばチャイムもなって授業が始まってしまう。
そんな中、一際小柄な少女が集団の隅で所在なさげに立っていた。
ゆめだ。
「…………」
ゆめは体育の時間が嫌いだった。
運動が苦手なわけではない。
というよりもその華奢な体躯に反し、実は得意といってもいいほどだった。特に個人競技であればクラスでも有数なほうだ。
あくまで個人競技では。
(……彩音)
ゆめは別の友達と話している彩音をじっと見つめる。
まだ友達になって日が浅いこの時、ゆめは自分から彩音によっていけるほど積極的ではなかった。
「はーい、集合―」
少しすると教師がやってきてそう叫ぶ。
ざわざわとした空気は変わらないが、言われたとおりに背の順に整列していく。
「…………」
ゆめはため息をついたわけではないが、これからのことを思うと無表情の中に暗さを見せる。
最初は今日の予定など話す教師だったが、すぐにゆめのいやな時間がやってくる。
「はーい。じゃ、二人組みになって準備運動してくだい」
「…………」
これがゆめの嫌いな時間。
ゆめが体育を嫌いな理由。
自分から誰も誘えないゆめは黙ったまま周りにグループが出来ていくのに取り残されていく。
そうして、それを見かねた教師が口を出してくるまで、ぽつんと立つのがゆめのいつも。……だった。
「ゆめー」
「……彩音」
しかし、この時は違った。クラスで唯一の友人、彩音が声をかけてきながら寄ってくる。
いつもは他の友達と一緒に組むというのに。
「一緒にしよ」
屈託のない顔で彩音はゆめの手を取った。
「……うん」
ゆめは嬉しいと思いつつも顔には一切ださずに頷いた。
「よ、っと」
「……ん、しょ」
初めは一人でもできる体操から入って少しすると、二人組になる。
今二人がしているのはお互い背中を合わせて、腕を組み相手を自分の背に乗せてのびをさせるというストレッチだ。
「んっ」
今は彩音がゆめを持ち上げている。
「やー、ゆめって軽いね。楽だわ」
数秒ほどで今度はゆめが彩音を持ち上げる。
「……ん……彩音は、重い……」
「重いとか言うな」
「……だ、って本当」
運動自体は苦手でないゆめだが華奢な見た目どおり筋力がそれほどあるわけでなく彩音を背に乗せるゆめの足は震えている。
「ったく、よっ、あんたらに比べたら、誰だって重いでしょうが。ま、こんな小さいんだから当たり前だけど」
「……ちっちゃくない」
「いや、それは否定しようないでしょ」
「……むぃ」
背中を合わせながらなので顔は見えないが彩音はなんとなくゆめは少し表情を変えているかなと予想する。
「……そういえば、彩音」
「んー?」
今度はゆめが彩音を持ち上げる中ゆめが、思い出したかのように呟く。
「……最近、よく私といる」
「そだね。それが?」
「……他の子、は?」
「他の子と一緒にいないのってこと?」
昔である今は、彩音もゆめのことが掴みきれずこうしてゆめの足らない言葉に確認を返すことが多かった。
「……うん」
「んー、まぁ、別に一緒にいないってわけでもないっしょ? ま、確かに最近はゆめといることのほうが多いかもしれないけど」
「……なんで?」
「なんで、って言われても困る、けど……まぁ、ゆめといるのが好きだからじゃない?」
「……………私も、彩音のこと、好き」
友達となってからまだ数週間と立たないこの日。
ころころと視線が変わる中、そろそろ体操の時間も終わりになったこの時。意味に齟齬が合ったが言われたのがゆめの彩音への初めての好きだった。