もういい加減にしろって程に繰り返されている時間。
ゆめと二人きりの時間。
そんな中で繰り返されるあたしとゆめのラブラブな時間。
「ね、ゆめ。お願いがあるんだけど」
ゆめの家に泊まりに着ていたあたしはお風呂から出てきたゆめにある提案をしようとしていた。
「……やだ」
のに、内容すら伝える前に断られた。
「え? ちょ、まだ何にも言ってないんですけど」
「……どうせ、わたしに変なことしようとするに決まってる」
「そんなあたしがゆめの嫌がることさせるわけないじゃん」
「……………」
うっわー、あたしってもしかして信用ない? そ、そりゃ今まで信用を失わせるようなことはしてないでもないけどこうして直に伝えられるとショックだね。
「……とにかく、ダメ」
ゆめはプイと可愛く顔を背けてしまう。そのままベッドのほうに向かおうとするけど、
「ま、ちょっと待っててば。ね、お願い。ゆめお姉ちゃん」
「…………」
あたしは甘えるような猫なで声を出して、わざわざお姉ちゃんなんていって見せた。
ゆめはこんななりなくせにあたしと美咲のお姉ちゃんでいたがっている。だから、こんな風にそこを刺激してあげれば。
「…………やだ」
あれ? 失敗。
「えぇー、そんなこと言わないでよー」
「…………あとでわたしのいうこと何でも聞いてくれるならいい」
「……何でも、ですか」
「……何でも」
あたしは、腕を組む。
なんでもかぁ。さすがにそれだと気が引けないでもないけど、ゆめは意外にへたれてるしそん時にごねればいいか。
美咲相手なら絶対頷かないところだけど。
「ん、わかった。じゃ、お願い聞いてくれるんだよね」
「……約束は守って」
「大丈夫だって。あたしがゆめとの約束をやぶるわけないっしょ。んじゃ、さっそく。はいこれ」
あたしは今まで体の後ろに隠していたものをゆめに差し出した。
「……なにこれ?」
それは、まぁ、見た目でいうならピンクの布切れ。そう布切れっていうような表現が正しいような衣類。つまりは下着。ま、一般的にいうなら
「キャミソール。これ着てくんない?」
「……お願いって、これ?」
「そ」
「……なんでこんなの持ってるの?」
「この前買い物いったら、なんとなくね。ゆめに似合うかなって思ったら買っちゃった」
「……こんなの、恥ずかしい」
まぁ、まともな感想だよね。
単純に下着姿を見られるのとはまた違う恥ずかしさがあるっていうのは理解できる。っていうか、だからこそゆめに着せたい。
「えー、さっきお願い聞いてくれるって言ったじゃん」
「……着ないとは言ってない」
それに、ゆめって意外にこういう可愛いのきたりしてるしだから、内心嬉しいんだよ。きっと、多分……おそらく。
ゆめはあたしから受け取ったキャミソールを手元に広げてまじまじを見ている。着た自分でも想像してるのかな?
「……着替えるから向こう向いてて」
「はーい」
ゆめちゃんのお着替えを見ていたいっておもう気持ちもあるけど、それいうと変態みたいだし、ここはやめておこう。優先順位を履き違えちゃいけないよね。
「…………」
背中の向こうで衣擦れの音が響く。
(……これは、中々)
振り返れば見える位置で、ゆめがパジャマを脱いで着替えてると思うとまた見てるのとは違うドキドキがある。
(……って、変態っぽいなぁ)
「……もう、いい」
「はーい」
あたしはなんとなく正座になってたまま振り返って
「…………」
思わず言葉を失う。
ピンクのキャミソールを着たゆめ。
透けているわけじゃないけど見るからに薄い布がゆめの平坦なボディを包んでいている。肩は完全に出てて、肩紐があるだけ。肩紐の付け根と胸のフロントにはちっちゃくて真っ赤なリボンがカワイさを際立たせる。
表情は変わらないように一件見えるけど、恥ずかしさでいっぱいな所はあたしと美咲なら見て取れる。
「ふ、ふふ……ふ」
さらには手を後ろに回してもじもじとしているところなんて、もう押し倒したくなるくらいに
バシ!
「あたっ! なにすんのゆめ」
「……こっちの台詞」
「なんでよ、ってあれ?」
確認しておくとあたしはさっきまでベッドからちょっと離れたところにいて、ベッドの前で恥ずかしがってるゆめを見てたはず。なのに今は
「……どいて」
今はなぜかベッドにいる。しかも、ゆめに覆いかぶさるような体勢で。
どうもいつのまにかゆめのことを押し倒していたみたい。
「わ、ごめんごめん」
って言いながらも体をどけないあたし。
「……変な事はしないって言った」
「いや、だからしないって。ほら、なんもしてないでしょ。こうしてるだけでさ」
うんうん。何もしてないよね。ただ押し倒しただけで、何もしてないよ。ほんと。
「うん、ってか。それより。可愛いよ、ゆめ。すごく可愛い」
「…………」
こうした体勢で見るとまたさっきとは違う魅力がある。
むき出しになってる肩に頼りなくすら見える細い肩紐。それに、薄いピンクの布に隠された胸に、露になってる胸元と鎖骨。しかも、押し倒されているのがやっぱ恥ずかしいのか、頬を染めてあたしから思わず目を背けちゃうところとか……
「……ペロ」
「みっ!!?」
バシ!! ハシ!!
あ、ごめん。今のは意識的にやりました。
思わずゆめお姉ちゃんの鎖骨のくぼみを舐めちゃいました。
あー、でもここは勢いでもっとしちゃおうかな。
だってこんな可愛いゆめなんてめったに見れないし。ま、ゆめはいつでも可愛いけど。
あたしは調子に乗って、キャミソールの肩紐に手をかけ……
「……どいて」
「う……」
にらむような視線。っていうかにらまれてる。
「あはは、ごめん。ごめん」
ここは退散したほうがいいかも。約束破るとあとでうるさいし。いっそ、約束なんてしてなきゃ勢いにまかせられたのに。
「あーあ。でも、ほんと可愛いよ。ベビードールとかもいいかなーって思ったけど、こっちで正解。あ、でも予想以上によかったし、やっぱりいつか……」
あ、あとネグリジェなんかもいいかも。他にも……
(夢が広がるねぇ)
なーんて、とりあえず今は
「……約束は守ってもらう」
これをどうするかが先決かなーと。
なんて思いながら、またキャミソールのゆめを見てはにやけが止まらないのだった。
「……寒い」
ゆめは鏡の前でそう呟く。
それもそのはずだろう。今のゆめの格好を見れば。この冬の日に下着姿だ。
「……恥ずかしい」
誰に見られているわけでもないのにゆめは鏡に映った自分を見てそう呟く。
そこに写っているのは彩音にもらったというか、着させられたピンクのキャミソールを着た自分だ。
普通に下着だけを身に付けているよりは肌を守る部分は多いが、肩は完全に出ているし生地も薄いので寒いものは寒かった。
しかし、ゆめは中々その姿から着替えようとせずに鏡に映る自分を見ていた。
可愛いよ。ゆめ。
そして、頭に彩音から言われたことを響かせる。
「……恥ずかしい」
またそう呟くゆめだったがその頬は少し緩んでいた。