ゆめと二人きりでデートをするっていうのは実はそんなに多くはない。出かけるときは美咲も一緒に三人だし、美咲がいないときは大抵どちらかの家で過ごすことが多い。

 しかも、ゆめは趣味とかもないもんだからたまに出かけても買い物とか、ウインドウショッピングをするとかもほとんどなくてどっかでおしゃべりっていうのがいつものデート。

「やー、でもゆめが服を一緒に見に来てくれるなんて珍しいよね」

 久しぶりのゆめと二人きりのデートで服を見に来ていたあたしたちは店内をうろうろとしながらそんなことを話す。

「……たまには、こういうときもある」

 さっきゆめとのデートは多くないっていったけど、こうして服を見に来るのなんて多くないどころかほとんど皆無だった。

 まぁ、その原因としては昔ゆめを誘ってこういうところに来たとき、婦人服売り場じゃなくて、女児用のほうに冗談で連れて行っちゃって以来ゆめが不機嫌になったせいもあるんだけど。

「お、これもいいんじゃない?」

 と、あたしは適当に服を選びながら今度はレースの付いた白のワンピースを探し出した。

「……みゅ、い」

 あたしはそれを取り出してゆめに合わせてみると

「うんうん、可愛い可愛い。ね、これも着てみてよ」

 と、ゆめの背中を押して試着室に向かっていく。

「……わかったから、押さないで」

「はいはい」

 ゆめを試着室に連れて行ったあたしは、さすがに一緒に入ろうとはせずに素直にゆめの着替えが終わるのを待つ。

 おっと、さすがのあたしもこんなところでゆめのお着替えを覗いたり、かすかな音に聞く耳を立てたりはしないよ。そんなことは家ですればいいし、今は何故かめずらしくゆめがあたしの進める服を着てくれるほうが大切だもん。

 何かで機嫌を損ねられても損だしね〜。

「……彩音、終わった」

 なんてことを考えてる間にゆめのお着替えが終わったようでゆめは試着室のドアを開ける。

「おっ……」

 と、そこにある可愛い可愛いゆめちゃんの姿に思わず感嘆の息をもらす。

「……むぃ」

 スレンダーなゆめに似合う白のワンピース。清楚な感じはゆめにあってるようなそうでもないような感じだけど、起伏なく上から下まで伸びる生地はゆめのらしさを余すところなく形にしていて可愛いとしか言いようがない。

 それに、端はスカートとはまた違ったギリギリ感があってたまんない。

(はぁ〜。これで大きい麦わら帽子とかかぶってたら最高だなぁ)

 夏の高原で、日差しに照らされながら風に飛ばされそうな麦わら帽子を押さえる。んでももって、それに気をとられて下ではワンピースの端がひらひらと……

「……彩音?」

「っは」

 あたしがいつものように微笑ましいことを考えてるとゆめがちょっと不安そうに声をかけてきた。

「……可愛く、ない?」

「いやいや、可愛いに決まってんじゃん〜。やっぱ、こういうのはゆめみたいにちっちゃいほうが似合うよね〜。美咲じゃこうはいかないし」

「……むぃ」

 そういえば、ゆめのこれって肯定してるのか否定してるのか、照れてるのか怒ってるのかよくわかんないよねー。まぁ、これはこれで可愛いからいいけどさ。

 なんてこと考えながらあたしはゆめが着替えてる間に見つけてきた新しい服をまたゆめに進めてみるのだった。



 一通りゆめをお着替えさせて楽しんだ後は、近くの喫茶店に入って休憩中。

 あたしが楽しませてもらったってこともあってゆめにパフェをおごってあたしはオレンジジュースだけを頼んで、ゆめの可愛い姿を思い返している。

「でもさ、めずらしいよね」

「……なにが?」

 嬉しそうにパフェを食べるゆめは行為はそのままにあたしにはちゃんと反応してくれる。

「ゆめがこういうのに付き合ってくれること。買い物とかはともかく、あんなふうに着せ替えとか家でもさせてくんないじゃん」

「……べ、別に、彩音のためじゃない。私が彩音に可愛いって言ってもらいたかっただけ」

「……はぁ、そう、ですか……」

 なんかだいぶ妙な言い回しな気がする。それに、最初なんで言いよどんでるんだ?

 なんて、気にはなるけど質問するようなことじゃないことを考えてたあたしはジュースに口をつけるけど、ゆめが食べるのを中断してあたしを見てるのに気づく。

 あたしが何? と聞いてみると。

「……彩音は、こういうのが好きなんじゃないの?」

「は? こういうって……え? どういうの?」

「……つんでれ?」

「はい?」

「?」

「いや、不思議そうな顔されても」

「……さっきみたいなのをつんでれっていうんじゃないの?」

「さっきって……」


「……べ、別に、彩音のためじゃない。私が彩音に可愛いって言ってもらいたかっただけ」


 これか? 

 まぁ、確かに最初のほうはそれっぽいけど……

「いや、大分違う気がするんだけど……」

「……そうなの?」

「最初はともかく、後半は全然照れ隠しになってないっつか……むしろデレてるだけのような……」

 しかしまぁ、ゆめも妙な知識をつけてきてるね。美咲がまた何か吹き込んだのか知らんけど。

「……でも、彩音はやっぱり変態」

「って、今度はいきなりなに?」

 たぶんゆめとしてはつんでれ? に関しての話題が尽きた上に自分が勘違いしてるっていうのを隠そうとしたんだと思うけどいきなりこんな罵倒される意味がわからん。

「……今日も私のこと、いっぱいちっちゃいって言った」

「はぁ……? まぁ、言ったかもしれないけど? それでなんで変態ってことになんの」

「……ろりこん?」

「ぶっ!? ちょ、なっ……ち、違うでしょ。全然」

「……でも、この前あの小さいのにも可愛いってすごく言ってた」

「は、はい? 小さいの?」

 【あの】ってどの?

「……この前、おまけで話してた」

「おまけって……悠里ちゃん?」

「……その小さいの」

「いや、確かに可愛いとは言ったけどさ、あれは」

「……それに、あの小さいのとも楽しそうに話してた」

 って、今度は誰よ。

 小さいのって言われても、っていうかゆめより小さいって言ったら悠里ちゃんくらいしか話してないと思うけど、本編でも、おまけでも。あ、本編は予定がないわけじゃないけどさ。それはまた別の話だし。

「えーと、今度は誰?」

 本気で心当たりないし、素直に聞いてみるしかないか。

「……あの小さいくせに、偉そうな小さいの」

「…………もしかして麻理子さん?」

「……それ」

「いや、ゆめのほうが小さいんだけど」

「……別に彩音から見たらどっちもちっちゃい」

「まぁ、そうだけど。っていうか別に麻理子さんとは話したけど、別に可愛いとは言ってないって。可愛いかって聞かれれば可愛いけど、あの八重歯とか小さいのに上から目線だったりするのも結構ツボだし、それに……」

「……やっぱり、ろりこん」

「って、違うってば。大体ほら、ちゃんと美咲のことだって好きなわけだし?」

 美咲は全然そういうのとはかけ離れてるじゃん。大体ちっちゃいとかちっちゃいくないとかじゃなくて、可愛い女の子を可愛いっていうのは当たり前だし、可愛いのが好きなのも当たり前だよね。

 うん、だからあたしはロリコンじゃ

「……別に、彩音がろりこんでもいい」

「いやだから、ちが……っていいんかい」

「……だって、彩音がろりこんなら、私は彩音の好み」

「はぁ……?」

 昔からではあったけど、最近はとくに妙なことを言うねこの子は。

 大体、ゆめなら別に小さかろうが小さくなかろうがどっちでも好きだっての。そもそも別にゆめの体が目的なわけじゃないんだし。ゆめっていう存在そのものが好きなわけでね。まぁ、小さいほうがゆめらしいし、あたしがいくら可愛いっていってもたまに胸がちっちゃいのとか気にしてそうなのとかはたまらないけど? それはあたしがロリコンだからじゃなくて、ゆめが大好きすぎるからなわけでね?

 でも、なんにせよ

「……彩音がして欲しいことは、私がしてあげるから。他の子のこと、可愛いって言っちゃだめ」

 なんか最近はゆめが大分デレた感じで可愛いなぁと。

 妙に可愛かったゆめとのデートをあたしは楽しむのだった。

 

ノベル/Trinity top