「ん……んん」
あたたかなベッドのぬくもりを感じ意識を覚醒させる。
起き抜けのベッドの暖かさ、特に休日のそれは筆舌に尽くしがたい幸福感が。
「………ん?」
その幸せな一時が今日は少し違うらしい。
と言っても珍しいことではないのだけれど。
「……おはよう」
「おはよう、ゆめ」
小さな恋人がいつの間にかベッドの中に入り込んでいた。
珍しくもないことでもないが、ゆめは意図のわからぬ行動をすることはあれどそこにはゆめなりの意味はあるはずだ。
特に私相手では。
「どしたの今日は」
「……むー。今日は……暇」
「ん? それで遊びにでも誘いに来たっての? ま、私も特に予定ないからいいけど」
ゆめにしてはひねりもない普通の理由だと思ったが、ゆめは小さく首を振った。
「……そういうわけではない」
「じゃあ、何よ」
「……美咲が何をするか見る日にした」
「はぁ? なによそれ」
「……美咲は好きにしてればいい。私は美咲がすることを見てる」
「よくわからないんだけど」
「……私は気にしないでいつも通りでいい」
結局よくわからないままだけれど、どこか行くとか何かするじゃなくて私の見る?
なんとなく言いたいことはわからないでもない。こうして一緒に棲んではいても普段何をしているのか完璧に把握しているわけじゃないし、そういう所も含めて何をしてるか気になるといったところなんだろう。
ただ興味はあったとしてそれを行動に移すのはゆめらしいというか。
「ま、よくわからないけど、好きにしなさいな」
そう私は軽い気持ちで答えていた。
◆
朝のことから数時間。
午前中とお昼が終わって、私はなんとなく居心地の悪さを感じていた。
ゆめがほんとに私の様子を窺うだけなのだ。
それに対して感想を漏らすこともないし、家事をしていても食事をしていてもテレビを見ていても視線を感じ続けるというのは面白いものではない。
いくらゆめに見られて困ることはないとは言えそういうのとはまた別の感覚なのだ。
今更やめろというのもゆめが素直に聞かない気がするし。
(さて、どうしたものかしらね)
御飯用のテーブルの対面で向き合うゆめを見ると、ゆめもそのまま視線を返してくる。
つぶらな瞳は相も変わらず純粋さをにじませている。
何を考えているのか、案外何も考えていないのかもしれない。純粋に私がどう一日を過ごすのかを気にしているのか。
このままというのはゆめがどう感じるかはともかく私は面白くないのよね。
私が楽しくなるには…………
視線をゆめから外すとリビングにいる彩音を見る。
(……試させてもらおうかしら。どう転んでも面白そうだし)
「彩音」
私はもう一人の恋人を呼ぶと、椅子から立ち上がる。
「んー、なに」
「来なさい」
そのまま彩音に近づきはせずに向かう先は
「来なさいっていうか、あたしの部屋なんですけど」
彩音の部屋。
「そうよ、何か問題?」
彩音の部屋は私の部屋と言ってもいいんだから。というか互いの部屋がだけれど。
「別に、ってかゆめもついてきてるけど」
「そうでしょうねぇ」
「?」
腑に落ちないという様子の彩音を私はベッドへと連れて行くと
「え? あの?」
疑問なく私の言葉を受けて仰向けになった彩音にまたがるとようやく彩音は少し焦って見せた。
「なに、なんなの?」
自分だってたまにこういうことしてくるくせにされると戸惑いを見せるなんて勝手なやつ。
もっとも訳も分からず馬乗りになられればそうもなるかもしれないけれど。
「別に、なんでもないわ」
「いや、だから意味わかんないんだけど。ね、ゆめこれはなんの遊びなの」
ベッド脇で私たちを見るゆめに助けを求めるもゆめは
「……気にするな」
「今のところ」最初の誓いを守っているようでよけいなことは言わずにいるゆめ。
私はそれを確認すると手を伸ばしていって
「え、ちょ」
彩音の胸に触れた。
服の上、片手には収まらない豊満な胸を軽く揉みしだくと
「いやいやいや、何してくれてんの」
さすがに彩音は抵抗を見せて私の手を振り払う。
「何って彩音の胸を触っただけじゃない」
「なんかすべてにおいて言いたいことしかないんだけど、人の胸は勝手に触っちゃいけないものだと思うんだけどねぇ」
「人の、じゃなくて彩音のよ。彩音あんたは自分の体を触る時に許可を求めるの?」
「意味わからん」
「彩音は私のなんだから許可はいらないのよ」
「めちゃくちゃな暴論なんだけど」
「あんただっていつ私に触ってもいいのよ。だから……」
と今度は体を倒していき、抵抗できないように腕を抑える。
「大人しく私のされるがままになりなさいな」
「みさ……っ」
有無を言わせず唇を奪った。
「ん、ちゅ……ん、ぷ…くちゅ、ん……くゆ……ん、ふ、ぁ」
舌を突き入れて積極的に絡めていく、何度しても変わらぬ充足感の中、
(…ふーん)
視線をずらしてゆめを見ると意外にもゆめはおとなしく私たちの行為を見守っていた。
ゆめの性格なら止めに入るかと思ったけれど存外朝の自分の行動に真面目に従っているようだ。
「っ……ぷは」
そんな思考をしながらも彩音には手を緩めず濃厚なキスを終えると、彩音は真っ赤な顔をして息を整えている。
「は、っ……あ、ちょ、だから、なんだんだっつの」
「何ってキスじゃない。そんなこともわからないの?」
「だからそういう意味じゃないって。ね、ゆめ、美咲がおかしいんだけど、何なの」
「……………」
ゆめは沈黙を返す。さっきとは違う反応。つまりはそういうことなんだろう。
「ゆめのことは気にしないで、私たちがどれだけ愛し合ってるか見せつけてあげましょ」
「だからっ……んっ」
再び胸に手を這わす。
(ま、ゆめがどう反応しようとかまわないわ)
このままゆめがほんとに見てるだけになってもそれはそれで優越感というかまぁ面白い。
そうじゃなくても
「お、っと……」
(ま、ゆめならこうなるわよね)
ベッド脇にいたゆめはいつの間にか私たちに近づいていて、私の手を制止した。
「ゆめ…」
のんきな彩音はゆめが私の暴走を止めたようにでも見えたのかもしれないけれど。
「……二人でいちゃいちゃするな」
「あら、今日は私のすることを見てるんじゃなかったの? せっかく私と彩音の仲良しなところを見せてあげようとしたのに」
「……美咲がわざと見せつけてくるからもう終わり」
「あら、ばれてたのね」
「あのー、お二人さん?」
彩音は事情を知らずに私たちの会話を聞いて疑問しかないようだけど、これからの的確に推察してたらこんな反応にはならないでしょうね。
だって
「それじゃ、二人で彩音のこと愛してあげましょうか」
「……うむ、そうする」
こうなるのは予定調和なんだからね。
「あ、え? ちょ、二人とも…んっ……」
そうして私たちは何も知らない彩音とたっぷり愛し合って予定のなかった一日を幸せに過ごすことになった。