「あ、あの、ときな………」
絵梨子はベッドに座りながらひどく頼りない心地でいた。
「ほ、本当にしなきゃだめ?」
それもそのはず。今絵梨子は何も身に着けていない。生まれたままの姿でベッドにいる。
「言うことを聞くって言ったのは絵梨子よ?」
正面にいるときなは衣服を身に着けたまま絵梨子を高圧的な目で見る。
「そ、それは……そう、だけど」
確かにそれは言った。ときなのいうことを聞くと。
何か買ってとおねだりされることから、こうしたことも多少想定には入っていた。ただし、
「……じ、自分でする、なんて………」
これは想定外だった。
ときながまず要求したのは、絵梨子が自慰をするところを見せてということだった。
「何? 慣れてるんじゃないの? どうせこのゲームをしながらしてたんじゃないの?」
ときなはあくまでも威圧的だ。自分というものがありながら、ゲームに現を抜かされたということが自分でも意外なほど癇に障っていた。
「そ、そんなことは……」
ない、わけではない。
絵梨子とて人間でそういうものを目的としてゲームをしていたわけでなくとも、そういう気分になってしまうこともある。
ときなとこんな風にと思ったことだって。
「ほら、やっぱり」
「っ………」
ときなの挑発に絵梨子はかぁっと顔を赤くする。
「その時みたいに素直にすればいいのよ。ただし、私のことを考えながら私の前でね」
「うぅ………」
好きな人の前で、好きな人に見られながら自分を慰める。
その相手と幾度となく肌を重ねてきたとはいえ、そのことと今からしようとすることはまるで別だ。
だが、ただ謝ったところでときなが許すことはまずない。それはこれまでの経験で骨身にしみている。
だから絵梨子の答えは
「わ、わかったわよぅ……」
こうするしかなかった。
「そう」
ときなはにやりと笑う。
「じゃあ、しなさい。絵梨子がはしたなく自分でするところを見ててあげるから」
さっそく絵梨子の羞恥心を煽る言葉を発しながら。
「っ……ふ、……あ、あ………」
緊張で息が詰まりそうな絵梨子だが、おずおずと左手を自分の胸に持ってくる。
「ん…、ふぅ……ん」
柔らかな乳房に細い指を沈み込ませ、ゆっくりと揉んでいく。
「っはぁ……あぁ……」
自然と熱のこもった息がこぼれる。
(やだ……からだ、熱い……)
まだ始めたばかりなのに体が火照ってるのを感じる。いや、もしかしたらする前からかもしれない。
好きな人に見せるという特殊な状況が絵梨子の体を敏感にさせていた。
さらには
「ふふ絵梨子、いやらしい顔してるわ」
「っ……」
ときなの目が、言葉が絵梨子を刺激した。
「ほら、手を休めちゃだめよ? ちゃぁんと見ててあげるから。それと、声も抑えちゃだめよ」
「ん……あ、ぁ…あぁ」
ときなに言われるまま絵梨子は胸を揉みし抱き、徐々に指を胸の先端に持っていく。
(ふぁ……もう)
指が胸の先端にたどり着く。そこはすでに真っ赤に充血し、絵梨子の興奮の度合いを示していた。
「ひぁ…ああぁあ、んっ、はあぁ」
ときながよくするように薬指と親指で乳首をこすりながら残りの指で乳房を揺らすと、ゾクゾクと背筋に快感が走る。
(ときなが見てるのにぃ……)
と、そう思えば思うほど絵梨子は指の動きを止められずに体が熱さを増すばかり。
「あぁ……ん、は、ぁぁ……あ……」
胸への刺激だけでも達してしまいそうなほどの感覚にさらされているとふと、ときなと目が合う。
いつもはどこか冷めていることも多い双眸が絵梨子を射抜く。
(……ときな……ぁあ……ときなぁ)
その視線に導かれるように絵梨子はもう一方の手を両足の間へ持っていった。
ぷちゅ。
「んっぁ……ふぅ、あぁ」
チュプン。
周りを少し触るだけで粘着質のある音がして、ほんの少し力を込めただけで指が中に吸い込まれていった。
「だ、だめ……ぁあぁ…あんっ……だ、めぇ…はぁあ」
口ではそう言いながらも絵梨子の動きは止まることなく、指にはぬめりのある液体が絡みつき、それが外に溢れて股間を濡らし、ベッドに染みを作っていく。
「大洪水ね、絵梨子。いつもこんなにしてたら後が大変なんじゃないの?」
そしてタイミングを見計らったようなときなの一言。
「い、いつもは……こんな………」
「ふーん。なら絵梨子は私に見られてると興奮していつもより感じちゃうっていうことかしら?」
「っ――」
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。
ときながわざと挑発してきているのはわかっている。それが恥ずかしくてたまらないのにその中に気持ちいいという感覚があるのは体が示してしまっている。
「……ちゅ」
「ふぁ……?」
急にときなにキスをされた。
「大丈夫よ。いつもの絵梨子も、エッチな絵梨子も全部大好きな、私だけの絵梨子なんだから」
「ときな……んっ」
もう一度、キス。
「あむ……ちゅぅぅ、ちゅむっ……ちゅぱぁっ」
絵梨子の口内で激しく舌を絡ませ、その余韻が二人を銀の糸となって互いの唇を繋ぐ。
「だから、もっと絵梨子のエッチなところを見せなさい」
優しく、しかしどこか高圧的に微笑むときな。
「ぁ……」
一瞬呆ける絵梨子だが、それを合図にしたかのように指の動きを再開させた。
「ぁああ……っうぁあ、はぁあ! ぁ、っあ……ぁあっ」
尖る乳首をこすり、秘裂の中を弄る。
「あぁ……だめ…ぁあ……あぁ……すごくて、…にゅあ…あっ」
胸にも股間にも甘い電流が走り絵梨子は時折体をビクつかせ、時には浮かせる。
(ぜ、全然ちが、う……)
ゲームのことは関係なし、ときなを想ってしたことはある。だが、これほど感じたことはない。
(あぁ……ときな……ときなが……)
何度も言うようにたまらなく恥ずかしい。ときなの前で自慰に耽る自分、ときなに痴態をさらしながらあられもなく喘いでしまう自分。
死んでしまうくらいに恥ずかしい。
だが、それ以上にときなに見られているという点が甘美なスパイスとなり絵梨子の快感を極致へと持っていく。
「も、…う……ぁあぁっ! ひあぁ……」
「いいわ、絵梨子。見せて、絵梨子のイくところ」
「そんな風にいわない…でぇ……あぁあ、っ」
ピンと張った乳首を指で弄び、秘所では自らの指をしめつけ悦楽を得ようする。
(も、う……わかん、ない)
これがときなに言われたからしているのか、それとも自分の意志なのか何もわからず、わからないままときなに反論もできずに
「あぁぁ、や……んっああ、あぁああ。ふぁああ!!」
ビクンビクンと体を震わせて達してしまった。
(イっ、っちゃ………た)
ときなと肌を重ねた時のような大きな絶頂ではないが、一人でした中では間違いなく一番激しいもの。
「はぁ……あ……」
達した絵梨子はベッドに横になってくたーっと脱力をする。
「っは……ぁ……はぁ」
(気持ちよかった……けど。は、恥ずかしかった……)
絵梨子はそれを考えざるを得ない。自慰をしていた時も同じことを思ったが、こうして体が落ち着いてしまうとなおさらそう思ってしまう。
これまで生きてきた中でも一番の辱しめだったかもしれない。
(だって、ときなの……前でなんて……)
それを自分で思うだけでも一層羞恥が掻き立てられるというのに
「可愛かったわよ、絵梨子。すごくいやらしかった」
当然のようにときながそれを煽る。
「……うぅ……」
今は優しく髪を撫でてくれているが、その手は慈しみを持ちつつも絵梨子の心をいやしてはくれない。
(どうしてここまでされなきゃいけないのよ〜)
確かにときなに悪いとは思うわよ? けれど、本当にそういうシーンが目的なわけじゃないんだし、悪いとは思うけれど、実際に悪いことをしたわけじゃないじゃない。
(そ、そうよ。よく考えたらときなの言うことを聞かなきゃいけない理由なんてないわ)
絵梨子は自分のことを棚に上げ、横たわったままときなのことを強い視線で見上げて。
(仕返し……しちゃうんだから!)
絵梨子はそう決意するやいなや体を起こすと
「っ、えり……んむっ!」
腕を捉えながらときなの唇を奪った。
「あむ……ぢゅる…ちゅぷぁ……くちゅ」
素早くときなの口腔に舌を突き入れると、驚くときなの中をむちゃくちゃにかき回す。
「ふっん、っぱぁ……は、え、絵梨子?」
「んふふ……今度は、ときなにしてあげるわ」
言いながら二人の唾液に濡れた舌でなめずりする絵梨子。
「……ん、っく」
その妖艶な姿に息を飲むときな。時間にすればわずかな隙だったがそれを見逃す絵梨子ではない。
「ひゃ……ん」
絵梨子はときなの腕を掴んだまま体重を前にかけてベッドに押し倒す。
「ぁ、ぅ……ん、ぁ、え、絵梨子……や、やめなさいよ」
「だーめ。あむ……ちゅ。ぺろ…今度は私の番」
首筋をくすぐるように舐めながら絵梨子はにやりと邪な笑みを浮かべた。
「わ、私の言うこと聞くって約束でしょ」
「それなら聞いてあげたじゃない。すっごく恥ずかしかったのよ? だから、今度は私がときなのこと好きにするの」
「あ、あれは今日中ってい……みぅ!?」
抗議をしている間にも絵梨子の手はときなの下半身に伸びて、あっさりとパジャマを脱がせ、ふとももから体の中心へと指を進めた。
「ぁ……あぁぁ……」
ときなの切なげな声。
(ほら、やっぱり)
その声と聞いた、ショーツの中に潜り込ませた指の感触に絵梨子は心の中で勝ち誇る。
仮にも愛している相手が目の前で自慰をしていたのだ。それを見ておいて、体が全く疼きませんでしたなどとは言わせない。
「まだ触ってもいなかったのに、こんなにびしょびしょにして、エッチなのはどっちなのかしら?」
「あぁ…あ、ゆ、指……そんな、に……ぁ」
ショーツの中を軽くかき回すだけでときなは扇情的な声を上げる。ほんの数分前まで余裕たっぷりに絵梨子をもてあそんでいた面影はすでになく絵梨子に翻弄される一匹の子猫がいるのみ。
(ふふふ……これよ。これ)
ときなの姿に絵梨子は体の奥がさきほどとはまた別の熱を持つ。
(エッチだったら絶対に負けないんだから)
これまでだって、行為に入る前はときなが強気なことはあったがいざすればときなが絵梨子に対抗できたことはない。いつだってときながネコで絵梨子の好きにされるのみ。
少なくてもこれまではそうだった。
「ほらほら、指、二本とも簡単に入っちゃったわよ? すっごくぬるぬるであったかい」
「あぁ…っうぁ、はあぁ…え、えりこぉ……あぁ」
「おっぱいもツンてしちゃって可愛い。はむ」
「ひぁあ、ち、乳首……だ、め……」
「心配しなくてもこっちもちゃんとしてあげる」
そういって膣の中に入った指を荒々しく動かす。
「あぁあ、ぅあっ! っくぅ、ん……みぃう、はぁあ」
その情熱的な愛撫にときなの頭は痺れていく。脳が焦げ付き、体には甘美な電流が流れる。
(このまま、まずは一回。けど、一回じゃ許してあげないんだから)
二回、三回……いや、それ以上と絵梨子がよからぬ妄想をしていると
「ひゃぁ!?」
甲高い声。
ときなのものではない。
「あ……ぁ……ふ、ぁあ……」
絵梨子があげたものだ。
「あぁ、あ、と、ときなぁ……」
ときなの指が絵梨子の秘洞に付き入れられる。
「んぁ、あ、そ、そこ、は………」
しかも、絵梨子が感じてしまう場所を的確に刺激していた。
「んふふ、絵梨子はここが弱いのよね」
中にいれて五センチほど、少しくぼんだそこをときなはつつくように指でなぞる。
「あぁ、あ……ぁ、な、なんでぇ」
その通りだった。ときなにそう伝えたことなどあるわけないが、ときなの指が当たっている箇所は一番いいと思ってしまう場所。
「それと……」
獲物とらえる肉食動物のような目で絵梨子は
「あむ」
と、耳たぶを優しく噛んだ。
「こっちを一緒にされるのも好きなのよね」
「ひぅ! あ、んっ……やっ……ぁあ」
絵梨子の自白を待つまでもなくその反応を見ればわかる。
頭がスパークして白く染まり、達したばかりで敏感になった体には力が入らず悦楽が駆け抜けるのみ。
(ど、どうして……こんな、に……)
気持ちいいのか。
感じるところを責められているのだから当たり前ではあるが、なぜときながそれをこんなにも的確にできるのかがわからなかった。
が、ときなは絵梨子の心を見透かしたように
「絵梨子の弱いところなんて全部わかってるのよ? ただ、今までは絵梨子の好きにさせてあげてただけ」
と言った。
ある意味それは優しさからくる言葉なのだが、同時に絵梨子の自尊心を奪うものでもあった。
普段の生活では絵梨子のほうがまるで年下のように扱われ、それが嫌ではないが複雑なところもあるのは事実。エッチの時にはそのことを発散するかのようにときなを好きにしていたのだが……ときなの言葉が本当であるならそれすらも気を使われていたということになってしまう。
(ま、けないんだからぁ)
ときなの言葉が真実かはわからない。今回のきっかけのことにまだ怒っていて絵梨子を懲らしめようとしているのかもしれない。
だが、どうだとしてもここでときなにされるがままになってしまったら今後、すべてのことでときなのされるがままになってしまう気がする。
それを無意識に察した絵梨子はときなへの責めを再開した。
ぢゅく、じゅぷ、ぐちゅ。
指を激しく出し入れさせ淫猥な水音を響かせる。
「っ、はぁあ、ぁあ」
「ほら、気持ちいいいでしょときな。私だってときながどうされるのがいいかなんて全部わかってるんだか、あぁっ!?」
「こっちこそ……言ったでしょ。どこがいいのかなんてわかって。ほら、こっちも」
「ぁ、あぁあ、んっ……はぁ……ん。っ」
(ま、まけないから)
二人とも無意識に体を寄せて胸を合わせ、互いに相手の中にある指で高め合う。
『んゅ……ちゅ、ぶ、じゅぷ…あぁ、ぷぁ……んっは』
かと思えば、外で舌を絡めあう激しいキスで唇と言わず体までを互いの唾液で濡らす。
(うぁああ、やば……よすぎて、もう、きちゃう……さっきイッたばっかりなのに、また来ちゃう)
頭の中がときなで埋め尽くされていく幸福な感覚。それがはじけて真っ白になってしまう。そんな絶頂がもう目の前。
(けど……)
「っ! あ、え、絵梨子ぉ……あぁ、だ、だめ……そこまで、なんて…あはあぁ」
「ぁは、あ、ほら……クリトリスも一緒にしてあげる。私のことしか考えられなくしてあげる」
「っく、きゅ…ああぁ、ぁはっ」
「ときな……エッチな顔……真っ赤になって……目もトロンとしちゃって、可愛い…あはぁ。ん、ぅ……」
「ぁ、あ、っん……絵梨子、こそ……なによ、っは、あその顔、やらしい……っは」
相手の声が、反応が、果てしなく自分を高めるスパイスとなる。
「はぁあっ……ああ、もう私……、だめぇ……う、ぁっあ」
「わ、たしもよ……えりこ、んっ、くぅん。い、っしょに、イきましょ」
「う、ん…あは、あ、ときな……うん。っふぁ、一緒、に……」
指が中を往復するたび、二人には火花が散ったような官能の嵐が吹き荒れる。そのまま快感の波に揺られてしまいたいとも考えるが、それ以上に相手のことを悦ばせたいと二人は動きをとめることはない。
「ぁ、ぁああ、っ、あ、く、くる……ほん、とに、も、う……っ」
「わたしも、私も……ああぁあ」
二人の声が徐々に切羽詰ったものになっていき
「ぅ、あ、え、えりこぉ…っはあぁ、ぁあああぁあ!」
「ときなぁ………あ、はぁ…う、はぁああはぁあっ!」
二人でしかたどり着けない一番の高みへのぼりつめた快感に体がはじけた。
「っあ……はぁ……」
「ふぁ……ぁは……」
エクスタシーの余韻に浸ることもなく、二人は体を寄せ合うと
「ちゅ……」
口づけを交わす。
触れ合った肌はまだ火照っているがその熱が心地いい。
「っはぁ……」
触れ合わせるだけだった口づけを終えると二人ともベッドに頭を落とし、愛しい顔を見つめあう。
「どう絵梨子?」
「? どう、って?」
「私の方がいいでしょ。そんなゲームなんかより私の方が絵梨子のこと悦ばせてあげられるのよ」
「って、まだそれ言ってるの」
さすがに少しあきれてしまう。途中からさっきのゲームのこと云々は口実なのかなとすら思ったのに。
「結婚したのにゲームとはいえ他の子に現を抜かされたんじゃ妻としてのプライドにかかるわ」
「………ふふ」
(やっぱり、ときなって可愛い)
先ほどは多少強気になっていたが、やはりまだまだ年下だなと思わせてくれるところもある。
(このギャップもときなの魅力よね)
「んっ……」
改めてときなへの愛しさを確認した絵梨子は再びときなへと口づける。
「えぇ。もちろん、ときなだけが最高よ。だから、もっと貴女を感じさせて」
二人の夜はまだまだ終わらない。